オールドメディアはなぜ信用を失ったのか? 追及・糾弾一辺倒ではなく、ときに相手を思いやり、事件や騒動の当事者たちの胸の内を引き出す鈴木エイト——。取材者でありながら当事者となることへの責任をまっとうし、自らの使命と向き合う覚悟を日々忘れない。そんな鈴木エイトの作品は「私小説」ならぬ「私ノンフィクション」と評される。 さまざまな会見で「NG記者」となりながら真実を追い続ける著者が独自の取材手法をはじめて明かし、この時代の報道の問題点、ジャーナリズムのありかたを模索した『NG記者だから見えるもの』より一部抜粋・再編集して、本当に知るべき日本の深層をお届けする。 『会見場入り口で押し問答、挙手しても無視…“NG記者”が明かす「統一教会」の「メディア選別の闇」』より続く。 教団顧問弁護士がしどろもどろに 東京地裁が統一教会への解散命令の決定を行った2025年3月25日。教団は渋谷の本部で会見を行ったのだが、私は現地で入場を拒否された。他のメディアの記者はノーチェックで会見場に入れていたにもかかわらず、私だけが教団本部の入り口で職員から「あなたは立ち入り禁止です！　警察を呼びますよ！」と拒絶され敷地外へ追いやられたのだ。 だが、会見に参加していた知り合いの記者から連絡があり「どんな質問が効果的ですか？」と問われたため、教団が用いている訴訟数のグラフの数値がおかしいのでそこを突くと効果的だとレクチャーした。 実際にこの記者は的確にその点を指摘し、教団顧問弁護士がしどろもどろになるという展開が見られた。 翌26日、解散命令の決定文から、統一教会が清算手続き後の残余財産を実質吸収している天地正教という北海道の仏教系宗教法人へ帰属させる決議を16年前の霊感商法事件の際に行っていたことを掴んだ。私はそのことを当日夜に出演したTBSラジオ「荻上チキ・Session」のなかで指摘し、Xでも書いた。その翌日、統一教会の田中富広会長がFCCJで会見を開くことが判り、FCCJに参加を申し込んだ。 田中会長への質問 会見当日、会場に着くと、FCCJ関係者から「統一教会は鈴木エイトを会見に参加させるなと言ってきましたが、FCCJとして特定の記者を排除するようなことをするなら会見自体を開かせないと拒絶しました」と説明された。 会見で田中富広会長はこう主張した。 「今回の決定では、法人の解散の効果は法人格の喪失にとどまり、信者の宗教上の行為を禁止制限するものではないと言っていますが、果たしてそうでしょうか。岸田前首相に追従したといえる官僚たちによって法人のすべての財産は没収されることになります。10万人もの私たちの信者が集まる教会も施設も失うことになります。信徒の宗教活動の自由は深刻な制限を受けることになります」 質疑応答の時間となった。まずFCCJ正会員が優先して指名される。FCCJのモデレーターは一通り正会員からの質問が終わった後、手を挙げる私を最初に指名した。 ——田中会長は、先ほど“解散が確定するとすべての財産が没収される、10万人の信徒が集まる教会も施設も失うことになる”とおっしゃいました。解散命令の決定文に2022年度の期末に1136億円、教団が持っていて、そのうち現金が820億円あると書かれています。 現在、統一教会被害弁護団の集団調停で請求している額が約60億円、今後、被害弁償が最大100億円だと仮定しても1000億円以上が余ることになります。教団は文化庁に届けている規則のなかで解散決定時の残余財産は国、地方公共団体あるいは他の宗教団体、このうち責任役員会、（及び評議会）の議決で決めたところに帰属することを定めています。 実は統一教会は2009年6月23日の段階で責任役員会を開いています。6月11日に教団本部のすぐ目の前の（ビルに入る）南東京教区事務所（や渋谷教会）に警察（警視庁公安部）の家宅捜索が入った12日後です。家宅捜索の12日後、責任役員会を開いて残余財産の帰属先を天地正教にする決議をしています。天地正教の代表者（代表役員）は教団の信者です。もともとその時点で残余財産の帰属先を関連の宗教団体（宗教法人）に移管させるということを、16年前の段階で前もって手を打っていたのではないですか？ 田中会長の答弁 田中富広会長「私たちは宗教法人ですので、毎年文科省にすべての財産目録並びに財産のすべての状況を報告しております。すべての固定資産、並びに現金がどのようにあるかということもすべて文科省は把握しております。 そして、2009年に当時の役員会が、いわゆるもし解散した場合に財産をどうするかということにおいて、先ほど言われたような決定をしたことは私も承知しております。ただ、今私が会長になって、そして今、7人の役員がいますが、当時の役員は一人も入っておりません。 よく訊かれます。解散後、資産はどうするんですか？　と。今、私たちはそれどころじゃないんです。如何に日本の民主主義を守るために、この宗教法人に対して向かってくる様々な案件をクリアできるか。このことに最大限にエネルギーを投入してます。私たちの役員会で、この事件以降、解散後この財産をどうしましょうか？　と議題になったことは一度もありません。今は、今回の地裁の決定を高裁で如何に覆していけるか、ここに最大限の力を投入していきたいと思っております。以上です」 更問いができない会見形式だったため、田中会長の返答に対しての連続しての追及はできなかったが、この回答だけでも教団の欺瞞性が垣間見えた。 会見終了後、FCCJ関係者から以下の内幕を聞いた。統一教会は私を会見に参加させることはしぶしぶ認めたが、その代わりに質疑応答の際に質問者として私を当てないように注文を付けてきたという。だが、意に介さずFCCJのモデレーターは私を率先して指名したという。 会見者にとって最も都合の悪い問いかけ、正鵠を射る質問を行うスキルのある記者を指名するFCCJの姿勢に、何より私は最前線で報道にかかわる人たちの気概を感じた。こういうところにジャーナリズムはしっかり息づいているのだ。 私が掴んだこのスクープは翌日以降、各社が報じた。私の質問に対する田中会長の返答も多くのメディアが取り上げた。いち早く、重大な情報を掴みスクープを出し、各社が深掘りしていく流れを作ったことは記者冥利に尽きる。 『東山紀之氏のTOKIOメンバーへの発言は「ジャニー喜多川氏の性加害」を示唆していた!?…「NGリスト入り」した記者の推察』へ続く。 【つづきを読む】東山紀之氏のTOKIOメンバーへの発言は「ジャニー喜多川氏の性加害」を示唆していた!?…「NGリスト入り」した記者の推察