【合田直弘(海外競馬評論家)=コラム『世界の競馬』】 ◆同騎手、同調教師、同馬主で4連覇の可能性も… 今年で41回目の開催を迎える米国競馬の祭典「BC」が、11月1日と2日にカリフォルニア州のデルマー競馬場で行われる。 最大の注目は、総賞金700万ドルをかけてあらそわれるメイン競走のG1・BCクラシック(d10F)だが、これに負けず劣らず豪華なメンバーが揃ったのが、芝1マイルであらそわれるG1・BCマイルである。 舞台が西海岸の年は、ヨーロッパ組があまり大きな勢力にならないと言われてきたが、今年のBCマイルはまず、ヨーロッパ勢の顔触れが豪華だ。 その筆頭は、ゴドルフィンのノータブルスピーチ(牡3、父ドバウィ)である。デビューしたのが3歳を迎えた今年になってからで、1月27日にケンプトン競馬場のオールウェザートラックを舞台としたメイドン(AW8F)に出走。 ここを1.1/4馬身差で制し、緒戦勝ちを果たした。その後も、ケンプトン競馬場のオールウェザーを2戦し、いずれも勝利を収めた同馬の、デビュー4戦目となったのが、5月4日にニューマーケット競馬場で行われた、英国3歳三冠初戦のG1・英2000ギニー(芝8F)だった。 すなわち、同馬にとっては重賞初挑戦となったのがクラシックレースで、しかも、そこが初めて走る芝のレースだったのである。ノータブルスピーチは、この異例のローテーションで挑んだG1・英2000ギニーを制し、無敗のクラシック制覇を果たした。 続くロイヤルアスコット競馬場のG1・セントジェームズパレスS(芝7F213y)で7着に敗れ、同馬の連勝はストップ。しかし、古馬との初顔合わせとなったグッドウッド競馬場のG1サセックスS(芝8F)では、前走とは見違えるような鋭い動きを見せ、後にG1・クイーンエリザベスII世S(芝8F)で2着になるファクトゥールシュヴァル(セン5、父リブチェスター)ら古馬の精鋭を封じて完勝。 2度目のG1制覇を果たした。このレースで同馬が見せた瞬発力は秀逸で、「切れ者ノータブルスピーチ」のイメージが定着したのがこの一戦だった。 同馬の前走は、9月8日にパリロンシャン競馬場で行われたG1・ムーランドロンシャン賞(芝1600m)で、ここでのノータブルスピーチは5着に敗退。この日のパリロンシャン競馬場の馬場は重で、これに持ち前の瞬発力がそがれてしまったのが敗因だった。 おそらくは軽い馬場が舞台になるであろうBCマイルでは、この馬の一刀両断の切れ味が存分に発揮されるはずだ。ノータブルスピーチが勝てば、馬主ゴドルフィン、チャーリー・アップルビー調教師、ウィリアム・ビュイック騎手は、このレース4連覇を成し遂げることになる。 ヨーロッパが送り出す第二の刺客が、ロイヤルアスコット開催のG1・コロネーションS(芝7F213y)、ニューマーケットのG1・ファルマスS(芝8F)、レパーズタウン競馬場のG1・メイトロンS(芝8F)と、牝馬限定のG1を3連勝中の「マイル女王」ポータフォーチュナ(牝3、父カラヴァッジオ)だ。 G1・コロネーションSで2・3・4着に退けたのは、いずれも実績十分のオペラシンガー(牝3、父ジャスティファイ)、ラマチュエル(牝3、父ジャスティファイ)、エルマルカ(牝3、父キングマン)で、ここを完勝した段階で、まずは3歳牝馬最強マイラーの称号を不動のものとした。 続いて、古馬との初顔合わせとなったのがG1・ファルマスSで、ここで2着以下に3.3/4馬身差の快勝を演じたことで、世代をこえた牝馬最強マイラーと認められる存在となった。 G1・メイトロンSでも、2着に退けたのはG1・愛千ギニー(芝8F)勝ち馬フォールンエンジェル(牝3、父トゥーダーンホット)で、これも見事な内容の勝利だった。 ロイヤルアスコット開催のG1・コロネーションSを制した時の馬場がGood to Firmで、この馬もデルマーの軽い馬場に対応できると見られている。 そして、ヨーロッパが送り出す第三の刺客が、G1・コロネーションSではポータフォーチュナの後塵を拝した仏国調教馬のラマチュエルである。2歳の早い時期から頭角を現し、2歳6月にシャンティイ競馬場で行われたG2デュボワ賞(芝1200m)を5馬身差で制して重賞初制覇を飾ると、同じくシャンティイ競馬場のG2・ロベールパパン賞(芝1200m)も4馬身差で連勝。 その後、仏国における真夏の2歳王者決定戦となっているドーヴィル競馬場のG1・モルニー賞(芝1200m)に駒を進め、ここでは牡馬のヴァンディーク(牡2、父ハヴァナグレー)にクビ差及ばぬ2着に敗れ、この一戦をもって2歳シーズンを終えている。 3歳となった今季の前半は、3戦し、G1・英1000ギニー(芝8F)3着、G1・コロネーションS(芝7F213t)3着など、惜敗続きの3連敗。一部で懸念されていた、「早熟」で「距離に限界がある」との説を、完全ではないにしろ払拭することが出来たが、もどかしさがおおいに残るキャンペーンを続けていた。 しかし、これを一気に晴らすことになったのが、10月6日にパリロンシャンで行われたG1・フォレ賞(芝1400m)で、ラマチュエルはここを3馬身差で快勝。抜け出した時に見せた瞬発力は、重馬場を舞台としたレースとは思えぬほどキレッキレで、この馬の強さが再認識されることになった。 そして、ここで2着に退けたのが、22年のG1・フォレ賞など、2つのG1を含めて9つもの重賞を制した実績があった古豪キンロス(セン7、父キングマン)で、ラマチュエルの株は再び爆上がりすることになったのである。 前述したように、G1・フォレ賞を制した時の馬場は重だったが、2歳時にG2ロベールパパン賞を制した時の馬場は、ペネトロメーター値3.1という良馬場で、この馬もまた、デルマーの馬場への適性はあると見られている。 この強いヨーロッパ勢を迎え撃つ、地元アメリカ勢の顔触れがまた、近年になく高水準だ。 軽快な先行力を武器に、G1・フォースターデイヴH(芝8F)、G1・クールモアターフマイル(芝8F)という2つのG1を含めて、東部地区で重賞3連勝中なのがカールスパクラー(牡4、父ロペデヴェガ)だ。同馬を管理するのは、このレース4勝という最多勝調教師チャド・ブラウンである。 一方、西海岸のエース格となるのが、今季ここまで重賞ばかり4戦し、G1・シューメーカーマイルS(芝8F)を含む無敗の4連勝を飾っているヨハネス(牡4、父ナイキスト)だ。 このレースにおける日本調教馬初優勝を目指すのが、いずれもG1勝利の実績を誇るジオグリフ(牡5、父ドレフォン)とテンハッピーローズ(牝6、父エピファネイア)だが、この顔触れを相手に頂点に立つには、ともに生涯最高のパフォーマンスを繰り出す必要がありそうだ。 BCでは、現地時間の2日(土曜日)午後4時45分に発走する「マイル」にも、ぜひご注目いただきたい。