“全顔フル整形”しても人気は戻らず… 不遇の「シルビア」6代目 モデルチェンジ何が駄目だった?

好景気の波に乗ってサイズアップも、「誰も求めていない」結果に  日本のクルマは品質と信頼性の高さに加え、いち早く顧客のニーズを察知し、製品にフィードバックしていくマーケティングの綿密さにも定評があります。しかし、リサーチ手法やデータ分析を誤った結果、時としてユーザーがまったく望んでいないクルマを生み出してしまう場合もあります。 【どっちが好き?】これが大胆に変身した「後期型S14シルビア」です(写真)  今回紹介する6代目の日産「シルビア」、いわゆるS14型も、そのような失敗例のひとつと言えるかもしれません。1993年に登場したS14シルビアは、バブル景気で贅沢指向になったユーザーのニーズを読み違えた結果、全車3ナンバークラスへとボディサイズを拡大。これが裏目に出て、先代型で築いた人気が雲散霧消してしまいました。  日産シルビアはかつて、安価なスペシャリティカーとして人気を博したモデルです。1965〜1968年にかけて生産された初代シルビアだけは高級パーソナルクーペという位置づけでしたが、1975年に復活した2代目からは、大衆車の「サニー」から派生したプラットフォームを採用。他車と部品を共用することで、若者でも手が届く価格を実現し、スタイリッシュな2ドアクーペとして広く支持を集めました。  特に1988年に登場した5代目、いわゆるS13型は、5年の販売期間で30万台以上を売り上げる大ヒット作となりました。S13型は手ごろなサイズと美しいスタイリングが評判となったのに加え、ライバル車が次々に前輪駆動へと転換するなか、後輪駆動を踏襲。良好な操縦性も両立し、モータースポーツでも長きにわたり活躍しました。  S13型の成功を受け、後継であるS14型はキープコンセプトで開発が進められました。エンジンはS13型の後期から採用された2リッター「SR20型」の自然吸気版とターボ版を改良。前モデル比で前者は20psアップの160psに、後者も15psアップの220psへとパワーアップしていました。  しかしその一方、スリムだったボディは3ナンバーサイズへと大きくなってしまいました。これは1989年に自動車税制が改正され、3ナンバー車の税額が引き下げられたことを受けたものでもありましたが、車重も比例して40〜50kg増加することに。結果、シルビアを“安くて速い後輪駆動車”として支持していた走り屋系ユーザーから大ブーイングを受け、さらにコンパクトなクーペとして見ていたユーザーからも取り回しの悪さを嫌われる事態になってしまいました。 それでもカッコよければ救いがあったが…  それでも、スペシャルティカーのキモである見た目が魅力的なら、救いもあったことでしょう。しかしS14型のスタイリングは、残念ながらS13型のそれに到底及ばない完成度でした。直線基調ながら随所に細かく曲線を盛り込み、優雅で女性的なフォルムだったS13型に対し、S14型はボディの肥大化によってプロポーションが微妙に崩れ、肉付きが良すぎる締まりのないスタイリングになってしまったのです。 5代目日産「シルビア(S13型)」。5年間のモデルライフで30万台以上を売り上げ、シリーズ最大のヒット作となった(画像;日産)  結果、S14シルビアの販売成績は低迷し、S13型の姉妹車で、シルビアのモデルチェンジ後も継続販売されていた「180SX」にも破れるような状況に。あまりの不人気ぶりに狼狽した日産は、1996年6月にシルビアのマイナーチェンジを敢行し、フロントマスクを全面的に変える決断を下します。  S14シルビアのフロントフェイスは、“タレ目”のヘッドライトが柔和な表情だった従来型から、“ツリ目”ライトの攻撃的なデザインへと大胆にチェンジ。合わせてリアには角ばった形状のスポイラーを備えるなど、一気にスポーティなルックスへと大変身しました。  ところがこのマイナーチェンジにより、S14シルビアは丸みを帯びたフォルムに対し、直線基調のフロントマスクという、なんとも整合性のないアンバランスなスタイリングになったのです。走り屋好みのアグレッシブなルックスにすることで、確かに販売成績はわずかに回復しましたが、つまるところはニッチな需要を囲い込んだだけとも言え、幅広いユーザーの支持を集めるには至りませんでした。  結局、S14型以降、シルビアが再浮上することはありませんでした。日産は最後まで、なぜS13型が多くのユーザーから支持されたのか理解できなかったのでしょう。空前のバブル景気に浮かれて過度な贅沢志向に走り、本来は無視すべき指摘まで受け入れてしまった結果、S14シルビアはS13シルビアが持っていた独自の魅力と人気まで失ってしまったのです。  まさに「角を矯めて牛を殺す」ということわざの通りで、S14シルビアの失敗は日本の企業にありがちな「顧客第一主義」を履き違えた典型例と言えるのではないでしょうか。ユーザーや上層部の声を重んじる日本メーカーならではの「至れり尽くせり」な開発体制は、時としてまったく的外れな声まで拾い上げてしまいます。開発者がこうした的外れな指摘まで受け入れると、本来の魅力や独自性まで損なうことになるのです。 「数字やデータは嘘をつかない」とはよく言われますが、データを解析し、意味を与えるのは人間です。自動車開発をはじめ、モノづくりにおいて信念や哲学、思慮深さを持つことは、数字やデータに振り回されて失敗しないためにも重要な資質と言えるでしょう。

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