540億円投じた「羽田イノベーションシティ」がゴーストタウン化している…空港直結なのに外国人すら集まらない悲惨な状況

国家級再開発プロジェクトで誕生した複合施設 総事業費540億円、延床面積13万平方m--コンビニ650店舗分に相当する巨大複合施設「羽田イノベーションシティ」が、「ゴーストタウン」と化している。 2023年にグランドオープンした同施設は、旧羽田空港ターミナル跡地に整備された。「先端と文化の融合」を掲げる日本初のスマートエアポートシティという位置づけで、ビジネスとプライベート両方で利用できる新たな都市として誕生した。 空港から電車で一駅という好立地で、インバウンド効果も相変わらず続いているのにもかかわらず、なぜ過疎化しているのか?現地を訪れると、その理由が少しずつ見えてきた。 まず、ざっくりとこの施設についておさらいしよう。 羽田イノベーションシティは、2010年に国・東京都・大田区・品川区が策定した「羽田空港跡地まちづくり推進計画」をもとに構想された。 その後、民間9社による共同出資会社「羽田みらい開発株式会社」が整備を担い、2023年に開業。約5.9haの広大な敷地に研究施設、先端医療研究センター、ホテル、イベントホール、飲食店、水素ステーションなど多彩な用途の建物が並んでいる。 そんな未来都市の理念は「先端と文化の融合」だ。しかし、訪日客やビジネス層の利用を想定していたものの、実際に訪れてみるとにぎわいのある街とは思えないほど人が少ない。施設の規模と静けさのギャップが際立っていた。 日本の先端技術と伝統文化が集まる街 筆者が現地を訪れたのは、9月中旬の日曜午後。京浜急行空港線と東京モノレールが乗り入れる「天空橋駅」に浜松町駅方面から向かう。羽田イノベーションシティは、駅直結という便利な交通アクセスを誇るが、訪れてみると意外なほど静かだ。 浜松町駅ではスーツケースを引いた観光客でにぎわっていたものの、天空橋駅で降りたのはわずか3組。ほとんどの乗客はその先の羽田空港方面へと向かっていった。 「天空橋駅」で改札を出ると、目の前に「羽田イノベーションシティ」への案内板が見える。駅は確かに施設と直結しているが、その入口は驚くほど地味だった。小さな出口、控えめな看板。まるでオフィスビルの業務用通用口のような佇まいで、総事業費540億円を投じた国家プロジェクトの玄関口とは到底思えない。 通路を抜けて施設内に入ると、まず戸惑うのはその構造だ。目の前に広がるのは、A棟からL棟まで番号が振られた12の建物。それぞれが独立して建ち、デッキや通路でつながっているが、案内図を見ても一目では全体像がつかめない。 まずは、1階のA棟から順に巡ってみる。A棟にはホテルと研究センター、飲食店が1軒。B棟はスギ薬局とオフィスだけ。C棟へ進むと、ようやくコワーキングスペースが見つかるが、人影はまばらだ。それぞれの棟を隔てる通路は広く、開放感がある一方で、どこへ向かえばいいのかが直感的にわからない作りになっている。 C棟に隣接するD棟にはバルとオフィスが入っている。E棟には意外にも足湯があり、楽しめそうな雰囲気があった。そこから3階の屋上へ上がると、家族連れでにぎわっていた。羽田空港と滑走路を一望できるロッジで、ようやく「来てよかった」と思える瞬間だった。 2階に降りると、ライブホールであるZepp羽田が見える。最大収容人数は3000人と、国内最大級の規模を誇るこの施設には、これからライブイベントがあるのか、この日一番の数の人々の姿が見えた。 I棟以降には飲食店が並び、中華やとんかつ、バー併設のカフェなどがある。筆者もその一軒に入ってみたが、広い店内の客はわずか数名。60席ほどあるうち、埋まっていたのは2割にも満たない。店員に話を聞くと、「イベントがある日は多少増えますが、普段はいつもこんな感じ。ゴーストタウンみたいですよ」と話していた。 商業テナント稼働率は約65%にとどまる 敷地内を一周してみて気づいたのは、ここには「核」となる場所が存在しないということだ。飲食店、医療施設、ホテル、研究施設、イベントホール。機能は豊富でも、全体として“何を目的に訪れる街なのか”がよくわからない。 一般的なショッピングモールなら、人の流れに身を任せて歩けば自然と店舗が目に入るが、ここでは12棟がそれぞれ独立しているため、棟ごとに入口を探して移動しなければならない。 結果として人の流れは分断され、偶然の出会いや発見が生まれにくい構造になっている。実際、施設内で外国人観光客の姿は見当たらず、日本人利用者もまばらだった。 結局のところ、この街を歩く人々は企業関係者かZepp羽田の来場者、ホテル宿泊者が中心のようだ。「複合施設」とは名ばかりで、実際には目的の異なる建物が並ぶ“点在型施設”にとどまっている。相乗効果を生むには、共存している店舗のジャンルの幅が広すぎたのかもしれない。 元々、羽田イノベーションシティは「先端産業拠点」と「クールジャパン拠点」を融合するという構想で始まった。立地を活かして、医療やロボティクスなどの国際産業の拠点としつつ、日本文化の発信の場としても機能させる狙いだった。しかし、「先端」と「文化」というまったく異なる軸をひとつの空間に収めるのは難しく、利用者には曖昧なテーマに見えてしまう。 また、施設開業以来、「スマートエアポートシティ」「イノベーティブな街」といった抽象的なキャッチコピーを掲げてきたが、結局目新しい体験が提供されるわけでもなく、話題にならず、人が集まらない。その結果、ホテルや企業などのビジネス利用は一定数あるものの、観光目的の利用者を十分に取り込めていないのが現状だ。 いわゆる日本らしいサービスを提供する店舗もあり、本来、羽田空港に来た観光客をそのまま誘導する意図があったはずだが、同施設の報告書によると“空港利用のついで”で訪れる人は3割にも満たない。 また、利用者の訪日外国人比率もわずか4%にとどまり、「国際ゲートウェイ」という理念からは大きく乖離している。インバウンド需要を見込んで出店した駿河屋も、わずか1年足らずで撤退したほどだ。商業テナント稼働率は約65%にとどまり、空き区画も目立っている。 「目的」がある街とない街の違い 商業利用という点において、このままでは事態の悪化が進むように思えてくる。前述した、イノベーションシティの特徴でもある“点在型施設”に勝機はないのだろうか。それを考えるうえで、恵比寿ガーデンプレイスと神戸空港を対照例に考えていきたい。 恵比寿ガーデンプレイスは、ヱビスビール醸造所の跡地に誕生した複合施設だ。オフィス・ホテル・商業施設が内在しており、羽田イノベーションシティと構造的には似ている。また、恵比寿駅と隣接しているとはいえ、施設の中までたどり着くにはそれなりに時間がかかる。 では何が違うのか。それは街全体のテーマにある。羽田イノベーションシティには、まだ街全体のイメージがなく、空港に近いという特徴しかない。一方、恵比寿には「高級感のある大人の街」という明確なテーマがある。デートや記念日などで利用される定番スポットとして知られ、レストラン街やガーデンシネマ、イベント広場など、“おしゃれな時間を過ごす”という共通目的のもとで空間がデザインされている。 さらに、ビールフェスや季節ごとのイルミネーションなど、一年を通して“この場所ならではの体験”が定期的に開催されることで、利用シーンをイメージしやすい。企業関係者や近隣住民に限らず、幅広い層にとって足を運ぶ理由がたくさん作られているのだ。 また、施設の構造にも大きな違いがある。恵比寿ガーデンプレイスもAからMの区画に分けられているが、区画の間に広場が配置されているため、複数の動線が引かれるかたちとなり、飲食店やギャラリーの中を散策しながら回遊しやすい。 羽田イノベーションシティはA〜L棟が独立しており、研究施設や医療センターなど、一般の来訪者にとって縁遠い空間が多かったのとは、大きく異なる点だ。 「点在型」という構造の可能性と限界 もう一つの対照例が、神戸空港とその周辺駅だ。 神戸空港は、羽田空港と同じくモノレールの終点に位置し、途中駅には動植物園、コンベンションセンターや大学、病院、ミュージアムなど、駅ごとに主要な施設が配置されている。そのため、この路線は単に空港へアクセスするための交通手段だけでなく、「日常生活の目的地が点在する路線」として機能している。 その結果、空港利用者以外の人も自然に乗り降りし、常に一定の人の流れが保たれているのだ。 反対に、羽田イノベーションシティにはそうした“途中下車の理由”がない。空港から一駅という立地自体は魅力的だが、「ここでしか体験できない何か」がなければ、天空橋駅はいつまでも“通過される駅”のままとなってしまう。規模の大きなZeppがあるのだから、むしろライブイベントに合わせた施設に振り切ってもいいのではないかとさえ思ってしまう。 結局、羽田イノベーションシティが抱える問題は「点在」そのものではなく、「点と点をつなぐストーリーがない」ことだ。 恵比寿ガーデンプレイスには“寄り道の楽しさ”を生む動線があり、神戸空港は駅ごとに明確な目的がある。つまり、点在型でも「訪れる理由」があれば、人は自然と回遊する。 先端産業や文化といった、抽象的なテーマで多様な要素を詰め込むのではなく、「誰を呼びたいのか」という根本の問いと向き合わなければならないのだ。 たとえば、「先端技術の街」として店員のほとんどをロボットに代替して自動運転の実証エリアを整備する。あるいは「日本文化の発信拠点」として全国のアンテナショップを集め、ここだけで“日本を旅する体験”ができる街にする。 重要なのは、万人に受け入れられようとするのではなく、むしろ特定の体験価値に絞り込む勇気である。「みんなのための街」は、しばしば「誰の心にも刺さらない街」になってしまう。 ターゲットと目的を明確にしたとき、初めて“通過するだけの場所”が“訪れる理由のある街”へと変わっていくのではないだろうか。日本の玄関口に降り立ったその瞬間から、イノベーション体験が始まる街になることを期待したい。 【関連記事を読む】『イオンのフードコートが大量閉店…〈ガラガラで、閉鎖状態も〉衰退する地方インフラの現状』 【もっと読む】イオンのフードコートが大量閉店…〈ガラガラで、閉鎖状態も〉衰退する地方インフラの現状

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