日本競輪選手会に所属し、「ガールズケイリン」と呼ばれる競輪選手だった女性が、先輩の男性選手から繰り返しセクシャル・ハラスメント行為を受けたとして、選手会などに調査と処分を求めたが、選手会側が「調査の上、ハラスメントではない」と判断していたことがわかった。 女性は10月30日、加害者の男性競輪選手と選手会に対し、計約2100万円の損害賠償を求める訴えを神戸地裁に起こした。 提訴のため、神戸地裁に訪れた被害者の女性と代理人弁護士〈2024年10月31日午後 神戸市中央区〉※画像の一部を加工しています 訴状などによると、女性は30代。一般社団法人・日本競輪選手会の関西地区の支部に所属していた2021年10月、先輩の男性選手(当時40代)に大量に酒を飲まされ、無理やりキスをされたり性行為を強要されたりするなど10件の性被害を受けたとされる。 女性は選手会に被害を申告し、男性選手への聞き取りが行われたが、選手会は今年(2024年)1月、「裁判で白黒つけてからの話」と判断を回避した。 女性は9月に再調査を求めたが、選手会は10月1日、「同意がなかったとは言えない」として男性を不処分とし、女性に通知していた。 女性は被害を受けた後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、レースを長期欠場せざるを得ない精神状態になり、10月23日付けで退会届を出し、選手を引退した。 ■「バレたら地獄」口止めも? 女性は選手会に対し、詳細な実態調査やハラスメント防止対策を示すよう求めたが、ハラスメントとして認定していなかったことを理由に、聞き入れなかったという。 さらに男性選手から「このこと(性加害)をバラしたら地獄やからな」と、事実上の“口止め”を強いられたことを明かした。 女性(写真右)はファンのため、レース復帰を目指したが、十分な実力を発揮できない精神状態に ■有力選手に従うしかないのか 訴状では選手会について、「セクハラやパワハラが横行している事実の把握を怠り続け、事件が発生した」などと指摘している。 さらに、セクハラ行為が起きた背景について、「選手として強ければ何をしても良いという空気が形成されていた。その他の選手は、こうした有力な選手の言うことに従うほかなかった」としている。 ■性被害の申告、勇気とエネルギーが… 女性は提訴後、「被害申告するにも勇気がいる。裁判を起こすのも、とてもエネルギーがいる。しかも競輪選手としての道を諦める無念と悔しさもある。最大限のパフォーマンスを発揮できない精神状態になってしまったことが、競輪ファンの皆さんに申し訳なく、志半ばで引退を決意した」と話した。 そして、「競輪界では以前から有力な男性選手による支配的関係があり、パワハラやセクハラが横行していた。加害者(男性選手)は今ものうのうとレースに出ているのかと思うと、『見えないナイフで刺される』くらい苦しい気持ちだと涙ぐんだ。 女性は提訴に際し、相当な重圧があったが「これ以上、性被害に苦しむ人々が生まれないように」と語った ※画像の一部を加工しています また、提訴を決意した理由について、「ハラスメントやいじめをなくすために、誰かが声を上げないといけない。私が世の中にに訴えかけることで、こうした性被害を受けて“泣き寝入り”している人たちの背中を押すことができれば」と語った。 「私は引退を余儀なくされ、加害者(の男性選手)は今ごろレースに、『見えないナイフで刺された』気分」と打ち明けた 原告代理人の今西雄介弁護士は「選手会は競輪界の支配的な上下関係を理解しているはず。非常に閉鎖的な環境、しかも圧倒的に男性が多い社会で、女性に対する配慮や、ハラスメントへの意識が欠けている」と厳しく指摘した。 提訴を受け、一般社団法人・日本競輪選手会は、「今回の女性選手の件に関しては、これまで誠実に対応してきましたが、訴状はまだ届いておりませんので、内容が分からないため、コメントは差し控えさせていただきます」とコメントしている。 また男性選手に対して代理人弁護士を通じてコメントを求めたが、10月30日午後9時現在、回答はない。