防衛大 暴行やいじめ“悪しき慣習”断ち切れるか “学生間指導”模索する学生たちに密着『every.特集』

「学生間指導」という、上級生から下級生への“いじめ行為”が問題となっていた防衛大学校。私たちは7か月にわたって、学生生活に異例の密着取材をしました。そこには、幹部自衛官になる者として、“悪しき慣習”を変えようとする学生たちの姿がありました。 ■7か月にわたり防衛大の学生生活に密着 私たちのもとに届いた、1本の動画。撮影された場所は、防衛大学校。そこには、上級生から下級生へのいきすぎた「学生間指導」が…。防衛大で今、なにが起きているのか。 異例の内部取材の許可がおり、私たちは7か月にわたって学生生活に密着。見えてきたのは、葛藤を抱えながら、これまでの“悪しき慣習”を変えようとする、学生たちの姿でした。 ■上級生からの“いじめ”で適応障害に 幹部自衛官を育成するための教育機関、防衛大学校。学生は特別職の国家公務員として、学費はかからず、給与が支給されていて、およそ2000人の学生が寮で生活しています。ここで、2023年に起きた出来事。 学生が部屋の中から撮影した映像。激しくドアをたたかれ、複数の人物に「出てこい!」などと、怒鳴り声を浴びせられています。撮影したのは、当時、防衛大の1年生だった伊藤さん(仮名)。 伊藤さん(仮名)の母親 「全然、顔が違うと思うんですよ。頑張ろうって感じだったんで」 入校当初は、厳しいながらも充実した学生生活を送っていましたが…。 伊藤さん(仮名)の母親 「ルール的には防衛大は、1年生はアルコールを飲んじゃいけない。成人していてもだめなんですよ。だめだよって注意してたんですけど」 同級生らと飲酒したことが発覚。そこから、上級生の厳しい“指導”が始まりました。 元防衛大生・伊藤さん(仮名) 「ペナルティーで基本的に休みの日でも関係なく『ずっと掃除しとけ』と」 「最終的には、ほぼ(食事が)食べられない状態で、ひたすら掃除させられる」 不眠や食欲不振が続き、適応障害の診断を受けた伊藤さん。防衛大の医師の指示で8人部屋から個室に移ることになりましたが、上級生からの暴言はさらにエスカレート。「死ね」「生きている意味がない」などと、繰り返し言われたといいます。 その頃に、伊藤さんはこの動画を撮影。「ドアたたいて逃げたり、夜中にどこかの部屋から電話かけてきて、出ようとしたらすぐ切る」と話します。 この動画を見た母親は、「びっくりしました。何これって。ここにいるの?って」「身体的暴力はなかったんですけど、言葉も暴力なんですよね」といいます。 伊藤さんはその後、寮を出て自宅に戻り、2024年3月、防衛大を退校しました。防衛大では、伊藤さんが入校する前にもいじめが問題になったことがありました。 ■福岡高裁「下級生に対する暴力など行われていた」 2013年、防衛大に入校した福岡に住む男性。 母親 「ここですね。これが殴られたあと」 上級生から「殴られる」「下半身の体毛に火をつけられる」などの暴行を受けました。「エアガンで撃たれたり、殴られたり日常的にやられていた」という男性は、「防衛大側がいじめ行為の防止策をとらなかった」として提訴。 福岡高裁は、防衛大側の責任を認め、(国に)268万円あまりの支払いを命じました。この判決で指摘されたのが、「学生間指導において、上級生の下級生に対する暴力や不当な精神的苦痛を与える行為がしばしば行われていた」。 ■“学生間指導”の名のもとで暴行やいじめ いきすぎた「学生間指導」。「学生間指導」とは、規律を守るため、学生同士で生活指導をしあうこと。将来、幹部自衛官として部下に的確な指示や指導をするため、防衛大創設以来、行われているものです。 裁判で防衛大が提出した、「学生間指導」に関するアンケートでは、144人もの学生が、「体毛を燃やされたことがある」と回答。また、半数以上の学生が不適切な学生間指導をされたり、見たりしていたことがわかりました。 「学生間指導」という名のもと、暴行やいじめ行為が行われていたことが明らかになったのです。 母親 「規律が厳しいのと、そういうことやっていいのと、全然違うじゃないですか」 「いまだに色々続いていると思ったら…なんかもう…」 この裁判の3年後に入校した伊藤さん。理不尽な「学生間指導」は、続いていたと訴えます。 元防衛大生・伊藤さん(仮名) 「どれだけ一生懸命やっても、苦しめるのが目的だから意味がなくて」 「なんのためにやっているんだろうって」 ■防衛大「課題含め、ありのまま見てほしい」 防衛大にも取材を申し込むと、「個人情報の観点から、個別事案への回答は控える」とした上で、「学生が寝食をともにする防衛大学校においては、発展の途上にある学生の間でのトラブルがあることは否定しません」とした。トラブルが起きた場合は早期解決に取り組んでいると説明。 そして、「課題も含めて今の防衛大をありのまま見てほしい」として、普段の学生生活の取材が許可されました。 防衛大では、「防衛学」など特別な科目だけでなく、一般大学と同じように基礎的な科目や外国語も履修します。また、実戦的な訓練も。座学と訓練、両方の単位をとって卒業を目指します。 ■“学生寮”内部の生活 上級生からの“指導” 寮で生活を送る学生たちの朝の始まりは、午前6時。点呼が終わると、一目散に寮の中へ。朝の清掃が始まりました。 3年 「ほこり残すな」 1年 「はい!」 上級生が下級生を指導します。 3年 「どうやったら0630までに終わるか、同期間で共有して」 1年 「はい!」 3年 「特に廊下清掃は人手がいる場所だから。2学年は確実にそれを監督すること」 2年 「はい!」 日中は、それぞれの授業や訓練に出席。 午後7時半からは、居室で自習を行います。 そして、午後10時。就寝前の点呼が行われたあと、1年生が水回りの清掃を行っていました。 1年 「終わりました」 きちんと清掃できているか、2年生が確認していきます。 2年 「ここまだちょっと残ってる」 1年 「はい」 2年 「きのうも言われてるから直すように」 1年 「はい」 生活の様々な場面で、上級生から下級生への「学生間指導」が行われていました。 ■「上下級生関係なく、人を見る能力磨くため」 一方で、学年関係なく指導を行うことも。週末は寮からの外出が許可されていて、外出前に服装の乱れを点検しますが、学年関係なく、互いにチェックしているといいます。 4年 「基本的には上下級生関係なく、人を見る能力を磨くために行っている。学年は関係なく、個人としてしっかり見ていきたい」 少しずつ改善を進める中、「学生間指導」を大きく変えようと、声をあげた学生がいました。 ■学生長“正しい厳しさ取り戻す”決意 「もしもし、今どういう状況? どれくらいであきそう?」と電話で話す、新4年生の小堀日輝さん。今年4月から、学生のトップである学生長を務めます。 小堀さんが向かったのは、防衛大の講堂。新4年生に対して、新学期の「運営方針」を発表する総会が行われるのです。多くの学生が集まる中、小堀さんが打ち出した方針は、「『学生間指導』の撤廃」。 そこには、「学生間指導」という名のもとで行われていたハラスメントを撤廃し、正しい厳しさを取り戻そうという決意が込められていました。 学生長・小堀日輝さん 「俺らの中に、『学生間指導』が固定化されて、マニュアル化されている」 「指導はパワハラで厳しいもの、イコール指導っていう連関があるから、パワハラするなと言ったら、指導しなくなる短絡的な思考に陥る」 「1年生にだけ強度の高いことをするとか、そういったことをせずに全学年やることはやる。信賞必罰の姿勢で臨む、そこに厳しさを求める」 そして、最後には。 「防大生としての自覚。幹部自衛官になる者としての自覚。国民から期待されてる・投資されてる自覚。自覚をしっかり持って生活してほしい」 「目の前にいる1・2・3年生をどうこうすることにこだわらず、今自分がなすべきことが、将来の日本にどう響くか考えて、そこに焦点を置いて生活してほしい」 「自覚」と「長期的な目線」をもってほしいと伝えました。 ■響かない学生も…道のりの険しさを痛感 総会が終わると、今後についてさっそく話し合う学生もいる一方で…。 新4年 「学生に直結する内容だったから、聞き入るかなと思ったけど、聞き入らなかったね、正直。あまり響いてなかった、中身」 学生長・小堀日輝さん 「完全に理解してもらおうとは思ってないから、最初から」 道のりの険しさを痛感していました。 ■新しい「学生間指導」の方法を模索 2025年4月。新年度を迎え、新しい1年生が入校しました。防衛大を訪れると、4年生が直接、新1年生に寮生活のルールについて指導する中…。 4年 「威圧感をかけなければいいってこと?」 学生長・小堀日輝さん 「威圧感かけなければいいじゃなくて、集合させられているな、その理由が『1年生だから』ってなると、なんでってなる」 4年 「なるほどね」 学生長・小堀日輝さん 「2年と1年だけ集めて、上級生がまわりからガヤ入れるみたいなのは、1・2年生やらされてる感あるじゃん。そういうのは本来あるべき姿じゃない」 4年 「OK」 試行錯誤しながら、新しい「学生間指導」の方法を模索していました。 ■「学生間指導」改革 防衛大は変われるのか 「学生間指導」の改革を始めて4か月。 学生長・小堀日輝さん 「慣習で行われたものができなくなったからこそ、みんなで考える気概が生まれたという声もあった。ある程度、意識を変えることができたかな」 防衛大も、こうした学生の動きについて「より一層学生に寄り添い、きめ細かなケアをしたい」としています。 防衛大は変われるのか。学生たちの歩みは続きます。 (8月21日『news every.』より)

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