要塞と化したザポリージャ原発、意に沿わない従業員には拷問も…ロシア軍の占領続けば「大事故に」

 ロシアによるウクライナ侵略が24日で3年半を迎えるなか、露軍はウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所でも占拠を続けている。  欧州最大規模の同原発で事故が起きれば、甚大な被害が出る。元従業員が読売新聞の取材に応じ、露側による管理の危うさを証言した。(キーウ 倉茂由美子)  侵略開始直後の2022年3月3日夜、原発がある南部ザポリージャ州エネルホダルに、露軍の戦車が突入した。隊列が直行したのは市庁舎ではなく原発だった。「聖域といえる原発を露軍が乗っ取るなんて」。23年1月まで放射線安全部門の技術者として勤務したオレフ・スカチョクさん(55)は、避難先のキーウで振り返った。  原発では当時、約120人のウクライナ国家警備隊員が守っていたが、「事故回避のため、抵抗をあきらめた」と休暇で自宅にいたスカチョクさんに同僚から連絡が入った。5日後に出勤した際、原子炉の建物に残った砲弾の跡や、半数以上が吹き飛んだ窓ガラスを目撃した。原発事故という最悪のシナリオが頭に浮かんだが、「原発を守らねば」と勤務の継続を選んだ。  原発は露軍の要塞(ようさい)と化した。武器や弾薬が運び込まれ、ドニプロ川対岸のウクライナ軍に向けて砲撃も行われた。兵士らはウォッカで酔い、売春婦を連れ込んだ。かつて職場で重視された規律や衛生管理は一顧だにされなかった。  兵士らは、施設から銅などの金属を勝手に切断し、持ち出すようになった。原発の周囲には、ウクライナ軍の進入を防ぐために地雷がまかれたが、野生動物による接触ですべて爆発し、原発設備の一部が破壊されていった。 ◇  2022年3月からロシア軍が占拠を続けるウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所では、ウクライナ人の従業員らが、露国営原子力企業ロスアトムとの雇用契約を強いられた。元従業員の証言によれば、内部では露側の意に沿わない従業員への監視が強まり、拷問も行われた。 残ったのは5000人  「送り込まれてきたのはロシア国家親衛隊、化学部隊、そしてチェチェン人部隊だった」。元従業員のオレフ・スカチョクさん(55)は、原発施設が三つのエリアに分割され、それぞれの部隊が管理するようになったと明かした。  施設内の通行が制限され、停電時に異常を感知しても、ほかの部隊の管轄だと、対応に行けないこともあった。  同原発には元々約1万1000人の従業員がいたが、次々に去り、残ったのは約5000人。人手不足を補うため、原発での勤務経験や専門知識のない地元住民も雇うようになった。  ロスアトムからは3か月ごとに約150人のロシア人出張者が派遣されたが、同原発では欧米のシステムを取り入れた設備改良が進んでいたため、「ロシアで使用されているものと異なり理解できず、仕事にならなかった」という。 密告され尋問も  ウクライナ従業員の取り込みを図るため、露側はロスアトムとの契約を求めた。「(ウクライナ企業の分と)給与が二重取りできる」「契約しても誰にも知られない」と言葉巧みに誘ったが、22年9月頃に圧力を強め、未契約者を1人ずつ呼び出した。露連邦保安局(FSB)当局者が同席し、「契約しなければ問題が起きる」と脅してきた。  スカチョクさんは、回答をはぐらかしたが、約2000人の従業員が契約に署名したという。署名した従業員は、未契約の従業員に対する行動監視と密告を求められた。  22年11月、原発施設が砲撃で損傷した際、スカチョクさんが、「これはウクライナ軍からではない。露支配地からだ」とつぶやくと、密告された。尋問されるとともに電気ショックを受け、「お前のような者は不要だ」と出勤禁止になった。 スパイと疑われ電気ショック  監視の目は、職場にとどまらない。露軍の占領下にはないザポリージャに滞在しているエネルホダル市のドミトロ・オルロフ市長(40)によると、これまでに約2000人の市民が露当局に拘束された経験があり、少なくとも30人が禁錮10〜20年の判決をうけたという。侵略前の人口は約5万人だったが、今残るのは約2割だとされる。  原発の電気技師として昨年7月まで勤務したビタリーさん(41)と、輸送担当のオレナさん(53)夫婦も、自宅や路上で当局に連行され、不当な拘束を受けたと証言した。  2人ともロスアトムとの契約は拒否していた。ウクライナ情報当局のスパイだと疑われ、電気ショックを受けたほか、薬品入りとみられる紅茶を飲まされ、意識がもうろうとした状態でポリグラフ検査にかけられたという。  今は、西部フメリニツキー州の原発で勤務しながら避難生活を送る。スマートフォンではいつもザポリージャ原発付近での攻撃情報を調べる。「あの状況が続けば、いつ大事故となってもおかしくない。ロシアの占領を終わらせなければならない」と訴えた。  ◆ザポリージャ原発=ウクライナに4か所ある原発の一つ。原子炉6基を擁し、出力は1基あたり95万キロ・ワット。現在は6基全てが冷温停止状態で、原子炉冷却などに必要な電力は送電線を通じて外部から供給している。2022年9月以降、国際原子力機関(IAEA)の職員が常駐する。

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