ムーヴにあってタントにない「センターピラー」の重要な役割 2025年6月に発売されたダイハツの新型「ムーヴ」は、歴代で初めてスライドドアを採用したこともあり、好調な販売成績を記録しています。反面、従来からスライドドアを採用していた「ムーヴキャンバス」や「タント」との差が曖昧になったと指摘する声もあります。 【え、こいつが!?】これが日本初の「センターピラー無し車」です(写真で見る) このうち、キャンバスはレトロ調のかわいらしいスタイリングも独自の商品性となっていますが、タントについては新型ムーヴとデザインのテイストも近く、その差は以前より小さくなりました。しかし、同じスライドドアを採用する両車の決定的な差と言える部分があります。それが「センターピラー」の有無です。 センターピラーはボディの部材の一種で、前後のドアやサイドウィンドウの間に設けられた柱状の部分のことを指します。センターピラーはボディ剛性の確保や、側面衝突時の衝撃吸収の面で大きな役割を担っており、車体の骨格を構成するうえで、非常に重要な部品です。 新型ムーヴはほかの多くのモデルと同様、センターピラーを持つ一般的なボディ構造を採用しています。一方、タントは助手席側のみセンターピラーが存在しない「ピラーレス構造」のボディで、センターピラーをスライドドアに内蔵することで、強度を保ちつつ、大きなドア開口面積を実現。「ミラクルオープンドア」の名で利便性をアピールしています。 これはタントが2007年発売の2代目から採用し続けている特徴的な構造で、現行車ではこのほか、商用車のホンダ「N-VAN」シリーズが類似したボディ構造を持っています。また、過去にはスポーツカーのマツダ「RX-8」や、ミニバンのトヨタ「ラウム」「アイシス」などが同じ発想のボディを採用していますが、いずれも限定的な普及に留まっています。 一世を風靡した「ピラーレス構造」なぜ再ブレイクしない? かつて、センターピラーを持たないボディ形式は一般にピラーレス「ハードトップ」と呼ばれていました。1960年代から国産車にも普及し始めたハードトップ車は、前後のウィンドウが大きく開く開放感の高さから、1970年代〜1980年代にかけて大流行。主に4ドアセダンや2ドアクーペタイプのスポーティなモデルに採用され、一世を風靡しました。 片側ピラーレスの構造を採用しているダイハツ「タント」(画像:ダイハツ) また、1982年には、センターピラーレス構造かつ両側スライドドアを持つミニバンの日産「プレーリー」がデビュー。大きな開口部による、使い勝手のよさをアピールしていました。 しかし前述の通り、センターピラーのない構造は強度を確保するうえで非常に不利でした。操縦性や耐久性への悪影響は当時からたびたび問題視されており、80年代後半からは、安全性の低さも問題視されるようになりました。このため、ピラーレスハードトップタイプのモデルは1990年代以降、ほぼ姿を消していきました。 タントやN-VANの片側ピラーレス構造は、昭和期にブームとなったハードトップ車の弱点を克服しつつ、そのメリットをスタイリングではなく、使い勝手のよさに見出して進化したものと言えます。 その反面、左右非対称のボディ構造は開発が非常に難しいうえ、補強によって車体の重量が増加しがちです。当然ながらコストも相応にアップしていくため、採用例は一部の車種に限られています。新型ムーヴとタントを比較検討する場合は、このピラーレス構造が必要となるか否かも判断材料にできるでしょう。