《午前8時の”異変”》躍進した「参政党」、選挙中に激しい応酬のあった支持者と反対派はどこへ?参院選後の初登院の様子をレポート

 国会議員選挙が終わると、初めて国会が開かれる日に「初登院」の様子が大きく報じられる。午前8時に国会議事堂の正門が開かれると同時に、初めて当選した議員や、再選した議員が門をくぐり、普段は閉じられている国会の中央玄関から中へ入ってゆく。選挙のときの熱狂は、この初登院にどのような影響を及ぼすのか。選挙の取材を長年、続けるライターの小川裕夫氏が、近年では珍しいほどの激しい応酬が目立った参院選後の初登院日についてレポートする。 【写真】かつては参政党の元支持者たちが国会正門前へ抗議に押しかえる様子も…  * * *  2025年7月20日に投開票された第27回参議院議員選挙の投開票から10日以上が経過した8月1日、臨時国会が召集されて初登院日を迎えた。筆者は15年以上前から衆院選・参院選の初登院日に正門前に足を運んで取材を続けてきた。  初登院日は当選した議員、特に一期生にとって輝かしい議員生活を踏み出す第一歩でもある。正門前は晴れやかなムードに包まれ、普段は報道陣を毛嫌いする議員たちも一様にテレビカメラに向かって笑顔をつくる。報道陣の「ガッツポーズをお願いします」「こちらに顔を向けて笑顔をお願いします」といった面倒臭いリクエストにも嬉々として従う。  ベテラン議員も初登院日に正門前へと足を運ぶことはあるが、この日の主役が初当選した議員であることは言うまでもない。  初登院日の正門前に集まるのは国会議員や秘書、事務所スタッフ、それを取材する報道陣だけではない。選挙をともに戦った支持者も多く集まる。そのため、当選した国会議員たちはその場に集まった大勢の支持者を前に改めて感謝の意を述べたり、これからスタートする議員活動への熱い抱負を述べる。さらに、昨今は特定の政党や政治家を応援するYouTuberなども集まる。  このように初登院日は普段とは異なり、国会正門前に多くの人が押し寄せ、お祭りのような状態になる。 マスコミに撮らせるためじゃない!  初登院日が当選議員の晴れ姿を披露する機会になっていることは間違いないが、他方で支援者たちの熱量を測るバロメーターという機能も果たしている。  例えば、山本太郎氏が立ち上げたれいわ新選組は2019年の参院選で特定枠から舩後靖彦氏と木村英子氏の2名を当選させた。このときの初登院日には支持者が正門前に集結。舩後靖彦氏と木村英子氏の2名を熱烈に出迎えている。  2名が初登院する姿をカメラに収めようと多くの報道陣も正門前で待機していた。しかし、あまりにも多くの人が集まったので思うように映像を撮れない。そのため、各社のカメラマンは大きな脚立を使って撮影することを試みたり、「撮影しているので、どいてください」と呼びかけていた。  しかし、支持者はそんな報道陣の注文などお構いなし2人を間近で見ようとした。そのため、「マスコミに撮らせるためにやってない!」という声が飛び交う一幕もあった。こうした熱狂的な支持者はれいわ新選組に限った話ではなく、躍進した新興政党にはよく見られる現象でもある。  渡辺喜美氏が2009年に立ち上げたみんなの党は2010年の参院選で大幅に議席を増やして躍進。東京選挙区で当選した松田公太氏は初登院日に正門前で多くのスタッフと記念撮影に興じていた。その際、報道陣から「こちらに顔をお願いします!」と呼びかけられても「マスコミのためにやっているわけではない!」とそっけない対応に終始している。  晴れやかな初登院日に不似合いな議員と報道陣との不協和音は、一部の議員や政党に限ったものだが、それも歳月の経過とともに折り合いをつけていく。今回の初登院でれいわ新選組の支持者と報道陣の間に目立ったハレーションは起きておらず、落ち着いた雰囲気だった。 手短なあいさつだけだった参政党  今回の初登院で、れいわ新選組以上に多くの支持者が駆けつけると予想をされていたのが参政党だ。  参政党が国政に初挑戦した2022参院選では、選挙区・全国比例を合わせて50人を擁立したものの、当選者は現代表の神谷宗弊氏1名だった。それでも参政党は得票率2パーセントを上回り、政党要件を満たした。  そのため、2022参院選後の初登院日に神谷氏が国会正門前に姿を見せると、支持者・報道陣を合わせて黒山の人だかりができ、ちょっとしたパニックが起きている。また3人の当選者を出した2024衆院選後の初登院日も、それなりの盛り上がりを見せている。  7月の参院選期間中、筆者は何度も参政党の街頭演説に足を運んで取材してきた。参政党の街頭演説は橙色のシャツを着用した支持者が異様に盛り上がっているのが特徴で、排外主義に反対する人たちもプラカードを持って押し寄せるので、両者の間で小競り合いが起きるのも恒例だった。  そうした過去の初登院日や参院選の様子を踏まえれば、初登院日は支持者がさらにヒートアップすると予想できた。しかし、そうした筆者の予想は大きく裏切られる。  正門前には参政党支持者と思われる橙色のTシャツを着用した人が多く詰めかけていた。その数は2022年の参院選、2024年の衆院選初登院日と比べると、大幅に増えはせず同程度に見えた。そして、以前のような熱狂を感じられず、かなり落ち着いた雰囲気を保っていた。  参政党は2024衆院選で3名の当選者を出し、その初登院日に代表の神谷宗幣氏は当選した衆議院3名を引き連れて正門前に登場。集まった支持者に向かってイキイキとあいさつをしている。神谷氏も支持者も高揚感に満ちていた。その一方、それまで参政党をしていた人たちが大挙して抗議する様子も見られた。  代表の神谷氏以外の主要メンバーが頻繁に替わってきた参政党は、離れた人たちや元党員たちからたびたび抗議を受けてきた。たとえば、2022参院選で国政に初挑戦したが、そのときに擁立した工学者の武田邦彦氏をはじめ候補者の多くがその後に参政党を離れ、彼らは党と神谷氏の問題点を繰り返し訴えている。  武田氏は人気テレビ番組「ホンマでっか!?TV」などバラエティ番組に数多く出演してお茶の間にも広く知られ、武田氏をきっかけに参政党を支持するようになった人も少なくなかった。武田氏が党を離れた理由は考え方の相違が主な原因だが、その過程で一悶着あり、一連の顛末は関係者の間で”武田の乱”とも呼ばれる。  2024衆院選後の初登院日には武田氏を支持する元党員がプラカードを持って参政党に抗議する光景が見られた。ところが、今回の初登院日には元支持者たちも、今回の参院選期間中に排外主義に反対していた人たちも現れることはなかった。正門前に到着した神谷氏はマイクを握って支援者にあいさつをしたが、それも手短に終わった。そして早々に当選した議員たちを引き連れて正門から国会議事堂へと入っていった。  正門の外側は公道なので誰でも立ち入れるが、正門より内側は国会議員や秘書といった関係者、特別に許可を受けた記者クラブの取材陣、そして初登院日だけは事前申請した家族しか足を踏み入れられない。どんなに熱心な支持者でも、門の内側に立ち入ることはできない。だから初登院日に多くの議員が正門前で支持者に向かってあいさつをすることが慣例化している。  熱量の高い支持者が多い政党は、この正門の外での”あいさつ”に時間を費やす。その儀式をきちんとこなすことで、次の選挙でも確実に支持をしてもらえるからだ。  しかし、今回の初登院日は全体的に落ち着いた雰囲気で、どの政党も支持者に対して簡単なあいさつだけで済ませていた。そうした光景からは、選挙の時に想像していたよりも、支持者の熱量が下がっていると感じざるを得なかった。  その様子だけで支持者の熱量を完全に判断できるものではないだろうが、一般的に平日の早朝から正門前に駆けつけるような人は、かなり熱心に支持してくれる人であることは間違いない。初登院日の国会正門前は、それら熱心な支持者の熱量が選挙後も継続しているかどうかを測る重要なバロメーターにもなっている。  2025参院選は自民党・公明党の連立与党が衆参で過半数を割った。それだけに歴史的な選挙といえ、選挙後の高揚感は長く続くようにも思えた。だが、意外にも早く平熱に戻りつつあるようだ。

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