連載:アナログ時代のクルマたち|Vol. 61 モース

一般的に、ガソリン内燃機関のエンジンを搭載した自動車が誕生したのは、1886年とされる。ドイツのカール・ベンツと、ゴットリープ・ダイムラーが、時を同じくして開発したものだった。その後、自動車の発展に大きく寄与するのは、実はドイツではなくフランスであった。フランスの自動車メーカー、パナール・エ・ルバッソールやプジョーなどは、いずれもダイムラーのエンジンを搭載して、当時始まったばかりの自動車レースで勝利することによって、自動車という新しい乗り物に人々の関心を引き付けた。 【画像】19世紀末のフランスで、自動車レースで大活躍した「モース」(写真11点) 世界初の自動車レースといえば、1894年のパリ〜ルーアン間127kmのトライアルというのがこれまた定説で、この時優勝したのは実はド・ディオンの蒸気自動車であったが、禁止されていた搭乗者がいたために、優勝はプジョーとパナールのガソリン車がわけあったという。 こうして自動車レース、あるいはトライアルに火が付いたフランスでは、各地で同じような催しが開催された。その理由は多くの場合、当時の新聞の発行部数を伸ばすためのプロモーション活動であったとも言われる。とりわけ19世紀末のフランスでは盛んに行われた。 そんな自動車レースに触発されて、自動車を開発したのがエミール・モースであった。モース自身は元々電気技師であり、1874年に自らの会社、Societe de l'Electricity et des Automobiles Morsを創業する。電気だけでなくこの時点ですでにAutomobileの記載があり、1889年のパリ万国博には、彼の会社が作り上げた蒸気自動車が出展されていた。 そして1895年に、初のガソリンを燃焼させる内燃機関を搭載した自動車を開発する。この時搭載されたエンジンは、ヘッドのみが水冷式の空冷V4エンジンで、これは史上初のV型エンジンの一つといわれている。2年後の1897年7月24日、エミールは自身のドライブで初のレース、パリ〜ディエップレースに出場する。成績は7位とまずまずであったが、ここからモースのレースにおける成績と、車の性能は年を追うごとに飛躍的に向上し、当時すでに自動車レース界では頂点を極めていたパナール・エ・ルバッソールと、激烈な頂点争いをすることになるのである。 モースの優れていた点は、エンジンの優秀さだけではなく、1902年に登場したTypeZと呼ばれたレース車両では、他メーカーのサスペンションがリーフスプリングを採用していたのに対して、空気圧によるダンパーを装備して、悪路でのトラクションを向上させていた。また、1903年にはドーフィンと名付けられた空気抵抗を削減したスタイルのボディを投入。活躍期間は短かったものの、与えた影響は非常に大きかった。 20世紀初頭のモースとパナールの争いは、まさに覇権争いの様相を呈していたようで、レースごとにその平均スピードはどんどん上昇し、同時に事故も多くなった。そして1903年、パリ〜マドリッドのレースでは、参加していたマルセル・ルノー(自動車メーカールノーを設立したルノー兄弟の一人)を含む9人の死者が出た。このことを重視したフランス政府が、いわゆるオープンロード(一般公道を意味するか)でのレースを禁止することになるのである。 こうしてレースに明け暮れたモースであったが、一方で財政難が付きまとったことも事実。その技術に目をつけていたアンドレ・シトロエンは、1908年に起きた経済恐慌によって瀕死の状態であったモースを買収。社名はそのまま残したものの、モースの工場で生産された大半はシトロエンのタイプAだったと言われる。そして1925年には完全にシトロエンの工場となって、モースの生産は終了するのである。 ロッソビアンコ博物館にあったモースは1922年式の30hp 2seat Torpedoと呼ばれるモデル。搭載するエンジンは2リッターの直4エンジンで、このエンジンはアメリカのチャールズ・イェール・ナイトが開発した、スリーブバルブを持つエンジンである。アメリカでも大量に生産されたが、商業的にはイギリスでのさらなる開発によって成功がもたらされたという。そしてフランスはさらに、どの国よりもこのナイトエンジンの開発に力を入れたそうだ。モースのナイトエンジンはベルギーの高級自動車メーカーだったミネルバから供給されたもので、ミネルバは1908年にナイトエンジンの製造ライセンスを取得している。 ロッソビアンコのモデルのボディは残念ながらレプリカだそうである。博物館閉館後、2013年にボナムスのオープションに出品され、4万8300ユーロで落札されたという記録が残っているが、その後については不明である。 文:中村孝仁 写真:T. Etoh

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