来年3月に開催される第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本での独占放送権を動画配信プラットフォームのNetflixが獲得した。全47試合を生中継とオンデマンドで配信するという。第1回大会から地上波でテレビ放送してきたテレビ朝日とTBSはもちろん、NHKですら放送権が獲得できなかったのはなぜなのか。 *** 【写真を見る】TBSと最下位を争うフジ凋落の元凶… 「中居正広氏」の“現在の姿”をキャッチ 侍ジャパンこと野球日本代表チームは、第1回大会(2006年)と第2回大会(09年)で続けて優勝。第3回大会(13年)は3位(優勝はドミニカ)、第4回大会(17年)も3位(優勝はアメリカ)に甘んじたが、23年の第5回大会で久しぶりに優勝を果たした。しかも、劇的なゲームが続いたため、地上波で生中継された日本代表の試合は全て視聴率40%を超えた(ビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯)。現在、メジャーリーグで活躍する“大谷さん”人気にもつながっている。 第5回大会に出場した大谷翔平 それなのに来年は地上波では見ることができない。前回中継したテレ朝は「当社は2006年の第1回大会から地上波放送に携わって参りましたが、今大会は放送権の獲得に至りませんでした」、同じくTBSは「国民的関心の高いスポーツイベントを無料の地上波放送で中継することの意義や視聴者の皆さまのご期待は非常に大きいと考えており、現在事実関係の詳細を確認中です」と発表した。 高視聴率が約束された大イベントの放送権を、なぜみすみす逃したのか。民放プロデューサーは言う。 「第1回の放送権料は推定10億円、前回は30億円、今回は約150億円にまで膨れ上がったと言われています。それでも前回、テレ朝には『何が何でも日本テレビを下して、悲願の年度視聴率三冠王を取りに行く』という大義がありましたし、不動産部門が好調なTBSにはフジテレビとの視聴率最下位争いに決着をつけるために放送権の争奪戦に参加する余裕がありました」 ペイできない 前回大会までの国内の放送・配信権は、予選の東京ラウンドをワールド・ベースボール・クラシック・インク(WBCI)と共催する読売新聞社を通じて付与されていた。しかし、今大会はWBCIが直接Netflixに権利を与えたと読売新聞が発表している。テレビ局が放送したくともできなかったということだろうか。 「そういうことになりますが、そもそも今年のテレ朝は日テレにかなりの差をつけて視聴率の独走状態にあります。25年度の視聴率に加算されるWBCがなくても三冠王は堅い。TBSの視聴率は不振ではあるものの、中居問題を抱えるフジより経営が悪くなることはありませんし、株価は民放で首位ですからわざわざ損失を出して投資家から批判されるようなことはしたくはない。第一、放送権料は過去最大規模に上がっており、テレビ局ではとてもペイできる金額ではなかったのです」 ちなみに、かつてプロ野球中継に熱心だった日テレは、WBCでは第1回大会のみ放送権を獲得している。 「巨人戦の中継が激減した頃から、日テレは『もう親会社の言うことは聞かなくていい』となったそうです。新聞も力を失っているし、日テレもそれどころではないということでしょう。巨人のオーナーも務めたナベツネさん(渡邉恒雄・読売新聞主筆)も昨年亡くなりましたしね」 ヌートバーのような人気者は… 来年のWBC独占放送権を勝ち取ったNetflixが日本に上陸したのは15年のこと。今や世界で3億人の有料会員を抱え、日本の会員数も昨年1000万人を超えた。 「日本で有料配信が根付くには時間がかかると思われてきましたが、すでにドラマでは制作費や制作時間、ギャランティーにおいてもネトフリにテレビは敵いません。昨年からネトフリは米国でアメリカンフットボールやボクシングなどスポーツの配信を始めました。それがとうとう日本でも始まったため注目されているだけです」 もはやお手上げとでも言いたげだ。 「日本では地上波離れが叫ばれて久しいですが、視聴率全体を見ても確かにその通りです。しかし、意外なことにテレビ局の株価は高騰していて景気は悪くない。中居問題で揺れに揺れたフジですら、あの10時間会見の前に比べると今は2倍近くの株価をつけています。身の程を知り、身の丈に合った経営が功を奏しているということです。とてもペイできないWBCの放送権を取りに行くような冒険など慎んだほうがいいのです」 日テレと系列局が巨人戦を中継したことで全国に巨人ファンが誕生したように、テレビが野球そのものや野球ファンを育てた経緯がある。野球に限らずサッカーだってボクシングだってそうだった。 「いまやボクシング史上2人目の2階級4団体統一王者である井上尚弥の世界戦ですら地上波の中継はなくなりました。井上自身は高額なファイトマネーをもらえる上にファンからも賞賛されていますが、かつての具志堅用高のような国民的人気者にならないのは地上波で放送していないからでしょう。やはり有料配信と無料の地上波では視聴者の裾野が違う。WBCだって同じようなことになるかもしれません。前回大会で侍ジャパンの一員として出場したラーズ・ヌートバーのような人気者はもう出てこないかもしれないし、沸騰している大谷翔平の人気も徐々に冷めていくかもしれません。ちょっと寂しいですけど」 デイリー新潮編集部