“魔法使い”と呼ばれるVFXアーティスト・朝倉怜が挑む連続ドラマならではの挑戦

映画「自虐の詩」(2007年)以来、視覚効果(以下、VFX =Visual Effects)の第一線で活躍してきた朝倉怜氏。VFXとは、撮影後の映像に処理を加えることで、現実では表現できないシーンを生み出す映像技術であり、SFX(特殊効果)と共に映像制作に欠かせない存在だ。リアルな爆発や超自然現象、さらには“異能力”のような非現実描写も、VFXによって命を吹き込まれている。 【写真をみる】特殊効果が支える『DOPE 麻薬取締部特捜課』の画作り 朝倉氏が現在挑んでいるのは、金曜ドラマ『DOPE 麻薬取締部特捜課』(TBS系)。異能力を持つという設定の人間が多数登場する本作で、「連続ドラマの枠を超えた映像」を実現しようとしている。 火の玉に込めた演出意図…異能力らしさを求めて 朝倉氏が『DOPE 麻薬取締部特捜課』で目指したのは、現実と非現実の融合だった。 「異能力という効果を見せるにあたって、長谷川晴彦プロデューサーとも『こぢんまりし過ぎないように』という方針を共有しながら、炎の表現だけでもさまざまなパターンを検討しました。一般的にイメージする炎の色や形状にとどまらないよう、本作ならではの表現を追求しました」と朝倉氏。 例えば、ビルに立てこもったドーパーが突如、右の手に火の玉を発生させて人質や警察官らに投げつけるシーン。物理的にも心理的にも見る者に強い衝撃を与えるこの場面は、本作の異能力描写の方向性を象徴している。 この「火の玉」の描写に対し、朝倉氏は一般的な炎のイメージであるオレンジや黄色に加えて青系の色味を足し、火の玉の周りに火花がパチパチと弾けるような演出を施した。「炎だけでは既視感があるので、少し“魔法っぽい”雰囲気を足しました」と言い、単なる炎ではなく“異能力らしさ”を強調した。 映像を加工し自在に演出 炎、電流、破壊など、異能力に応じてさまざまなVFX表現が求められる本作。それぞれに異なるアプローチが必要とされる。 「物を破壊したり、炎を出したり、電流を走らせたりと、能力ごとに処理が違ってきます。炎はパソコン上でシミュレーションを行って空間の揺らぎを演出しますし、破壊するシーンでは現実にあるものとそっくりなCGを作って、それを壊すという手法を取っています。電流の移動などは、主に実写映像に2Dの要素を加えて作るなど、2D上で処理することもあります」。 一方で、撮影現場で臨機応変な対応が求められるケースも少なくない。撮影当日、ジウが異能力を発揮するという表現が急遽追加されることがあったという。 段どりの最中にいきなり、ここで異能力の表現を足せないかという話になったんです。僕としてはなんとかやりたいと思いましたが、そもそもどういう能力なのかがきちんと決まらないまま撮影をすることになってしまいました。完成を想定しないで撮影したものに後から合わせて加工するのは大変ですね」と朝倉氏。 こうした撮影後の加工にこそ用いられるのが、VFXだ。VFXでは、実際に撮影した映像に対して、コンピュータを用いて加工を施せるため、ワイヤーアクションで浮かんだ人物の支えを取り除いたり、建物の映像に火や煙を加えたりするなど、さまざまな演出効果を後から加えることができる。 VFXとは撮影された映像に処理を加える工程のこと。その中にはコンピュータ上でゼロから物を作り出すCG技術や、それらのCGや撮影された素材を重ね合わせて一つの映像にするコンポジットワーク(いわゆる合成作業)が含まれている。 こうした特性上、VFXは現場で起きたイレギュラーな動きにも柔軟に対応できる一方で、完成形を想定しづらい場合は、調整の難易度も一気に上がってしまうという。朝倉氏が「大変」と漏らしたように、その柔軟性は、裏を返せば高度な技術と判断力が求められるということも意味する。 アクション監督・田中信彦から学んだこと 主人公が未来予知を発揮するシーンで使われた“ざらざらした映像”には、朝倉氏独自の感覚が反映されている。 「台本に“ざらざらした映像”とあったので、そこから発想しました。異能力をデジタルっぽく表現したくなかったんです」。 こうした映像作りにおいては、アクション監督・田中信彦氏の存在も欠かせない。田中氏はアクションのビデオコンテを作る段階から、CGを駆使して映像の方向性や演出の意図を明確に提示しており、チーム全体の足並みを揃える指針となっている。 「表現の多くは自分で考えていますが、常にゼロから生み出しているわけではありません。田中さんとは事前の打ち合わせを通じて、多くのアイデアを共有しながら形にしていきました」。 実際、制作を進める中で迷いが生じた際には、田中氏のビデオコンテが立ち返る“原点”にもなっている。 「われわれは映像の中の細かいディテールの部分まで気を使って作業していますが、細かいところに気を取られ過ぎて根幹の部分を見失いそうになることもある。そんな時に田中さんのビデオコンテを見返すと、そこに込められたアイデアや思いが明確な指標となり、『やはりこの見せ方が映えるんだ』と再確認できる。作品づくりの心強い支えになっています」。 また、朝倉氏は、長谷川プロデューサーが「魔法使い」と評するほど、光の扱いにも定評がある。 「光の加減が不自然だと、映像全体が不自然に見えてしまう。だから光が実写となじむように気を付けています」。 恐竜映画に惹かれた少年時代とこれから 幼少期から映画の「裏側」に強い関心を持ち、映画『ジュラシック・パーク』(1993年)に衝撃を受けたという朝倉氏。VFX技術への情熱は今も変わらない。 「小学生の頃からずっと好きだったんです。現実には存在しない恐竜をCGで描いたあの映画が衝撃的で、今でもその思いは続いています」。 当時はまだVFXという言葉も一般的でなく、特殊効果といえばSFX、いわゆる「特撮」と呼ばれる時代。SFXとは、撮影現場で爆破や煙、特殊メイクなどを実際に施して非現実的な演出を行う手法のこと。SFXは、VFXと区別されることもあるが、両者は相互に補完し合い、映像表現の幅を広げるために用いられている。 CGを用いてより複雑な視覚効果を演出するVFXは、SFXと組み合わせることで、よりリアルで迫力のある映像を生み出す。例えば怪獣映画では、怪獣の着ぐるみやミニチュアをSFXで制作し、街の破壊シーンをVFXで合成するなど、両方の技術を活用するケースも多い。朝倉氏は、そんなアナログな時代から視覚効果に魅了され、進化する技術と共に歩んできた。 「自分が見ていた側から、作る側になれた。そのこと自体が一番のやりがいです。誰も見たことのない映像を、自分の手で作りたいという気持ちはずっと変わりません」。 VFXの技術は日進月歩。新たな表現方法が登場する度に、朝倉氏の想像力もかき立てられていく。「技術が進化する度に、『これでどんな映像ができるか』『どう表現できるか』を考えるのが楽しいんです。日々考えて試しながら、挑戦しています」。 その意味でも、本作のような作品は挑戦のしがいがあるという。 「作品によっては、背景だけの静かなVFXもありますが、本作は異能力をどう見せるかというテーマがある。だからこそ、より自由でダイナミックな表現にチャレンジできる。本当にありがたい機会だと思っています」。 本作では、物語の終盤に向けて、さらに異能力の表現が多様化していく予定だという。異能力の表現と映像の融合に、どこまで挑めるか。朝倉氏の映像制作への挑戦は続く。

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