避暑や保養のために過ごす別荘地を巡り、別荘の所有者と管理会社との間で訴訟が相次いでいる。 別荘地を一括管理する費用の負担を求める管理会社に対し、所有者側が「利用していない施設の管理費まで払う義務はない」と反発。高度経済成長期以降、全国で開発が進んだ別荘地だが、時代とともに所有者を取り巻く環境が変化し、対立が表面化した格好だ。(杉本和真) 「高すぎる」 美しい海岸の眺望と湯量が豊富な温泉。保養にうってつけの場所にある静岡県伊東市の別荘地「あかざわ恒陽台」は、半世紀前に開発が始まった。東京ドーム11個分の土地におよそ900区画が分譲されている。 ここで争いの火種となっているのが管理契約だ。最寄り駅とを結ぶバスの運行費のほか、共用のプールやテニスコートの管理費などとして、別荘の所有者は建物1平方メートルあたり月額約100円(100平方メートルであれば約1万円)を管理会社に支払う内容となっている。 この契約を巡り、シニア世代や、親から別荘を相続した子ども世代の所有者らが2013〜15年頃、管理費の支払いを拒み、相次いで契約の解除を通知した。東京都在住の70歳代男性もその一人。04年に分譲地を購入して年約20万円の管理費を支払ってきたものの、14年頃に出費を見直した際、割高だと感じた。「バスもプールも使わない。そんな施設の費用まで負担するのはおかしい」と支払いをやめた。 だが管理会社側は「管理費は適正で契約は解除できない」との姿勢を崩さず、18年、男性らを静岡地裁沼津支部に提訴した。 割れる判断 司法判断は割れた。管理会社は複数の施設の維持・管理費用をまとめて請求していたが、同支部は今年1月の判決で「個別の請求は可能だ」と指摘し、「契約は解除できる」と所有者側に軍配を上げた。 これに対し、管理会社側の控訴を受けた2審・東京高裁は7月、「施設ごとに利用料を決めて請求するのは難しい」と判断。「同じ別荘地を利用するのに、管理費を支払う所有者と支払わない所有者がいるのは不公平だ」として会社側の逆転勝訴とした。所有者側が上告し、最高裁で審理が続く。 別荘地の管理契約を巡る裁判は複数起こされている。栃木県那須塩原市の別荘地「塩原リゾートタウン・パルコ」を巡る別の訴訟では、管理費の支払いを求める管理会社側に対し、区画を購入したり、相続したりした所有者側が「建物は建てておらず、土地も使っていない。管理による利益を得ていない」と主張。支払いを拒んだが、最高裁が今年6月、一部の所有者のみ支払わないのは不公平が生じるなどとし、「一定額の負担は免れない」との判決を出し、確定した。 一方、「土地を所有する限り、契約は自動更新される」と規定した関西地方の別荘地の管理契約については、大阪高裁が22年、消費者に一方的に不利となる契約を禁じた消費者契約法に基づき、規定を無効とする判決を言い渡した(確定)。 7割はシニア世代 開発から長い年月が過ぎ、別荘の所有者には変化が出ている。総務省の住宅・土地統計調査によると、普段は人が住んでいない別荘などの「二次的住宅」は約38万戸(23年時点)。所有者の年代別の割合を見ると60歳代以上が増えており、1988年の約3割から、2023年には約7割を占めるようになった。 伊東市の訴訟で所有者側代理人を務める原和良弁護士は「所有者の高齢化に伴い、必要とするサービスも変化している」と指摘。「相続期を迎えて子ども世代が内容を理解しないまま管理契約を受け継ぎ、管理費の支払いに困惑するケースも多い。訴訟が相次ぐ背景には、こうした事情があるのだろう」と話す。 伊東市の別荘の管理会社は「一般的に必要な管理費をいただいている。個別のことは裁判中のため、お答えすることはない」としている。 全員で意思決定の仕組みなし 別荘地と同様に不動産を共同で管理するマンションの場合、区分所有法で様々なルールが決められており、住民全員に関係する事柄は、住民が組織する管理組合が多数決などの方法で決議する。管理会社に不満があれば、組合が住民の総意として契約内容の変更などを求められる。 別荘地では、所有者全員で意思決定する仕組みが法律上、整えられていない。契約法に詳しい山城一真・早稲田大教授(民法)は「所有者で議論し、一つの結論を導く場を自主的につくり、組織として管理会社と交渉するのも一案ではないか」と話している。