ロシアなぜ恐れる? 米「トマホークミサイル」ウクライナ供与の重たい“意味” よく飛ぶミサイルはすでにあるのに

戦局を変える「ゲームチェンジャー」にはならない?  2025年10月12日、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、ロシアのウラジミール・プーチン大統領に対して、ウクライナ侵攻を終わらせない場合は、ウクライナへトマホーク巡航ミサイルの供与を行う可能性があると警告しました。ネットではウクライナへのトマホーク供与で、戦局が大きく変わるのではないかとの声も見受けられますが、どうなのでしょうか。 【すでにトマホーク要らず?】これがウクライナの「すごい長射程」ミサイル発射の瞬間です(動画)  トマホークは1970年代にアメリカで開発された巡航ミサイルです。名前は1980年代初頭に実用化されてから現在まで変わっていませんが、実用化から現在までの約45年の間に、誘導装置やエンジン、ミサイル本体の材質などが大きく変更されています。  そのトマホークは、1991年の湾岸戦争でイラク軍に少なからぬ数を撃墜されています。このためネットでは大して性能が高くないのではないかという声も散見しますが、湾岸戦争で使用されたブロック1/2仕様のミサイルと、現在アメリカ海軍などに配備されているブロック4仕様、海上自衛隊も導入するブロック5仕様のミサイルは、名前や形こそ変わっていませんが、ほぼ別物のミサイルと言えるでしょう。  ウクライナからロシアを射程に収めるトマホークの供与で、戦局が大きく変わるのではないかとの声も見受けられますが、ウクライナは既にロシア国内を攻撃できる巡航ミサイル「フラミンゴ」を実戦投入しており、相応の戦果を挙げています。  また、ブロック1仕様のトマホークは核弾頭を搭載することが可能でしたが、トマホーク用核弾頭は既に廃棄されています。トマホークの供与が実現すれば、ウクライナにとって強力な攻撃手段になることは確かなのですが、核弾頭搭載型ならばいざしらず、通常弾頭型のトマホークが、戦局の推移を大きく変える「ゲームチェンジャー」になるとは、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)には思えません。 トマホーク運用に不可欠な「アメリカとの協力」  ただ、ウクライナへのトマホークの供与が実現すれば、国際政治の意味合いでの「ゲームチェンジャー」にはなり得るとも思います。 オランダのフリゲート「デ・ロイテル」で行われたトマホークの発射試験(画像:オランダ国防省)。  たとえば、海上自衛隊の斎藤 聡海上幕僚長は2025年9月30日に行われた記者会見で、「(トマホークの)運用に係る意思決定はあくまでも自衛隊が行う」と述べています。  運用の意思決定を導入国が行うのは当然の話です。ブロック4仕様以降のトマホークは搭載艦艇において飛行計画の立案が可能となっていますので、これは斎藤海上幕僚長の言う通りなのですが、他方で攻撃情報の選定にはアメリカ海軍の大西洋/太平洋両艦隊に所属する、戦域任務計画センターからの情報提供を受ける必要があります。  つまり、ウクライナとアメリカの関係性が大きく変わるというわけです。斎藤海上幕僚長も記者会見で、「(トマホークの)能力を最大限発揮するため、アメリカ海軍との協力が不可欠」とも述べています。 アメリカの「トマホーク工場」で協調されたコト  筆者は2018年9月に、トマホークの開発と生産を行っているレイセオン・ミサイルシステムズ(現レイセオン・ミサイルズ&ディフェンス)の取材のため、同社が拠点を置くアリゾナ州ツーソンを訪れたことがあります。  この2018年の時点で、日本がトマホークを入手することを考えておられた方は、そう多くなかったのではないかと思います。かく言う筆者もその一人で、ツーソンでアメリカとレイセオン・ミサイルシステムズが日本にトマホークを売却する考えがあるという話を聞かされて、正直な話面食らったと言うのが、当時の偽らざる気持ちでした。  2025年現在はオランダとオーストラリアもトマホークを保有していますが、この時点では、アメリカの最も重要な同盟国である、イギリスにしか売却されていませんでした。  この時レイセオン・ミサイルシステムズの担当者は「イギリスだけにトマホークの輸出が認められている」という点を何度も強調していました。担当者はそれ以上踏み込んだことは言いませんでしたが、「イギリスだけ」を強調していたあたりに、アメリカ政府が日本を、イギリスと同程度に、攻撃目標情報を提供しても構わない同盟国と見なしていることを伝えたかったのだろうと感じました。 ロシアが神経をとがらせるワケ  2025年10月1日付のウォール・ストリート・ジャーナル電子版は、トランプ大統領がウクライナによるロシアへの長射程攻撃を支援するため、ウクライナへの新たな情報提供を承認したと報じています。 海上自衛隊の護衛艦で最初に「トマホーク」巡航ミサイルの搭載が予定されている「ちょうかい」(画像:海上自衛隊)。  この情報提供はトマホークの供与と直接関係ありませんが、トマホークの供与が実現すれば、おそらくアメリカ軍の持つ目標情報が、日本やイギリスなどと同様、ウクライナへも提供されることになると思います。  ロシアのウラジミール・プーチン大統領や同国の有力議員らは、アメリカのJ・D・バンス副大統領がウクライナへのトマホーク供与を検討していると述べてから、神経を尖らせて、トマホーク供与案を批判する発言を連発しています。  アメリカとウクライナは現在、同盟国ではありませんが、ウクライナへのトマホークの供与は、情報面でアメリカがウクライナを同盟国に準ずる扱いにすることにほかなりません。  プーチン大統領やロシアの高官が神経を尖らせているのは、兵器としてのトマホークを恐れているからではなく、トマホークの供与が国際政治上の「ゲームチェンジャー」となる可能性を秘めているからなのではないかと筆者は思います。

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