涼を探して＜２＞ 内部は４度前後 　薄暗い倉庫内に積み上げられた大量の雪。 　高さはビル３階分に相当し、なだらかな斜面は雪渓を思わせる。ヒンヤリとした空間に、日本酒の香りがほのかに漂っていた。 　７月中旬、日本酒「八海山」で知られる八海醸造（新潟県南魚沼市）の「雪室（ゆきむろ）」（雪中貯蔵庫）を訪ねた。この日の外気温は３０度を超えていたが、内部は４度前後。自然な冷気が心地よい。 　南魚沼市は、年間の累計降雪量が１０メートルを超えることもある日本有数の豪雪地帯。一帯では昭和３０年代まで、積み上げた雪山をわらなどで囲った雪室が生鮮品などの貯蔵に使われてきた。保存だけでなく、ほどよい熟成を促す生活の知恵でもあった。しかし、電気冷蔵庫の普及などに伴って徐々に姿を消していったという。 電気に頼らず 　同社がこの雪室を設置したのは２０１３年。東日本大震災も一つのきっかけになったという。同社広報担当の志太愛美さんは「電気に頼らずに安定して低温高湿な環境を保てるほか、二酸化炭素の排出を減らせる」と説明する。 　毎年２月に約１０００トンの雪をためており、１年たっても半分程度が残るという。「純米大吟醸　八海山　雪室貯蔵三年」はこの雪室で長期保存した商品。志太さんは「ここで熟成させたお酒は、荒々しさや角が取れてまろやかな味になる。雪室を通じて地域の歴史や文化にも関心を広げてもらえたら」と話す。 　年間を通して一般公開しており、見学者は試飲もできる。横浜市から訪れたパート女性（５１）は「雪室を体験できる機会はなかなかなく、暑い日にぴったり。お酒は口当たりがよくておいしい」と笑顔を見せた。 　現代によみがえった雪室。南魚沼市によると市内で１３棟が稼働しており、米や日本酒、ワインなどの保存や熟成に活用されている。市庁舎の一部には貯蔵した雪による冷房システムも導入されている。こうした取り組みは、北海道や東北など雪が多い他地域でも広がっており、「利雪」の観点から期待が集まっている。 冷凍庫で極寒体験 　「極寒」が体験できる冷凍庫の見学会も人気だ。千葉市地方卸売市場にあるマイナス４５度の冷凍庫。冷凍マグロの赤身の色や鮮度を保つため超低温に設計されている。 　「もう無理！」「鼻水が凍る！」。中に入った人は口々に悲鳴を上げていた。 　同市場は、にぎわいを創出しようと、６〜１０月にかけて一般向けに市場の見学会を実施。その一環で、この超低温の冷凍庫にも入ることができる。貴重な体験ができるとあって、見学会の予約はすぐに埋まるという。千葉市の男子児童（９）は「想像以上の寒さだった。ぬれたタオルを振り回したら一瞬で凍った」と目を丸くしていた。