【詳報】AI活用で乳がん検査の精度向上めざす〜エコー検査の画像診断支援ソフトを発売

9人に1人の女性が乳がんと診断される中、より正確にがんを見つけるためにAIが医師をサポートする新たなソフトウエアが発売されます。乳がん検査の現状をまとめました。 ■左胸に硬い板のような違和感が・・ 慶応大学の中室牧子教授(教育経済学)は2021年の年末、左胸に硬い板があるような違和感があり、乳腺専門クリニックを受診。ステージ0という早い段階で乳がんが見つかり、翌年2月に左胸の全摘手術を受けたということです。 実は、中室さんは毎年、マンモグラフィで検査を受けていましたが、乳管に沿ったがんだったためか、見つからなかったといいます。マンモグラフィは重要ですが、医師からは「それだけでは見つからないがんもある」と説明されたということです。中室さんは親しい友人に乳がん経験者が複数いて「とにかく油断しないように」と常に警戒していたため、胸の違和感に早めに気づけたと話し、早期発見の大切さを訴えています。 ■AI活用で乳がん検査の精度向上へ新しいソフトウエア販売開始 国が推奨している乳がん検診は40歳以上の女性に対する2年に1度のマンモグラフィで、精密検査が必要な場合はエコー(超音波)検査や生検(組織を採って調べる)を行います。自治体や人間ドックのコースによってはエコー検査を最初から行う場合もあります。 このエコー検査の精度を高める新たなソフトウエアが開発されました。株式会社SmartOpinionと慶応大学医学部が共同開発した画像診断支援ソフト=スマートオピニオン METIS Eyeは、乳房に超音波をあてる段階は従来通りですが、医師による画像診断の際、さらなる精密検査が必要な病変があるかどうかの判断をAI=人工知能がサポートするものです。去年、国から正式に薬事承認され、8月19日販売開始が発表されました。 このAIには、乳がん患者らの画像5000例以上を記憶させたということで、がんの可能性があり、精密検査が必要とみられる部分は赤枠で囲われます。しこりなどがあっても精密検査不要とみられる場合は緑色の枠で示されます。精密検査が必要かどうかはAIではなく、医師が判断しますが、AIがサポートすることで、見落としを防ぎ、検査の精度のばらつきをおさえることが狙いだということです。 ■正確性は熟練の専門医と同程度 開発したSmartOpinion社によると、この新しいソフトが精密検査の必要・不要を正確に診断する正診率は89.6%で、熟練の最高レベルの乳腺専門医(正診率90%前後)並みだということです。今後医療機関に販売されますが、初期費用はソフトの価格のほか、従来のエコーの機器と接続する費用など含め数十万円で、各医療機関の判断で、1200円程度が検査費用に上乗せされる可能性があるということです。 ■実際に試験運用した医師は 新しいソフトの試験運用に協力した乳がん専門医、首藤昭彦医師(慶応大学予防医療センター特任教授)は画像を示しながら次のように説明しました。 「これは非常にみつけづらい1センチぐらいのしこりですが、形状からしてがんだと強く疑われ、精密検査が必要だと我々は判定します。この新システムでも赤枠がついていて、しっかり(病変を)拾っています。」 「我々は乳がんの専門医として数千以上の症例の経験があって、それをもとに画像診断していますが、たとえば数10万例、数百万例の経験を持っている医師がいるとすれば、そちらの方がはるかに優秀なわけです。それがAIだとして、我々が画像診断する際、横にそうしたスーパーマンがいてくれれば心強い。そうした可能性をこのAIは秘めていると考えられます。今のところ、まだこれはスーパーマンではないんですね。今後さらにいろいろな症例データを蓄積してより正しい判断をしてもらうことが大事だと思います。」 ■マンモグラフィの有効性と弱み 国が推奨している乳がん検診、マンモグラフィは、板で乳房をはさんでX線、いわゆるレントゲンで撮影しますが、乳房を板で平たくする際に痛みが生じます。マンモグラフィは石灰化した乳がんを見つけるのに適している一方で、がんが最初に出来た場所から染み出る浸潤性の場合はみつけにくいということです。また、欧米人のように脂肪が多い乳房には適していますが、日本人の乳房は脂肪が少なく、乳腺が発達して密度が濃いため、全体が白く映り、乳がんが見つけにくい場合があると言われています。 ■エコー検査とは・・利点の一方で、精度にばらつきが 一方、エコー検査は、痛みがなく、乳腺が発達した乳房にも適し、浸潤性の乳がんが見つけやすいということです。しかし、超音波をあてるのに技術が必要な上、経験豊富な医師とそうでない医師では、画像を見て判断する精度にばらつきがあるのが課題です。そのばらつきをなくそうと、新たなソフトが開発されたということです。 ■AI活用で、専門医が少ない地域含め全国どこでも高いレベルの乳がん検査を このソフトを共同開発した慶応大学医学部教授・林田哲医師(日本乳癌学会理事)に開発の目的やAI活用の今後などについて聞きました。 「日本には乳腺専門医は約2000人しかおらず、都市部に集中していて、乳腺専門医が10人いない県もあります。その結果、乳がん検診の画像を乳腺専門でない内科医が怖々判断している場合もあると聞いています。そこで、人工知能が診断を補助し、最高レベルの検診が全国津々浦々、どこでも受けられるようにと思って開発しました。」 「AIは、(がんかどうか)微妙なケースをたくさん読み込ませた方が判定が鋭くなると考えられていますので、当初は微妙な症例をたくさん入れたんですが、賢くなるにつれ、見てすぐに(がんだと)わかるようなものも少しずついれました。」 「医療分野でAI活用が一番進んだのは画像診断や病理診断ですが、慶応大学は主に消化器外科が、AIによる自動手術や手術を補助するAIを開発しています。ここを切っていいとか、引っ張りすぎていますよとか検知してアラートを出してくれる」 ──AIに頼りすぎると、医師の力量が低下するといった論文も海外で発表されています 「AIが本当に人間を凌駕(りょうが)する精度になるなら、許容範囲内であれば、人間がこれまでやってきたことをAIに任せてもいいのではないか。人間の能力は落ちていくのかもしれませんけど、人間は人間にしかできない、患者さんの心のケアとか、患者さんへの説明時間を増やすとかに注力できるようになれば、いいんじゃないかと思います」 ■マンモグラフィとエコー、両方の精度を高めることが重要。そして必ず検診を 乳がん検診についてもうかがいました。 「マンモグラフィで見えるけど、エコーでは見えないとか、エコーで見えるけれどもマンモでは見えない乳がんというのもありますので、両方の精度を高めることが重要かなと思います。」 「ステージ1で見つかれば、97〜98%の確率で根治を見込めますので早期にみつけて早期治療するのが非常に有効です。セルフケアは重要ですが、自分で(乳房を)触って見つかるのは少し進んでしまった乳がんの可能性が高い。やはり検診を必ず受けないといけないと思います。」 なお、マンモグラフィとエコー検査併用検診について、日本乳癌学会は感度上昇、適切な精度管理が行われるならば、行うことを弱く推奨するとしています。また、この2つの検査併用で死亡率が減るかを調べる比較試験(JーSTART)も現在行われています。 ■AI活用によるがんの早期発見を政府も推進 がんの画像診断にAIを活用する取り組みは、すでに胃がんなどで進んでいます。政府の骨太の方針にも推進が盛り込まれ、さらなる広がりが期待されています。

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