生産台数は世界一!中国自動車メーカーの真の実力 自動運転分野では米国と「覇権争い」後れをとる日本

日米関税交渉の妥結に加え、米中政府が関税措置の停止期間をさらに延長すると発表し、世界経済に楽観ムードが広がっているが、気になるのは、米中貿易戦争など世界経済の影響を受ける日本の自動車産業だ。 販売台数も中国が3143万台で世界1位 米国は鉄鋼、半導体など中国の過剰生産と安値による輸出攻勢を強く警戒している。「多くの中国製品の販売価格は生産コストを下回っている」というのが米国の主張で、米中間で関税が最大の争点となっている。その米中貿易戦争が日本経済に影響する分野の筆頭は、やはり自動車だろう。日本メーカーの多くは米中両国で現地生産するほか、日本から両国への輸出も多いからだ。 民間の国際統計「グローバルノート」によると、2024年の自動車販売台数は中国が3143万台で世界1位、米国は1634万台で2位だ。3位はインドの522万台で、日本は4位の442万台にとどまる。巨大な米中市場のいずれかが変調をきたせば、日本メーカーへの打撃は大きい。 さらに気になるのは、米国の対中関税制裁をものともしない中国の自動車産業の急成長ぶりだ。こちらは米中貿易戦争以上に日本の自動車メーカーは無関心でいられないだろう。果たして、中国の自動車メーカーの競争力、実力とはどの程度なのか。 内需に頼る中国の自動車生産台数、輸出はまだ2割 グローバルノートによると、2024年の世界の自動車生産は中国が3128万台とトップで、2位が米国の1056万台、3位は日本の823万台、4位はインドの601万台、5位はメキシコの420万台となっている。韓国は412万台で6位、ドイツは406万台で7位にとどまる。日本は自国消費(442万台)の倍近い自動車を国内で生産し、半数近くを輸出していることになる。 中国の自動車の生産台数は既に米国の約3倍だ。しかし、中国自動車工業協会によると、中国の2024年の自動車輸出台数は585万台に過ぎない。単純計算で輸出比率は2割に満たず、中国で生産した自動車の多くは自国で消費されていることがわかる。 注意すべきなのは、中国の自動車生産台数には日本など外国メーカーの現地生産が含まれていることだ。 一方、中国の自動車輸出台数の上位10社のうち、外国メーカーは8位の米テスラだけで、残る9社は奇瑞控股集団、上海汽車集団、重慶長安汽車、吉利汽車集団などの中国メーカーだ。 「自動車先進国」では競争力発揮できていない 中国は自動車輸出で2023年に日本を抜いて世界首位となった。しかし、主な輸出先はメキシコ、ロシア、アラブ首長国連邦、サウジアラビアなどに限られている。米国はもちろん、日本や欧州などの自動車先進国で中国メーカーは競争力を発揮できていないということだ。日本国内を走るテスラは、ほぼ中国生産で「中国からの輸入車」となるが、これは例外的なケースだ。 ただし、中国メーカーの技術開発や成長ぶりは侮れない。世界進出を着々と進める比亜迪(BYD)や浙江吉利控股集団だけでない。スマートフォンなどを製造する家電大手の小米(シャオミ)が2024年に電気自動車(EV)を発売し、異業種参戦として注目を集めた。 中国のEV市場は、テスラとBYDが「2強」だが、シャオミのほか上海蔚来汽車(NIO)、小鵬汽車(シャオペン)など新興メーカーの台頭が目立つ。 中国のEVが脅威なのは、EVの核となる車載電池に強みがあることだ。寧徳時代新能源科技(CATL)は日本のパナソニックを抜き、世界最大手の車載電池メーカーに成長した。中国メーカーに限らず、トヨタなど世界の自動車メーカーがCATLのリチウムイオン電池を採用している。 日本メーカーが太刀打ちできない「24時間勤務」 BYDも元々は電池メーカーで、携帯電話やノートパソコンの電池製造から始まっている。安価なリン酸鉄リチウムイオン電池を得意とするのがBYDの強みだ。後発のシャオミはかつてのBYDの姿に重なる。 BYDやシャオミのような中国EVメーカーは彗星のように現れ、短期間でマーケットの支持を得る。なぜなのか。それは商品の開発スピードに理由があるようだ。日本の自動車メーカーの開発エンジニアは1日1交代の勤務だが、BYDは3交代の24時間勤務という。これでは日本メーカーは太刀打ちできまい。 もちろん群雄割拠の中国EVメーカーの行方は、まだよくわからない。昨今のEV市場は世界的に停滞しているといわれる。これにはいくつか理由があるが、とりわけ米国ではトランプ政権の環境規制の見直しや購入支援の打ち切りで、EV市場は一段と縮小するだろう。 この煽りを最も受けているのがテスラだ。トランプ政権に加担したイーロン・マスク氏への批判から、米国だけでなく、欧州でもテスラの不買運動が起きている。7月のテスラの販売台数は英国とドイツで約6割、フランスで約3割減少した(いずれも前年同月比)。 自動運転の「無人タクシー」2022年から実用化 テスラはEVの開発力、とりわけ車載電池の温度管理、急速充電などの技術で世界をリードしてきた。無線でクルマとデータを送受信し、車載コンピューターのソフトウエアを更新する「OTA=Over The Air」という先進システムの導入でも先鞭をつけた。日本の日産自動車は世界でEVのパイオニアのはずなのに、テスラやBYDを追い越せないのはどうしてなのか。筆者はかつて日産首脳に尋ねたことがあるが、明確な回答はなかった。 さらにEVを利用した自動運転の分野でも中国は米国と覇権争いを繰り広げている。中国IT(情報通信)大手の百度(バイドゥ)は北京汽車集団グループのEVを使った自動運転の「無人タクシー」を武漢市内で2022年から実用化している。 米国ではテスラが本社のあるテキサス州オースティン市で「自動運転タクシー」の配車サービスを始めると2025年6月に発表した。年内に同州で本格的な配車サービスを行うという。 米国ではグーグル系の自動運転開発企業ウェイモが2018年、世界に先駆けて自動運転タクシーを実用化し、自動運転の国際競争が始まった。 ウェイモは2025年6月、米ニューヨーク市で自動運転車の試験走行の許可を申請した。マンハッタンで自動運転タクシーのサービス開始を目指すという。 このように自動運転の分野では米中が貿易戦争以上の覇権争いをしており、日本と欧州は後塵を拝しているのが現状だ。 残念ながら、これは「空飛ぶクルマ」も同様だ。生産台数で世界3位とはいえ、日本の自動車産業を取り巻く環境は決して安泰でない。 (ジャーナリスト 岩城諒)

もっと
Recommendations

欧州の首脳らもトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談に参加へ ウクライナ侵攻の終結に向けて協議

18日に行われる予定のアメリカとウクライナの首脳会談に、EU=ヨーロッ…

ゼレンスキー大統領の訪米に英仏独伊首脳が同行へ…トランプ大統領との会談に同席の意向

【ベルリン=工藤彩香】ドイツ政府は17日、ウクライナのウォロデ…

交差点内でタクシーと軽トラが衝突 歩行者の女性巻き込まれ意識不明 札幌市

札幌市中央区の市道で2025年8月17日、タクシーと軽トラックが衝…

「ウクライナ東部2州割譲で停戦を書面で約束」プーチン氏が提案…トランプ氏同調、18日に欧州と協議

【アンカレジ(米アラスカ州)=淵上隆悠】米紙ニューヨーク・タイ…

【容疑者は少年】ロボット掃除機を盗み従業員けがの強盗致傷事件 18歳少年を逮捕 帯広市

北海道・帯広市の家電量販店で2025年8月12日、ロボット掃除機を盗んだ…

甲子園辞退の広陵、部員間の暴力行為について再調査する方針…「調査が不十分だった可能性はある」

野球部内で起きた暴力行為を巡り、開催中の全国高校野球選手権大会…

熱中症で60人救急搬送 東京消防庁管内(午後9時まで)

東京消防庁管内で、17日午後9時までに熱中症で医療機関に救急搬送され…

建物の浸水被害50件以上 浜松市天竜区で464.5ミリの記録的豪雨 けが人の情報なし

16日、「記録的短時間大雨情報」が発表されるなど、猛烈な雨が降った…

対馬の浜辺に中国や韓国からポリタンクやペットボトル大量に漂着…健康影響も懸念、「国際的なルール必要」

プラスチックごみによる環境汚染が世界で深刻化する中、国内でも日…

佐賀県伊万里市の強盗殺人、ベトナム国籍の技能実習生を強盗殺人などの罪で起訴…佐賀地検

佐賀県伊万里市の民家で母娘2人が侵入してきた男に襲われ死傷した…

loading...