植田総裁、利上げに慎重姿勢 日銀は物価高に無関心?【播摩卓士の経済コラム】

それにしても、あまりに国民の常識とかけ離れていないか、と心配になりました。日銀は、31日、4回連続となる政策金利の据え置きを決定しました。トランプ関税の影響が読めない中での現状維持=様子見は、当然の決定でしょう。それでも、植田総裁の記者会見では、物価高や円安に対する警戒や懸念の言葉が語られることはありませんでした。物価高に対して、何もやれることはないといった姿勢だと、言われても仕方ありません。 【写真を見る】植田総裁、利上げに慎重姿勢 日銀は物価高に無関心?【播摩卓士の経済コラム】 関税合意「大きな前進だが、霧は晴れず」 植田総裁は、金融政策決定会合後の記者会見で、まず、日米両政府が関税合意に達したことについて、「大きな前進で不確実性は低下した」と語りました。しかし同時に、「影響はこれからで、一気に霧が晴れたとは言えない。不確実性はなお高い」と金利据え置きの理由を説明しました。そこに異論はありません。 問題は、その先です。植田総裁は、現在の物価高について、コメや食料品価格高騰による「一時的なもの」と位置づけ、「その影響は減衰していく」との認識を示しました。また、そうした一時的な動きを除いた、いわゆる「基調的な物価」は、「まだ2%に届いていない」と述べ、利上げ時期については、今後、慎重に見極めていく姿勢を示しました。 利上げは遠いと円は一時150円台に 市場は、植田会見を「思ったよりハト派」、「利上げは遠い」と受け止めました。植田総裁が「為替が物価見通しに直ちに影響するとは見ていない」と発言したこともあって、31日昼頃に1ドル=148円台だった円相場は、記者会見が進むにつれて円安が進み、ついに4か月ぶりとなる1ドル=150円台まで円安が進んだのです。 為替市場では、今年4月にアメリカの関税政策の先行き不透明感から、一時139円台まで円高が進み、過度な円安の修正と、それを通じた日本の高いインフレ率の抑制が、期待されていました。再び150円台の円安が定着するような事態になれば、高い物価上昇が予想外に長引くリスクが出てきます。 日銀の物価見通しは大外れ そもそも日銀は、足元の物価高を軽く見てはいないでしょうか。今回の決定会合にあわせて発表された物価見通しでは、今年度の物価上昇率を2.7%と、今年4月時点の2.2%から大幅に上方修正しました。 今年度という足元の見通しを、わずか3か月で0.5ポイントも修正するなんて、関税問題の不透明性を差し引いても、あまりに大きく、いかに物価高を甘く見ていたかを物語っているように思えます。 それにもかかわらず、来年度については1.8%と、わずか0.1ポイントの修正にとどめています。1年で2.7%から1.8%へと、一気に0.9ポイントも物価が下がり、物価高は収束するというのです。 日本の消費者物価は生鮮食品を除いた指数で、現在、3%台後半と、先進国の中で最も高くなっています。毎月の値上げ品目も多く、円安も修正されない中で、どのようなメカニズムで3%台後半のインフレが1%台に戻るのか、私には理解できません。そして翌27年度には見事に2.0%になるというのです。 基調的物価上昇2%という『青い鳥』 日銀がこうしたシナリオを描くのは、「基調的な物価上昇率」は「未だ2%に達していない」という点に強くこだわっているからです。2%未達成である以上、達成のためには、なお物価上昇が好ましいと、考えているからでしょう。まるで「基調的物価2%目標」という、想像上の『青い鳥』の実現のために、自らの行動を正当化しているように見えるのです。 普通の国民は、物価上昇を「基調的なもの」と「一時的なもの」を分けて捉えません。「食料やエネルギーを除いて、物価を考えることなどしません。 誰が考えても、今はインフレ状態であり、2%以上の消費者物価上昇が3年以上も続いているのですから、2%目標は、すでに達成しているのです。だとしたら、新たな適切な政策目標が必要なはずなのに、いつまでも古い目標を『青い鳥』にしているから、理解不能な説明になっているのではないでしょうか。 「基調的物価上昇」なんて、概念的には理解できても、現実世界を生きる、普通の国民に理解してもらうことには無理があります。アメリカの中央銀行のトップが、「基調的」などという言葉を使って、長期にわたって、物価や金融政策を説明したりすることなどありません。 今の物価高は供給要因と説明 こうした日銀の姿勢は、物価高対策に対する日銀の「冷たさ」につながっています。本来、「物価の番人」と呼ばれる中央銀行には、インフレやデフレに対応する一義的な義務があるはずです。しかし、今の日銀は、基調的な物価上昇が目標に達していないことを理由に、事実上「スルー」しています。 この点について植田総裁は、「需要からの圧力による物価上昇には利上げで対応できるが、今の物価高は供給要因なので、利上げで対応すれば、景気を冷やして所得が減る」と説明しました。供給要因インフレには利上げは直接効かない、というのです。確かに利上げをしても、コメやガソリンの価格が直接的に下がるわけではありません。 しかし、ウクライナ危機後、主に供給要因によって、アメリカで猛烈な物価上昇が起きた際、FRBは高速利上げでインフレ退治を行い、目的を成就しました。原因が、需要であれ、供給であれ、結局、インフレを抑えるには引き締めしかないという見方もできます。今の日本では、利上げを通じて為替市場の円高に寄与するのであれば、物価鎮静効果がないとは言えません。 物価高は国民の最大関心事だが 国民経済にとって、高すぎる物価上昇率は、現在、最優先の課題です。先の参議院選挙ではその民意が示されたわけです。物価高対策のために消費税減税まで議論されているのに、物価の番人である日銀が、「これは供給要因なので関係ありません」と言うのであれば、やはり違和感があります。 少なくとも、そうした説明では、金融政策を幅広い国民に理解してもらうことなどできないでしょう。難しい局面に違いありませんが、稀代の学者である植田総裁だからこそ、国民にわかるように政策を語ってもらいたいものです。 トランプ関税の企業への影響を緩和するために、再び円安になることが望ましいなどと、内心思っているのだとしたら、がっかりです。 播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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