55年前の万博のほうが“未来を感じられた”のでは? 1970年は「月の石」に行列ができたのに、2025年は「回転ずし」に行列ができるフシギ

 第1回【酷暑の万博を訪れた「関西出身の還暦コンビ」が入場前から“熱中症”の危機…人気パビリオンの大行列を目にして「ホンマに死んでまうかもしれんで」】からの続き──。私が関西万博を訪れたのは7月1日。スマートフォンは気温30度と表示したが体感ではもっと暑く感じ、熱中症が心配になった。【井上トシユキ/ITジャーナリスト】(全3回の第2回)  *** 【写真10枚】思わず惹きつけられる魅力たっぷり… 万博会場を彩る「世界の美女」たち  人気のパビリオンは大半が予約必須だ。先着順のところは長蛇の列ができている。一緒に訪れた友人も私も還暦のオッサン。猛暑の行列に加わるのは「ホンマに死んでまうかもしれんで」との結論に達した。いったん大屋根リングに上り、冷静に会場内を俯瞰して混雑を見極めようということに決まった。リングに上るエスカレーターは目の前にある。 公式キャラクターの「ミャクミャク」 「こんな暑いのに、エスカレーターは故障せんのかいな」 「東京の三鷹駅にもハダカのエスカレーターが何個かあるけど、雨の日も風の日も機嫌良う動いとるから、晴れの日は大丈夫なんちゃうか」  エスカレーターに乗って上を向くと、空へ一直線に進んでいくような感覚があり、意外にもワクワクする。だが、リングの最上部に到着すると強い日光に直射され、ゆるゆると吹く生ぬるい風にまとわりつかれた。とたんに高揚していた気分が落ちる。 「ここにこそ、全周ミスト張ったらエエのに」 「また虫が来よって文句出るから、わざとやらんのやろ」  リングの外端にある傾斜を上り、海を見渡す。大阪南港の倉庫群やクレーン群が見えた。 「パッとせん景色やなぁ」 「日没の夕陽がきれいやて、夕方には凄い人数が集まるらしいで」 不味い給水器  大屋根リングはそれほど高くはなく、見晴らしも良くない。降りることにしたが、トイレに行きたいと友人が言う。幸い、ほど近いところにあった。リングの下を見通せる場所があったので覗き込むと、大勢の人がテーブルを囲んで座ったり、太い柱に寄りかかって休んだりしている。これほど暑いとリングの上には誰も近づかないのだと初めて気づく。  トイレの向かいに自販機スペースがあり、何気なく入ると給水機がある。報道で知り、飲んでみたいと思っていた。持参した紙カップいっぱいに注ぐ。  不味い。温いことを差し引いても、これまでに飲んだ水のなかで群を抜いて不味い。底に味噌汁がわずかに残ったお椀に水を注いだら、ぼやけた味噌の味が少しして、どうにもスッキリしない味わいとでも言おうか。大阪の水が美味しくないと言われているのは知っていたが、ここまでとは思わなかった。  とにかく入れそうなパビリオンへ突撃する。手近なベトナム館には長蛇の列ができていたので、並びにあったアラブ首長国連邦のパビリオンに入った。最新のオフィスビルのような開放的で明るい建屋の中に大きな木がいくつもあり、足下にはその木の皮か茎か葉か何かで編んだと思われる絨毯のようなものが敷いてある。フカフカして踏み心地が良い。 興ざめのスシロー  あちらこちらで、いかにも中東の満たされたエリート然としたスタッフが小声で談笑していた。「これはどういう展示なのですか?」と英語で尋ねてみたが、「そこのプレートにある説明を見てください」と中東訛りの英語で返される。日本語は話せないという。  プレートを読むと、アラブ首長国連邦にとって歴史的にも文化的にもとても重要な木だとはわかった。だが関西万博のコンセプトである「命輝く未来社会のデザイン」との整合性は、どこをどう読んでもわからない。どうでもよくなって、土産物のコーナーへ寄る。欲しいと思う物は、どれも予想よりもはるかに高額だった。  こうなったら数を見なくては時間の無駄だと友人と意見が一致し、コモンズ(共同館)のBとCへ向かう。途中、「静けさの森」を通ったが、いきなり「スシロー」のロゴマークが目に入って驚く。パビリオンではなく出店であれば、たとえ業者が運営していても「万博寿司」といった風な、場に合わせたOEM(委託ブランド製品生産)的なネーミングにするものと信じ込んでいたからだ。 「だって、いきなりスシローのロゴが出てきたら、非日常のイベントの中におるのに、いつもの日常に先祖帰りしてまうやんか」 「向こうかて外国人への宣伝込みで出てきてんねんから、そらいつものスシローでやりたいんやろ」  いずれにせよ、個人的には興醒めだった。大阪で江戸前スタイルの回転寿司というのも合点がいかない。 非日常の行列と日常の行列  そのスシローが入る建物の隣にコモンズBがある。昼時が近いせいか、スシローの前には行列ができていた。来場者が求めるものは「非日常の中の日常なのである」と言われれば、それはその通りですねとしか言いようがない。  70年万博の「月の石」は非日常の権化だった、と思う。私は70年万博を訪れたことがあり、その時は太陽の塔を筆頭に強い衝撃を受け、心から感動した。だが「月の石」を展示したアメリカ館は、あまりに長い行列で見ることができなかった。  それでも自分だけでなく親さえ迷子になるほどの大変な混雑の中で、ぎゅうぎゅうに詰めて必死の形相で並んでいた真っ黒な行列(に見えた)を思い出すと、あれは紛れもない非日常の光景だったと言いたくなる。 「マンガや映画でしか見たことない、まったく新しい未来なんて、誰も来てほしくないんやろか」 「適度に知ってる日常が組み込まれた、安心できる未来の方が誰でもエエんとちゃうか」  なるほど、それはそうだ。そもそも急激な変化なんて、そうそう起こるものでもない。インターネットやAIだけでも、すでに辟易してお腹一杯になっている人も実は多いだろう。考えても仕方がないことを考えながら、コモンズの建物に入る。 ※第3回【関西万博を訪れたITジャーナリストが“未来社会”のイメージを見い出せなかった根本的な理由…「VR映像はもはや未来の技術ではない」】では、さらに詳しくコモンズ(共同館)内部の様子や、目玉の一つであるガンダム像に対する違和感などについて、井上氏が詳細にレポートしている──。 井上トシユキ(いのうえ・としゆき) 1964年、京都市生まれ。同志社大学文学部卒業後、会社員を経て、98年からジャーナリスト、ライター。IT、ネット、投資、科学技術、芸能など幅広い分野で各種メディアへの寄稿、出演多数。 デイリー新潮編集部

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