哲学者”カント”の言葉も現代なら「女性蔑視」で「大炎上」もの…医師の「収入と離婚率」から分析する発言の当否

「危ないとわかっていてどうして依存症になってしまうの?」「ダイエットに失敗するのはなぜ?」「どうしてバッシングが起きるの?」「なぜ人は平気でウソをつくの?」——。自分ひとりの悩みから人間社会全体にまで及ぶこれらの問題が、‟脳”にあったとしたら……。それはまるで咒がかけられているようです。 中野信子さんが『咒の脳科学』で、人間の意思を超えて行動を左右する脳の働きを解き明かします。人生や仕事をよりよくするために、脳のメカニズムを知ることは欠かせない、と実感できるでしょう。 『「収入」「学歴」「容姿」…相手を値踏みしてしまうのは、人が自分の価値を決められない脳の持ち主だから』より続く。 カントの発言は「現代なら大炎上」 ドイツの哲学者イマヌエル・カントは18世紀にこのようなことを述べていたという。 苦労をともなう学問の研究や難しい思索に、たとえ女性が成功したとしても、それは彼女の性にふさわしい美点を破壊する。それによって彼女は冷ややかな尊敬は受けようが、異性に対して絶大な力を振るう魅力は失われる、というもの。 カントといえば多くの知識人が仰ぎ見る偉大な哲学者であるが、もし仮に、現代の基準の中でこのような言葉を発したとしたならば、いかにカントといえども大炎上してしまうのではないだろうか。 また、人文科学系の学問と自然科学系の学問の差をここまで強烈に感じる言葉も少ない。 人文科学では偉いとされた人は、いつまでも偉い。だからいまなら大炎上ものの発言をしたカントでも、偉人の地位は揺るがない。ほとんど反論することは許されないようなものだ。 一方、自然科学では偉いとされた人の仮説は、いつでも、誰でも反証可能である。10年前に正しいと考えられていたことでも、高名な先生が発表した美しい実験による研究結果であったとしても、たった一晩で学界のコンセンサスが変わってしまうこともある。 正邪の基準は「権威」で変わる 権威は正邪とは独立しているはずだと一般的には考えられているかもしれないが、多くの人はそう行動してはいない。知識人ですら同様だ。人間は、自分で考えているよりもずっと権威を無意識に優先する。しかも、正邪の基準はあっという間に変わってしまう。この不安定で不確実な世界で、私たちはどう生きていけばいいのかと足元が崩れるような思いになる人もいるかもしれない。 さて、女性に対する視線についてカントが述べた内容自体についてだが、現代社会でこのようなことを口にすれば眉を顰められる可能性は高いにしても、そう考える人が少数派というわけではどうもなさそうである。 人類学者のフィッシャーによれば、女性の経済的自立と離婚率とには相関があるという。つまり、女性が経済力を持つと、離婚したくなるということになる。さらにこの傾向は、国が貧しいか豊かであるか、また社会システムの形態などには関係なく、どのような社会であっても同じであったという。 フィッシャーの解釈をわかりやすいように言い換えてお伝えすると、離婚するメリットとデメリットを差し引きしたとき、デメリット分は経済力によって埋め合わせることができるため、女性が離婚することを選択しやすくなるのではないかと述べている。 女性の経済力と結婚の関係 これは裏を返して言えば、離婚しない女性のうちある一定の割合の人は、「金のために不本意な婚姻関係を継続している(あるいは、せざるを得ない状況にある)」ということになろうか。やや世知辛い言い方だが、先進国をはじめ世界各国に見られる男女の賃金格差から考えても、2023年のOECD平均で10ポイント以上の開きがあり、女性は働いても男性の9掛けでしか対価を支払ってもらえないというデータになっている。日本ではさらに差が大きく、先進主要各国の中では悪目立ちしてしまっている(男性の賃金の中央値を100とすると女性は74・8)。 とはいえ、経済力を持った女性は結婚を忌避するのかといえば必ずしもそうとは言い切れない。確かに経済力の高い女性は未婚率が高いというデータもあるが、これは女性がそれを嫌うというよりは、男性側が経済力のある女性に気後れしてしまい、その層を結婚対象として見ることができないという背景もあると考えられる。 高収入で経済的に安定している女性は、男性を選ぶ基準も確かに上がってしまう。医学部の女子学生は、将来の高収入が予想されるが、結婚相手として自分と同等か、それ以上の収入がある男性を望むという調査結果がある。男子学生は、6割が自分よりも低い収入の相手を望み、4割が職業的地位の低い相手を望んだ。 医学部以外の学生たちの調査でも同様の結果が見られ、女子学生では将来高額の収入が見込まれるステイタスの学生ほど、配偶者選びにあたって相手の経済力を重要視していた。 「トロフィーワイフ」は世相を反映する 一方、1990年代後半ごろには、アメリカの富裕層が再婚する場合の相手として、昔ながらの「トロフィーワイフ」のステレオタイプのような人ではなく、ビジネス上も有能なパートナーが妻として選ばれがちであると言われるようになった。そのような特集記事も雑誌に載るようになり、結婚というかたちのありようが変化していった流れを示すものと言えよう。 日本ではまだそのようなトレンドはできているようすではないが、男性が自信を持ちにくい環境では、有能な女性をパートナーに持つというのはなかなか難しいことでもあるだろう。時代によって「トロフィーワイフ」にどんな人が選ばれるのかが変化し、世相を反映するというのは興味深い。丹念に追っていけば面白い現象がいくつも見つかるだろう。 とはいえ、単に基準が変わっただけで、女性が選ばれる側であることには変化がないようにも見える。17世紀フランスの宮廷人の姿を書き綴ったことで知られるある作家は、「13歳から22歳までは女、それも美しい娘になり、その後は男になりたい」という言葉を残している。これは、どちらのほうが得をするのか? という観点からだけ見るのであれば、現代にも通用する言いぐさかもしれない。もちろん各人の性自認、性的指向は別として。 『男性と女性で「相手の容姿」にこだわるのはどっち?…脳科学で解明する男女の「見た目」の重要度の違い』へ続く。 【つづきを読む】男性と女性で「相手の容姿」にこだわるのはどっち?…脳科学で解明する男女の「見た目」の重要度の違い

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