香川出身STU48福田朱里が広島で受けた「衝撃」…7年半かけて同志社大学を卒業した努力家アイドルの「地元愛」

現役アイドルが大学を7年半かけて卒業し、地元で音楽フェスを主催する──そんな異色のキャリアを歩む女性がいる。 瀬戸内エリアを舞台に活動するアイドルグループSTU48の福田朱里さん(26)は、東大進学を期待される家庭に育ちながら大学受験後にアイドルの道へ。一度は休学したものの、コロナ禍をきっかけに復学し、広島と京都を往復する過酷な両立生活を経て同志社大学を卒業した。そして今、自らの名を冠した「フクフェス」で地元・香川の活性化に挑んでいる。そんな彼女が地元への思いに気づかされたきっかけとは。ライターの伏見学氏がその軌跡を追った。 現役アイドルが自分の名前を冠するフェスを主催 近年、全国各地でアリーナの建設ラッシュが進む中、注目の大規模アリーナが2025年2月に開業した。総工費およそ202億円をかけて高松市に建設された「あなぶきアリーナ香川」である。収容人数は約1万人と、中四国エリアで最大規模となる。 サザンオールスターズのコンサートをこけら落としに、その後も大物アーティストの公演や格闘技イベント「RIZIN」、ファッションイベント「東京ガールズコレクション(TGC)」などが矢継ぎ早に行われている。 JR高松駅のすぐそばに建つこのアリーナは市街地にも好影響を与えている。例えば、“復活を遂げた商店街”として全国的に有名な「高松中央商店街」は通行量が元々多かったが、アリーナからの回遊客によってさらなるにぎわいを見せているようだ。 香川全体に目を向ければ、コロナ禍を乗り越え再び観光客が戻ってきている。香川県の調べによると2024年に県外から訪れた観光客数は前年比3.5%増の926万2000人に。今年は3年に1度開催される現代アートイベント「瀬戸内国際芸術祭」もあり、一層の増加が期待されている。マクロで見れば他県と同様、人口減少や若者の流出は続いているものの、地場の活気を創出するポテンシャルは高い。 そうした香川の盛り上げに貢献したいと並々ならぬ意欲を抱くのが、瀬戸内エリアを中心に活動するアイドルグループ・STU48の福田朱里さんだ。 香川出身の福田さんは一風変わったキャリアを歩んでいる。現役アイドルでありながら、自らの名前を冠にした音楽イベント「フクフェス」を主催。2023年1月、地元・高松での開催を皮切りに、これまでに4度のイベントを実施した。決してまだ規模は大きくないものの、回を重ねるごとに数百人、千数百人と動員数は伸びている。出演者の顔ぶれも多様化し、自ら出演を志願するアーティストもいる。プロデューサー・福田朱里としての力を存分に発揮しているのだ。 他方、福田さんは2024年9月に同志社大学商学部を卒業。とりわけ観光ビジネスや地域活性化施策などを熱心に学んだという。これは地方創生に強い興味があることが動機となっている。 「私自身、育った地元を活気づけたいと思っているし、STU48は地方創生のプロジェクトの一環として立ち上げられたアイドルグループだから、瀬戸内に根ざした活動をするべきだと感じています。東京で売れるアイドルを作りたくて企業も出資したわけじゃないから」 外よりも足元をしっかりと見つめる。それが役割だと意気込む。このように自分自身の言葉で公言するアイドルは珍しいかもしれない。26歳にしてなぜそのような考えに至ったのか。これまでのキャリアを通じて深まった地域活性への思いと、福田朱里という人間だからこそ発揮できる価値に迫った。 大学進学のはずが、常識外の行動に出る 福田さんのパーソナリティを紐解く上で知っておきたいのは、昨年秋まで大学生活を送っていたことだろう。もちろん現役アイドルで大学に通うメンバーは他にも例があるし、STU48にもいる。ただし興味深いのは、一度は大学生活を諦めて休学届を出したのに、数年後に復学したという事実だ。そこには彼女が育った家庭環境が関係する。 「自分の意志とは関係なく、七夕の短冊には『東京大学に入りたい』と書かされていた幼少時代でした」と福田さんは少し苦々しい表情を浮かべながら回想する。学業を重んじる家庭で育ち、教育にはお金を惜しまずかけてくれたという。その期待に応えようと中学受験をして私立の一貫校に入る。周囲の生徒は大学進学が当たり前で、福田さんもそのつもりでいた。「99%が大学に進み、就職する子はほとんどいなかった」と語る福田さんだが、まさかの残り1%、しかもアイドルになるという道を選択した。大学受験はしたものの、好きなことに挑戦したいという情動を抑えられなかったのだ。 「自分の中でもかなり常識外の行動。大学に行かないという選択肢が十数年間なかったので、革命的というか、だいぶ思い切ったことでした。親も最初はすごく反対しましたよ。ただ、最終的にはお母さんが『まあ、若い時にしかできないから』と背中を押してくれた」 STU48の第1期生オーディションに合格し、2017年3月、アイドルとしての新たな人生をスタートする。幸か不幸か、ちょうど高校を卒業して同志社大学への入学を控えたタイミングだった。入学式だけは出たものの、下宿先の荷物をすべて引き払い、大学には休学届を出した。高校時代はバレーボール部で鍛錬を積んだため、体力や根性は人一倍あっただろうが、さすがに学業と芸能という新しいキャリアを両立する自信はまだなかった。 そこからはアイドル活動に専念。STU48のデビューシングル「暗闇」で選抜入りすると、以降すべてのシングル表題曲のメンバーに選ばれている。2020年にはグループ初の副キャプテンに指名され、現在も他のメンバーをパワフルに引っ張っている。 「人生最大のドッキリを仕掛けよう」 アイドルとしては順風満帆だったが、実は大学のことは絶えず頭から離れなかったという。 「STU48で活動しながらもずっと『大学、どうしよう……?』という気持ちは常にありました。九州で暮らすおじいちゃんからも毎月達筆の手紙が届いて、『女の子なんだから、もうそろそろそういうのを辞めて、学校へ行って、早く結婚しなさい』みたいな手紙が届いていたんですね。家族のプレッシャーとかも感じていて」と福田さんは吐露する。 葛藤する日々を過ごす中、転機となったのはコロナ禍だった。仕事がほぼオンラインでの活動となり、時間を持て余すようになった。ある時ふと「大学もオンライン授業になるのでは」と頭をよぎった。思い立ったが吉日、すぐさま大学の教務課に電話をしたところ、「今ならギリギリ復学できます」との回答があった。ちょうど年度が変わるタイミングだったことも幸いした。 急いで手続きを進め、2020年4月、同志社大学に復帰。オンラインで講義を受ける生活が始まった。とはいえ、待ち受けていたのは苦労の連続だった。 「とても大変でした。大学生としての常識やアカデミックリテラシーがなかったから。例えばレポートを書く際、最後に参考文献をつけることを知らず、ブログみたいなノリで書いてしまったり、オンラインミーティングでは教授などに『変な子だね』と言われたり。アイドルであることを言ってなかったし、同志社大学はきちんとしている学生も多かった」 他方、福田さんが今までの仕事で培った能力が遺憾なく発揮される場面もあった。一つはプレゼンテーションだ。 「語学の授業では、その国の文化を調べて発表し合うようなグループワークがありました。プレゼン力は高かったと思います。ハキハキ喋るし」 もう一つ、ビジネス系のレポートを書く際にも実体験が役に立ったそうだ。 「例えば、CDはなぜ水曜日発売が多いのかというレポートを書く時には、自分の仕事と関連づけて、具体的な内容を織り込むことができました。また、業界構造などを調べることで、知っている仕事が『あ、こんな風になっているのだ』と分かったのは面白かったですね。結果的に(アイドルとして働く自分の)周りの環境などを理解するチャンスにもなりました」 コロナ禍が終息すると、実際に京都にある大学キャンパスまで通学するようになった。多い時には週3日のペースで広島〜京都間を往復した。 「事務所にも『平日のこの時間は学校に行きたい』と伝えて、なるべく仕事を調整いただいたし、協力もしてもらったのですが、金銭的には大変でした。往復2万円が本当に辛くて。しかも週3日だと定期券を買うほどではないから、学割チケットを買うために毎回みどりの窓口に長いこと並んで……」 そのころにはアイドルの仕事も再び活発になっていた。普通ならば負担増大によって心が折れてしまってもおかしくない。どこからその胆力が生まれていたのだろうか。 「ファンの方には言ってなかったんですよ。在学とも休学とも。多分誰も私が大学に合格していたことを知らない状況だったから、人生最大のドッキリを仕掛けようという考えはありました。それといろいろな人たちを見返してやろう。そういったモチベーションがありました」と福田さんは真剣な視線を向ける。 足掛け7年半の大学生活を終えた福田さんは、SNSで次の投稿し、感謝の気持ちを伝えた。 「人より時間はかかってしまいましたが、私のペースを信じてずっと応援してくれた家族、ありえない通学をしている生徒を受け入れてくださった先生方、学部職員の皆様、忙しい中理解をくださった事務所の方々など、沢山の方のサポートにより無事卒業することが出来ました。本当にありがとうございました」 香川は日本の穴場 結果的にアイドルと学業の両立をやってのけた福田さん。彼女が今、人生の軸になっているもの、それは地元・香川への思いだ。郷土愛を感じるようになったのは高校を卒業し、故郷を離れてからだという。 「広島に出てきていろいろな衝撃を受けました。学校でダンスを習っている人がたくさんいる、(芸能スクールの)アクターズスクール広島がある、素人の子がサンフレッチェ広島の応援隊をやっている。そこにまずびっくりしたし、香川にないものが一杯あった。東京ではなく広島でもこんなにすごいのか思いました」 そしてまた、四国を田舎扱いする人が意外にも多くて悔しかったそうだ。ただし、地元を飛び出して気付くのは決してマイナス面だけではない。 「商店街は広島よりも香川のほうが栄えている気がします(笑)。街の中に一回入っちゃうと全部楽しめませんか、高松って。ライブハウスも多いし。私は高校のとき、学校帰りに商店街によく足を運んでいました。あそこへ行けば友だちがいたから。街の温かみをダイレクトに感じられる場所で好きです」 もうその時期には既に商店街は再生し、平日でも人が溢れていたはずだが、福田さん曰く、当時よりも格段に今の高松の街は元気だそうだ。 「とても活気づいています。タワーレコードやドン・キホーテができましたから。すごい都会になって。毎週末ドーム(高松丸亀町壱番街前ドーム広場)の下でイベントとかやっているし、実家に帰るたびにすごいなあと感心しています。香川って日本の穴場だと思っていて、新幹線は通っていないけど、観光列車さながらのマリンライナーで岡山へ行けるし、関西も近い。小さい町だからこそ、そこにいる人たちの顔がよく見える」 そんな地元への思いを胸に秘めているうちに、何かアクションを起こしたくなった。できることならば、自分が大好きで、強みや経験が生かされるアイドルを絡めた企画がいい。その願いが結実したのが「フクフェス」だった。 福田さんがフクフェスを立ち上げる経緯や地元開催にこだわる理由などは、後編記事〈STU48福田朱里「口だけの地元愛は見抜かれる」…175R、ガガガSPも出演した「フクフェス」香川開催にこだわるワケ〉でお伝えする。 【後編を読む】STU48福田朱里「口だけの地元愛は見抜かれる」…175R、ガガガSPも出演した「フクフェス」香川開催にこだわるワケ

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