取引先接待で女性社員「生贄」にした40歳課長の「不適切」すぎる行動とは…企業がセクハラに取るべき対応も

セクハラがこれだけ問題視されても、接待や懇親会の場で女性社員が不適切な扱いを受けるケースが依然として存在する。上司が「これくらいは大丈夫」と軽く考えていても、当事者にとっては深刻なハラスメントとなる可能性も。前編記事ではそんな事例を紹介した。 引き続き本稿では、セクハラの定義や種類、事例におけるA上課長の問題点、今回の一件の気になる「その後」など、社会保険労務士の木村政美氏が解説する。 本記事の登場人物 A上さん:40歳。 甲社の営業課長。取引先のC山部長の機嫌を取るために、新入社員のD原さんを納涼会に連れて行き、セクハラ行為を容認したため、結果的にD原さんに退職を決意させることに。 B下主任:30歳。 甲社の営業主任で、A上課長の部下。乙社の担当者。D原さんのことを心配し、A上課長にセクハラについて注意するが聞き入れられなかった。 C山部長:45歳。 乙社の担当者。若い女性が好きで、納涼会でD原さんにセクハラ発言を繰り返した。 D原さん:22歳。 甲社の新入社員で、A上課長の部下。納涼会でC山部長からセクハラ被害に遭い、会社への不信感から退職を決意した。 そもそものセクハラの定義と種類 セクハラ(セクシャルハラスメント)とは、職場における性的嫌がらせのことで、性的言動により労働者が不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることをいい、次のように分類される。 (1)対価型セクハラ: 職務上の優遇を対価として性的な行為を要求したり、拒否したことで不利益な扱いをする。例えば、昇進・昇給と引き換えに性的な行為を求める、性的な要求を拒否したために降格や減給を命じるなどが該当する。 (2)環境型セクハラ: 性的な言動によって職場の環境が悪化し、従業員の能力発揮が妨げられること。例えば、一方的にわいせつな話をしたり、わいせつな写真を職場に掲示することなどが該当する。 (3)妄想型セクハラ: 相手が自分に好意を寄せていると勘違いし、性的な言動を行うこと。例えば挨拶や会話をしただけで恋愛感情があると勘違いし、しつこく食事やデートに誘う行為などが該当する。 (4)制裁型セクハラ 性別を理由に相手に圧力をかけること。例えば、「女性が俺に意見することは許さない」「女性の上司の指示には従わない」などが該当する。 セクハラは、加害者に自覚がなくても受け手が不快に感じれば成立する。これは、職場において性的な言動が本来不要であるため、どんな性別・関係性であっても不適切とされるからである。従ってパワハラ(パワーハラスメント)のように問題視される言動に至った事情は考慮されにくい。また、セクハラは異性間だけではなく同性間でも起こり得る。例えば男性の先輩社員が後輩の男性社員に対して、嫌がるのに性体験を尋ねたり、執拗な猥談を繰り返すなどが当てはまる。 酒席で起こりがちなセクハラの例 宴会や飲み会は社外で行われることが多いが、会社(上司)の命令により業務の一環として参加した場合、会場は職場とみなすことができるので、労働者の意に反する性的な言動はセクハラの対象になる。特に飲酒の場で起こりがちな女性社員に対するセクハラの具体例はどのようなものか。 (1)お酒を無理やり飲まされる 無理やり飲酒を強要される行為は、アルハラ(アルコールハラスメント)にも該当する。 (2)お酌をさせられる 女性社員のみにお酌を強要するのはジェンダーハラスメント(「性別によって社会的役割が異なる」との固定概念に基づく嫌がらせや差別を指し、男女雇用機会均等法では、性別による役割の固定化を禁じている)にも該当する。 (3)酔った勢いで身体を触られる (4)卑猥な言動を聞かされる 「下ネタを話し相手の反応を見てからかう」「過去の性体験の話をする」などは、女性社員に限らず男性社員に行った場合でも、相手や周囲が不快な感情を持てばセクハラになる。 (5)嫌がっているのに「彼氏はいるの?」「休日は何をしてるの?」などと、執拗にプライベートなことを聞かれる。 (6)その他の言動 「嫌がるのにカラオケでデュエットを強要される」「トイレの前で待ち伏せされる」「宴会後強制的に二次会やホテルに誘われる」「頼みもしないのに帰り道までついてくる」など。 飲酒によって気が緩み、普段はしないセクハラをしてしまう社員もいるが、酔っていて覚えていない場合でも「酒の席だから」と容認することはないので注意したい。 セクハラに関する会社の責任と義務など 企業は、職場の安全と尊厳を守るため、セクハラ防止に対して明確な責任と法的義務を負っている。 (1)男女雇用機会均等法の遵守 男女雇用機会均等法第11条により、企業は職場のセクハラ防止のため、就業規則への明記、相談窓口の設置、迅速な対応、情報管理と不利益防止、研修や環境改善など、雇用管理上の必要な措置を講じる義務がある。 (2)企業の安全配慮義務と民法上の使用者責任 労働安全衛生法第3条及び労働契約法第5条により、企業は従業員の安全と健康を守る義務(安全配慮義務)を負う。業務の一環として参加した酒席も職場と同様に管理責任を負い、セクハラなどによって従業員の健康が損なわれるなどの損害が生じた場合、民法415条に基づく「債務不履行」とされ、企業が損害賠償責任を負う可能性がある。つまり、会社が従業員を守るべき義務を果たさなかったことで、法的に責任を問われることになりかねないということだ。 (3)残業代の発生 セクハラとは直接関連しないが、業務として参加する宴会等が勤務時間外に行われる場合、その時間は労働時間とみなされ、残業代が発生することにも留意したい。 A上課長のケースは… D原さんの納涼会参加は、上司であるA上課長の指示によるものなので労働時間に該当する。そのことを踏まえた場合、A上課長の対応には、以下の問題がある。 (1)業務とは無関係な理由でD原さんを宴会に同行させたこと 「C山部長は若い女性が好きだから」という理由は不適切だし、B下主任が忠告するなどD原さんがセクハラを受けるリスクを認識していたにもかかわらず配慮がなかった。 (2)宴会中の不適切な対応 D原さんが困っているのにお酌を強制したり、猥談の相手をさせ、助けを求める声に「我慢しろ」と指示したうえ、C山部長の言動に同調し、セクハラ行為を増長させるきっかけを作った。(1)の行為と合わせて、管理職としてセクハラに対する認識不足である。 (3)会社の損害リスク 仮にD原さんがセクハラ被害で心身に支障をきたし、労災認定された場合、甲社は安全配慮義務違反としてD原さんから慰謝料を請求される可能性がある。更には取引先からセクハラを受けても守ってもらえなかったとして、他の従業員からの信頼を失う、D原さんが退職するなど、会社に損害を与えるリスクがある。 甲社が早急に取るべき対応 (1)D原さんへの対応 (ア)セクハラの事実関係を把握するために本人だけでなく、A上課長やB下主任からも詳しい事情を聴取する。 (イ)D原さんがセクハラを受けたことが原因でメンタルヘルス不調に陥っている場合、会社として適切なフォロー(カウンセラーや産業医との面談機会を設ける、病院の受診をすすめる、休養が必要な場合病気休暇や休職制度の利用を案内するなど)を行う。 (2)A上課長への対応 (ア)セクハラに対する認識不足が見られるため、再教育を実施し、ハラスメント防止意識を高める。 (イ)行為の重大性や影響を踏まえ、就業規則に明記がある場合は懲戒処分、もしくは人事上の降格扱いなどの妥当性を検討する。 (ウ)D原さんはA上課長に対して嫌悪感を示しているため、2人が同じ職場にいるのは適切ではない。D原さんの心理的負担を軽減するためにも、配置転換を検討する。 (3)乙社への対応 取引先や顧客など社外の人物による言動でも、業務に関連していれば「職場でのセクハラ」として扱われる。従ってC山部長によるD原さんへの言動はセクハラであると同時にカスハラ(カスタマーハラスメントの略。顧客や取引先などからの悪質な言動や不当な要求によって、従業員の就業環境が害される行為を指す)にも該当する可能性がある。甲社は乙社およびC山部長に対して正式に苦情を申し入れ、謝罪や再発防止策を求めることになるが、今後の取引関係を考慮して対応を控える判断をするかもしれない。 乙社が謝罪など誠意ある対応を示さない場合、D原さんは民法709条・715条に基づき損害賠償請求を起こす可能性がある。訴訟は個人の法的権利であり、甲社がそれを止めることはできない。訴訟を控えるよう要望することは可能だが、D原さんとの信頼関係は失われるだろう。対応を怠れば、甲社も損害賠償責任を問われかねないことを留意の上、従業員の権利と安全を最優先に、誠実かつ適切な対応を取るようにしたい。 <参考> 民法第709条:故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 民法第715条:ある事業のために他人を使用する者が、その被用者(従業員など)が事業の執行について第三者に損害を与えた場合に、使用者も損害賠償責任(使用者責任)を負う。 セクハラ問題、その後の顛末 B下主任とD原さんが会話している最中に、A上課長は甲専務(45歳の女性で甲社長の妹)から呼び出しを受けた。 「さっきD原さんから連絡がありました。昨日の夜乙社の納涼会に彼女も同行しましたよね。その時の様子を詳しく教えて下さい」 A上課長はその時の様子を説明し、「それが何か?」と聞き返した。 「彼女は『このまま会社を辞めたい』そうです。C山部長から執拗なセクハラをされた上に、A上課長も助けるどころか一緒になって喜んでいたとか。かなりショックを受けてました」 甲専務は社内ハラスメント相談窓口の担当者であり、D原さんからの訴えを受けていたのだ。A上課長は驚いた。 「乙社の担当者ではないD原さんを宴会に同行しお酌や下品な話の相手までさせる。彼女のSOSに救いの手を出さない。いくら取引先相手とは言え、上司としては非常にまずい対応です。どうしてこんなことになったんですか?」 「私はただ会社の業績UPに貢献したかったんです。だからC山部長に喜んでもらえたらと思って……」 「そうですか……。D原さんの状況次第では、甲社長と私とで乙社の経営陣にお会いして、事情を説明し対処を求めます。A上課長のしたことは、当社だけではなく乙社にも迷惑をかけることをわかってますよね?」 事の大きさに気づいたA上課長は、その場で謝罪するしかなかった。 【もっと読む】28歳主任が絶句…「反抗的な新入社員」の初任給が自分より高いことが発覚「会社辞めちゃおうかな」

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