“純国産打線”で栄冠をつかんだケースも…主力の外国人バッターがいなくても優勝を勝ち取った「球史に残るチーム列伝」

 今季2年ぶりVをはたした阪神は、森下翔太、佐藤輝明、大山悠輔の主軸をはじめ、主力に外国人打者が不在だったのも特徴のひとつである。昭和期には王貞治、長嶋茂雄のONがいたV9時代の巨人に代表されるように、“純国産打線”のチームが栄冠を手にした例も少なくないが、打てる助っ人が必要不可欠となった近年のプロ野球においては、ある意味、快挙と言えるだろう。主力に外国人打者が不在で優勝したチームを振り返ってみよう。【久保田龍雄/ライター】 【写真】9月13日、巨人に競り負けた東京ドーム戦での阪神タイガースの面々 やるだけやろう  まずは阪神から。1985年の日本一の年にはバース、2003年にはアリアス、05年にはシーツ、そして、“アレ”を実現した2023年にも、ノイジーが中軸に名を連ねていた。 阪神タイガースの優勝特設サイトより  その一方で、1964年は、打率.175という打撃不振により、4月中に解雇されたベルトイアがいただけで、事実上、純国産打線で2年ぶりのリーグ制覇を実現している。  2年前の62年は、27勝の小山正明、25勝の村山実の両エースを中心とする“守りの野球”で優勝も、チーム打率はリーグ5位の.222と貧打に泣いた。  そのネックを解消すべく、63年オフ、小山を放出し、大毎の4番・山内一弘を獲得する“世紀のトレード”を断行。小山の穴を埋めるため、同年22本塁打を記録したソロムコを大毎の若生智男と交換した結果、主力の助っ人打者も不在となった。  そして、この補強は成功をもたらす。翌64年、山内は6月まで打率2割3分台と不調だったものの、最終的に31本塁打、94打点を記録して得点力不足を解消。投手陣もバッキーが29勝、村山が22勝と安定し、2年ぶりVを達成した。  大洋との熾烈なデッドヒートの末、9月30日のシーズン最終戦で優勝を決めた藤本定義監督は「(9月11日から)広島、中日に6連敗したときは、もうダメかなと思ったが、『やるだけやろう』と選手にも話して(以後9連勝で)ここまで来たのです。一昨年の優勝より何倍も苦しい優勝だった」と感無量の面持ちだった。 王監督時代のダイエーも  外国人打者不在の“純国産打線”でリーグ優勝をはたしたのが、1986年の広島である。  これまで4度のリーグ優勝は、ホプキンス、ライトルらの助っ人が打線で重要な役割を演じてきたが、阿南準郎監督1年目の同年は、古葉竹識監督最終年の前年同様、投手も含めて助っ人はゼロ。打線は山本浩二、衣笠祥雄の両ベテランが中心に座った。  同年限りで引退した山本は打率.276、27本塁打、衣笠も.205、24本塁打と力の衰えは顕著ながら、1番・高橋慶彦が21本塁打、39盗塁、3番に定着した長内孝が19本塁打、58打点を記録するなど、世代交代も進んだ。  73勝中3得点以下が24試合と、けっして得点力が高いと言えない打線を、リーグで唯一防御率2点台を記録した強力投手陣が支えた。18勝で最多勝に輝いた北別府学をはじめ、川口和久、金石昭人、新人の長冨浩志の4人が二桁勝利をマークし、4勝22セーブの守護神・津田恒実が締めた。  選手の力を信じて我慢の起用を重ねた阿南監督は「打てなければ守りきればいい」「引き分けでも負けなければいい」と勝率重視の負けない野球に徹し、“本命”巨人にゲーム差なしのわずか3厘差で2年ぶりVを実現した。  広島は山本浩二監督時代の91年にも、アレン、バークレオの両助っ人は出場機会が少なかったが、4番・西田真二の前後を前田智徳、江藤智らの若手が担う新打線とリーグ屈指の投手陣で、5年ぶりVを達成している。  1990年代以降では、99、00年と連覇した王貞治監督時代のダイエーも、主力9人は基本日本人選手で構成されていた。  助っ人は、MLB通算63本塁打のニエベス、00年は前年ブルワーズで105試合に出場したスイッチヒッターのバンクスもいた。  だが、ニエベスは99年に17本塁打、00年も15本塁打を記録も、三振が多いなど確実性に乏しく、2年連続規定打席に到達せずに終わる。バンクスも打撃不振から出場32試合の打率.149、0本塁打にとどまった。  この結果、打線は小久保裕紀、城島健司、秋山幸二、松中信彦らが中心となり、福岡移転後初Vの99年は、チーム打率もリーグ4位の.257と今ひとつだったが、翌00年はリーグ2位の.268に上昇した。 レインボー打線  そして、連覇の原動力となったのは、安定した投手陣だった。99年はチーム防御率こそリーグ4位の3.65ながら、最優秀防御率を獲得した工藤公康、永井智浩、若田部健一らの主力先発陣とリリーフエース・篠原貴行がうまくかみ合った。捨て試合をつくり、主力投手で勝てる試合を確実にモノにする戦法が、南海時代以来、26年ぶりVにつながった。  大黒柱・工藤がFAで抜けた翌00年も、二桁投手不在という優勝チームでは前代未聞の珍事のなか、吉田修司、渡辺正和、篠原らが最強中継ぎ陣を構成。抑えのペドラザも35セーブを記録し、戦前の予想を覆して連覇を達成した。  主力に外国人打者がいない優勝チームは、投手力の安定という点で共通している。  これに対し、圧倒的な投打で、日本一を達成したのが、2002年の巨人だ。  同年は助っ人として、スイッチヒッターのクレスポを獲得したが、4月30日の広島戦で2打席連続本塁打を記録した以外はパッとせず、出場22試合の打率.122に終わる。  だが、実質助っ人不在の打線は、50本塁打、107打点で二冠に輝いたNPB最終年の松井秀喜、リーグ最多安打の清水隆行、高橋由伸、阿部慎之助、二岡智宏、江藤智らの“レインボー打線”で、リーグトップのチーム打率.272と186本塁打を記録。  投手陣も最優秀防御率(2.22)の桑田真澄、最多勝(17勝)の上原浩治、高橋尚成、工藤公康、5勝28セーブの守護神・河原純一と質量ともに充実し、2位・ヤクルトに11ゲーム差、日本シリーズでも西武を4タテと段違いの実力を発揮した。 久保田龍雄(くぼた・たつお) 1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘!激突!東都大学野球』(ビジネス社)。 デイリー新潮編集部

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