「外国人観光客のせいでホテルの料金が高くなってる!」 SNSに飛び交うインバウンド批判がお門違いな理由

各国共通の価値観  円安の影響もあり、日本に「インバウンド」の名の下、外国人観光客が殺到している。東京や大阪ではすれ違う人間の多くが外国人だ。かつて「お金を使ってくれてありがとう」的な風潮はあったものの、昨今、「外国人のせいで京都の混雑が過熱している!」「外国人のせいで東京の宿が高くなっている!」といった怨嗟の声がネット上で巻き起こっている。 【写真】観光客の急増が原因? どこも満員の渋谷駅周辺の公共トイレの様子  とはいっても、このような意見をSNSなどに撒き散らすのはいかがなものか。人は移動の自由があるわけだ。そこを批判するのはお門違いである。  米大リーグの試合を見ても、大谷翔平のことを見たい日本人が大勢球場に押しかけている。それについて「アメリカ人のための席を日本人が奪っている!」などとアメリカ人が言ったらそれは我々としても「いや、正規にチケットを買っているのですが……」と言いたくなるのではなかろうか。これは、差別でもなんでもなく「お金を払えば自由に行動できる」という各国共通の価値観である。 ホテル代の高騰は確かに凄まじいが…  そんな中、円安で物価が安過ぎる割にはクオリティが高い日本は海外の人からすれば素晴らしい観光地であり、そこに押し寄せるのは当然のことである。そこに「外国人のせいで京都では渋滞が起きている!」などと文句を言うのはいかがなものか。 衰退途上国  過去にスペイン・バルセロナで「観光公害」が取り沙汰され、「観光客は来るな」といった垂れ幕を掲げたりする動きもあった。果たして日本が「Foreign tourists shall go back to your country,never come again!」などという垂れ幕を出したら世界はいかなる評価をするか。  完全に排他的な後進国扱いをすることだろう。バルセロナの件も、あまりにも狭量であると批判を浴びたが日本も同様の評価をされかねない。だったらどうすればいいかといえば、現在の安過ぎる日本の物価を二重価格にすればいいのだ。  そのためには、我々日本人は「世界2位の経済大国である」という過去の栄光を捨て、「我々は『衰退途上国である』」と開き直るしかない。正直、欧米各国を訪れた日本人が「朝食が4000円です!」「ラーメンが5000円です!」などとSNSに悲鳴を書く事態は、もはや「衰退途上国」以外の何物でもない。  それは逆の意味でいえば、日本は海外の人々からすれば、実にクオリティの高いサービスが安価に提供されるという「外国人天国」であることを意味する。  だからこそ、我々日本人は、今の状況を理解したうえで、外国人観光客が多過ぎることを「屈辱」と捉えた方がいいのである。何しろ、安過ぎる国というのは、豊かな国の人々からすれば、「行きやすい国」なのだ。 貧乏であることを認めるべき  それは経済格差の面で仕方がない話だし、だからといって「外国人は来るな!」といった排外主義に染まるのはいけないことだ。誰もが来られるような状況こそ人権を意識した話である故に、「外国人が多過ぎる!」とキレる以前に、我々は賃金と物価を上げることに尽力すべきである。  そして、それができないのであれば、プライドをかなぐり捨て「二重価格」の導入が必要となるだろう。世界の観光地では、外国人に対してはそれなりのカネを取るが、自国民は無料で入れたりする。それを導入すべきなのである。  飲食店やホテルにしても、「観光税」といった形で裕福な外国人に対しては追加の料金を取ることを決めた方がいい。それぐらい日本人はもはや貧乏人だらけなのだ。そして、外国人が「日本は安くてサービスもいいし、すべてのクオリティが高い!」とネット上で絶賛のコメントを書く。  これを屈辱と捉えるのではなく、「だったら裕福なあなた方からはたくさんもらいますよー!」といった方向に舵を切ればいい。「外国人は来るな!」などと差別的なことを述べるよりも、「我々は貧乏なので、あなた方裕福な人が沢山お金を払ってくださいね!」となればいいのである。いつまで先進国ぶって二重価格を導入しないのだ。    タイの寺院では外国人は1200円ほどを払うが、タイ人はタダである。日本人は貧乏であることを認めない限り、妙な差別主義が蔓延するばかりである。 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。 デイリー新潮編集部

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