「また芸人?」「多すぎる」…NHK大河ドラマ『べらぼう』が芸人を大量起用する一方、今秋のTBS・日劇、フジ・三谷幸喜、テレ朝・野木亜希子は演技派集結の「本物志向」な理由

終盤に入っても止まらぬ芸人起用 「大河ドラマ『べらぼう』浮世絵師・葛飾北斎役に野性爆弾・くっきー!の出演が決定」という記事が報じられたとき、ネット上にはさまざまな反響が見られた。 くっきー!自身、絵画などを手がけるほか、北斎は変人とも言われただけに「ハマリ役」という声があがる一方で、「また芸人?」「多すぎる」という戸惑いのような声も少なくない。 『べらぼう』への芸人起用と言えば、8月31日の第33回に服部半蔵役で有吉弘行が出演し、大きく報じられたばかりだった。 さらにこれまで同作に出演した芸人をあげていくと……ネプチューン・原田泰造、ダチョウ倶楽部・肥後克広、ピース・又吉直樹、川畑泰史、ひょうろく、サルゴリラ・児玉智洋と赤羽健壱、クールポコ。・小野まじめとせんちゃん、片桐仁、マキタスポーツ、芋洗坂係長、丸山礼、3時のヒロイン・福田麻貴、鉄拳、コロコロチキチキペッパーズ・ナダル、ガリベンズ矢野、ダウ90000・園田祥太、林家正蔵、林家三平、林家たい平、柳亭左龍らが出演した。今後もU字工事・益子卓郎と福田薫の出演が予告されているなど、まだまだ続きそうなムードがある。 これだけ多ければ「また芸人?」「多すぎる」という声があがるのは当然だろう。一方、かつて同じように「また芸人?」「多すぎる」と言われていた民放は逆に芸人の起用が減った感がある。 特に今秋は、TBSの『ロイヤルファミリー』(日曜21時、10月12日スタート)に妻夫木聡、目黒蓮、松本若菜、安藤政信、高杉真宙、津田健次郎、吉沢悠、小泉孝太郎、黒木瞳、沢村一樹、佐藤浩市。 フジテレビの『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(水曜22時、10月1日スタート)に菅田将暉、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波、菊地凛子、小池栄子、市原隼人、小林薫。 テレビ朝日の『ちょっとだけエスパー』(火曜21時、10月21日スタート)に大泉洋、宮崎あおい、ディーン・フジオカ、北村匠海(今後も毎週火曜に新キャストを発表)。 いずれも局をあげた大作であり、主演級俳優を集めた豪華キャストで挑んでいる。もちろん芸人の出演もあり得るが、これだけの俳優を集めた以上、その人数も出番の数も少なくなるだろう。 なぜ大河ドラマも今秋の3作も、局をあげた大作でありながら、NHKと民放は真逆の選択をしたのか。その背景、狙い、効果などをあげていく。 芸人だけでなかった異色キャスト陣 「江戸時代のメディア王」と言われる蔦屋重三郎(横浜流星)が主人公の『べらぼう』がエンタメにフィーチャーした作品であることは間違いないところ。「江戸の文化から令和のポップカルチャーにつながる」という歴史の流れを汲み、「現在活躍中の芸人を起用する」という制作サイドのキャスティング方針は合点がいく。 また、『べらぼう』には芸人以外でもさまざまなジャンルのタレントが出演している。島本須美、関智一、郄木渉、中井和哉、水樹奈々、井上和彦、平田広明など声優の大物をそろえたほか、米米CLUBのジェームス小野田、歌手の新居浜レオン、作家の岩井志麻子、画家・書家など多彩な片岡鶴太郎、元プロレスラーの佐々木健介、弁護士の本村健太郎など、これらの異色キャストも「また?」「多すぎる」という印象につながっているのではないか。 ただ、今回発表されたくっきー!がそうであるように、それぞれの芸風、経歴、風貌などに合わせた丁寧なキャスティングはいかにもNHKらしい。だからなのか、時に「多すぎる」ことが疑問視されても、起用された個人が叩かれるようなケースは少なく、「問題」「失敗」という深刻なレベルではないように見える。 しかし、残念なのは制作サイドが狙ったほどの反響を得られていないこと。そもそも芸人のキャスティングには、話題性、見た目のインパクト、物語のアクセント、脱力感やユーモアをもたらすなどの狙いがある。専業俳優と比べると、技術や経験の点で劣るだけに、これらが得られることが起用の前提と言っていいだろう。その点、『べらぼう』は芸人を大量起用しすぎたことで、これらが薄れてしまったのかもしれない。 背景に「江戸時代の文化」への不安 ただ、話題性、インパクト、アクセント、脱力感などの狙いが薄れたのは『べらぼう』だけの話ではない。 2010年代から2020年代にかけてドラマへの芸人起用がさらに増え、著名な中堅・ベテランだけでなく、お笑い好きでなければ顔と名前が一致しない若手の起用が当然のようになった。そのため話題性やインパクトなどが薄れたほか、演技力や役とのフィットをシビアに問われやすくなり、民放各局では徐々に起用が減っている。 奇しくも17日放送の『上田と女が吠える夜×ベタドラマSP』(日本テレビ系)の中で“恋愛ドラマのベタ”として「芸人が話題作りで脇役に配役されてる」があげられていた。つまり、「芸人のキャスティングで話題作りしよう」という狙いはバラエティで揶揄されるほど使い古された策であることの裏付けと言っていいだろう。その意味で『べらぼう』への大量起用はハイリスクなチャレンジに見える。 制作サイドにしてみれば、江戸時代の文化がテーマの『べらぼう』には戦国や幕末のような戦いはなく、大河ドラマとしての話題性に不安があったのではないか。だからこそ大量の芸人起用にそのフォローを求めた感があるが、ここまでは十分な効果を得ているようには見えない。 同作の脚本は「ハズレなし」と言われる森下佳子が手がけたことで物語そのものは評判がよく、毎週見ている人々の心はおおむねつかんでいる。だからこそ芸人起用などの話題性で視聴者の幅を広げたかったのだろう。それどころか見ていない人が「話題先行」「脚本で勝負しろ」などと叩くきっかけになっているようなニュアンスもあるのが苦しいところだ。 ではこのところ芸人の起用が減っている民放はどんな観点からキャスティングしているのか。 民放ドラマは「本物志向」にシフトチェンジ 冒頭にあげた今秋の新作を見れば、「実力者を集めて真っ向勝負しよう」という起用方針がわかるのではないか。現在の視聴者には芸人などのキャスティングによる話題作りは通用せず、視聴率や配信再生数が獲れないばかりか、逆に批判を受けやすいことを民放各局の制作サイドは理解しはじめている。 これまでも民放各局とNHKにおける「視聴率と配信再生を獲得しなければいけない」という意識の差は大きかったが、視聴率減とコロナ禍を経てさらに拡大。民放各局には「これまでのやり方は通用しない」「現在の視聴者を侮ってはいけない」という危機感の高まりから、「できる限り本物志向でいこう」「魅力的な企画とキャストで視聴者に訴えかけよう」という本質的な姿勢が見て取れる。 ただ、Netflixなどのグローバルプラットフォームと比べると資金面での差は埋めがたいだけに、専業俳優の実力者を集めるためには良質な企画とスタッフの座組みが必要になる。 その点、『ロイヤルファミリー』は早見和真の原作小説とTBSのエース・塚原あゆ子の演出、『もしこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』は三谷幸喜の脚本、『ちょっとだけエスパー』は野木亜希子の脚本を用意。いずれも実力者たちに「自分も出たい」と言わせるだけのスタッフであり、来年以降の作品も「今秋に近いレベルのスタッフをどれだけ立てられるか」が問われるだろう。 さらに、三谷幸喜は「25年ぶりの民放ゴールデンプライム帯ドラマ」、野木亜希子は「テレビ朝日の連ドラ初脚本」というプレミアも、局をあげた大作という裏付けとなっている。「あの人が手がける作品ならぜひ」からはじまり、「あの人やあの人も出演するならぜひ」が加わることで3作は豪華キャストを実現させた。もしそのメインキャストに芸人を加えたら、豪華という印象が薄れかねないだけに、数人のゲスト出演というレベルに留まるのではないか。 視聴率・人・時間・金の縛りが少ないNHK これまで民放各局はスポンサー受けのいいコア層(主に13から49歳)を引きつけるために、知名度の高い20・30代の俳優をメインキャストに据えるのがセオリーだった。 さらに言えば、理想は若年層に訴求できる20代の主演俳優。加えて、上の年齢層にも知名度が高いNHK朝ドラの主演と相手役、きょうだいや親友を演じた俳優をメインキャストに据えてきた。 しかし、近年はそれが当たり前のようになって「朝ドラ出身俳優」の特別感が薄れ、視聴率や配信再生数の獲得が難しくなっている。だからこそ“ダブル主演”や“トリプル主演”、あるいは4〜5人の主演級俳優をそろえた“豪華キャストが集結”を前面に押し出す作品が増えていた。今秋の3作はまさにその“豪華キャストが集結”であり、そのムードを損ねないために「この中に芸人は含みません」という裏の意図を感じさせられる。 一方、NHKはこれまで主に大河ドラマと朝ドラで、その“豪華キャストが集結”を実現させてきた。もともとNHKのドラマは「全都道府県に放送している」「民放より人・時間・金をかけて制作できる」などの理由から“豪華キャストが集結”を実現させやすいのだが、近年ではそこに芸人を加えるケースが定番のようになっている。 ただ、「芸人だけが多い」というわけではない。放送中の朝ドラ『あんぱん』に人気絶頂のMrs.GREEN APPLE・大森元貴が出演しているようにアーティストの出演も目立つ。 実際、RADWIMPS・野田洋次郎は朝ドラ『エール』『舟を編む〜私、辞書つくります〜』に出演、銀杏BOYZ・峯田和伸は主演作『奇跡の人』を筆頭に『ひよっこ』『いだてん〜東京オリムピック噺〜』に出演、森山直太朗は『エール』『心の傷を癒すということ』に出演、シシド・カフカは『ハムラアキラ〜世界で最も不運な探偵〜』で主演を務めた。 2010年代後半あたりから2025年の現在にかけてキャスティングの自由度はNHKのほうが圧倒的に高く、それは民放各局より視聴率、人・時間・金の縛りが少ないことが裏付けになっている。そんな恵まれた自由な環境だから、『べらぼう』における芸人の大量起用に「やりすぎ」という批判があがりやすいのかもしれない。 少なくとも「メインを専業俳優の実力者で固める」という策で真っ向勝負するしかない状況の民放テレビマンにしてみれば、『べらぼう』のキャスティングに文句の1つも言いたくなるのではないか。 『べらぼう』ではついに失脚……老中・田沼意次の「律儀で真面目な仕事ぶり」が見直されたのはなぜか?

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