孤立した子どもたち、「居場所」見つけ「自分が肯定されたよう」…STOP自殺 #しんどい君へ

 夏休みが終わる前後、子どもたちの悩みは深まる。  この時期、自ら命を絶つ小中高生は1年で最も多い。思い詰めた子どもに対し、何ができるのか——。専門家は、孤独から逃れることができる学校や家庭以外の「居場所」の拡充を、その一つに挙げる。(上田詔子、宇田和幸) 一人じゃない「心が落ち着いた」  今月中旬の週末。東京都豊島区にあるビルの一室に、10〜20歳代の男女15人ほどが集まっていた。NPO法人・サンカクシャが運営する「サンカクキチ」。スマートフォンをいじったり、夕飯を食べたりと、思い思いに過ごす。  高校を2年の夏に中退した男性(18)は、趣味のギターを弾いていた。「こんなに恵まれていていいのかと思うくらい、今は幸せだ」と話す。  小学校低学年の頃から、酔った父親に酒瓶で殴られた。兄からも暴力をふるわれて心身が不安定になり、中学で不登校になった。家にもいられず、倉庫で過ごす時もあったという。  早く家を出るため、手に職をつけようと工業高校に進んだ。家族の機嫌を悪くしないよう過ごしていたことで身に付いたのか、「完璧でなければならない」という思い込みが強かった。宿題を忘れるだけで気持ちが沈み、首をつって死のうとしたこともある。  結局、高校を中退したが、家は出た。資格を取得していたので溶接工として働き、給料を日払いでもらってネットカフェで寝泊まりした。  そんな毎日に孤独感が募り、ネットを検索していて見つけたのがサンカクシャだ。今の大工の仕事や住む場所を一緒に探してくれた。  男性は「ここには同じような境遇の人がいる。一人じゃないと思うと、心が落ち着いた」と語る。 小中高生の自殺原因、最多は「学校」  厚生労働省と警察庁によると、2024年に自殺した小中高校生は、過去最多の529人。家族らへの聞き取りなどを基にした原因・動機の分析(複数計上)では「学校」が最も多く、「健康」「家族」と続いた。  文部科学省の23年度調査では、病気などを除く要因で年間30日以上学校を休む「不登校」の小中高校生は41万5252人。全国の児童相談所が対応した子どもへの虐待は22万5509件で、いずれもこれまでで最多となった。学校や家庭に居場所のない子どもたちが「トー横」(東京)、「グリ下」(大阪)などの繁華街の一角に集まり、トラブルに巻き込まれるケースは後を絶たない。  文教大の青山鉄兵准教授(社会教育学)は「居場所がないと、孤立を招き、『生きづらい』という気持ちにつながっていく。安全で、安心していられる場所が求められている」と訴える。 ふさわしい支援機関との連携カギ  夜の街を巡回し、チャットなどを通じ子どもたちからの相談を受け付けているNPO法人・BONDプロジェクトは都内の繁華街近くに、10〜20歳代の女性に限定したカフェ風の居場所「MELT」を設けている。  今月中旬、初めて訪れた女子高校生(17)は、母親とその再婚相手からの虐待で苦しんでいることを、チャットに書き込んだ。「直接お話できたらと思ったよ」との返信には予約の案内もあり、手続きをすると行き方がわかるようになっていた。  女子高生は小学生の時、いじめがきっかけで不登校になり、中学生からリストカットを繰り返した。警察や児童相談所に助けを求めたことはあるが状況は変わらず、「大人は信用できない」と思ってきたという。MELTスタッフとの面談後、「最後まで親身に話を聞いてくれ、自分が生きていてもいいと肯定されたように感じた」と語り、表情が明るくなった。  淑徳大の氏原将奈准教授(地域精神保健)は「孤立している若者は、心を閉ざしているケースが多い。焦らずに信頼関係を築いたうえで必要な支援を探り、ふさわしい支援機関と連携することが重要だ」と指摘している。  厚労省は24年版「自殺対策白書」で、09〜23年(コロナ禍の20年を除く)の14年間について、自殺した小中高校生の日別の人数を集計し、公表している。9月1日の93人が最も多く、8月31日、同24日と続いた。8月下旬〜9月上旬に集中している。 ◇  「#しんどい君へ」は次回から、自身も悩み、苦しんだ著名人が、同じ思いをしている子どもたちに向けて経験を語ります。

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