中3まで「ずっと控え投手だった」菊池雄星がメジャーに行けた理由

2024年に屋内トレーニング施設「King of the Hill」を開設  エンゼルスの菊池雄星投手は2024年11月、高校時代を過ごした岩手・花巻市に屋内トレーニング施設「King of the Hill」(K.O.H)を開いた。最新機器や設備はもちろん、地域交流の場となるコミュニティスペースを備え、子どもからお年寄りまで誰もが利用できる施設だが、日本で現役選手がこういった活動を行うことは稀。34歳右腕はどんな思いを持って、約1400平方メートルという広さを誇るK.O.Hを開設したのか。  そもそもの始まりは、オフのトレーニング環境を整えたいという思いだった。 「一番初めは僕の練習場を作りたかったというところがスタートで、子どもたちのための場所を作ろうっていう話ではなかったんです。ただ、メジャーで1年でも長くプレーしたいという中で、メジャークラスの練習ができる環境をそれなりに整えようとしたら、あのくらいの大きさになってきた。であれば、子どもたちのためになるような施設にしたい、という思いが徐々に出てきた感じです」  未来を担う子どもたちに自らが得た知識や経験を還元し、サポートしたいという思いは「昔から持っていました」と明かす。その根底にあるのは「僕もできるんだから、みんなもできるよね」という菊池ならではのスタンスだ。 「僕自身、中学3年生まで背番号1をつけたことがなくて、ずっと控え投手だったんです。プロに入ってからも簡単に結果を出したわけではない。身体能力テストをしても、実はプロの中で平均以下なんです。だから、決して素材に恵まれていると思ったことはなくて、むしろ平均以下の部類。大きい目標を持ってしっかり目指し続けることを習慣にできれば、僕でもこうやってメジャーで戦えている。今の子どもたちが小学生から、そういう習慣を身につけられれば、野球でも野球以外の分野でも成功できる。だって、僕ができているんですから」 菊池が考える子どもたちの可能性が伸びる条件  大きな目標を持ち、そこに向かってチャレンジし続けることを習慣化するのと同時に、もう一つ大切にしたいことがあるという。それが「誰と練習するか」だ。 「誰と練習するかで可能性は変わってくる。高いレベルの選手たちと一緒に練習をすることが、能力を引き上げるには一番大事なこと。僕であれば、日本のプロ野球である程度の結果が出たら、今度はメジャーに舞台を移したことで成長できたと思っています。ルール上の制約はあるかもしれませんが、子どもたちであれば、理想は小学生で上手な子は中学生に混ざればいいし、中学生で上手な子は高校生に混ざればいいと思うんです」  幼児から中学生までを対象としたスクールをK.O.Hで始めたのも、子どもたちの可能性をさらに広げる環境とプログラムを提供したいという想いから。「正しい情報と頑張る方向性を示し、競い合う環境を整えてあげれば、選手は自ずと伸びるんじゃないか」と考えている。 「習慣をしっかり作ることと、目標を立てること。これが全てだと思うんですよね。これさえ小さい頃からやっていれば、勉強であっても野球であっても、高いレベルまで行けるはず。特に野球は、体だけではなく、本当に頭とメンタルを使うスポーツ。だからこそ面白いし、深い。僕はメジャーでは体が小さい方ですけど、変化球を覚えるとか、間をずらすとか、色々な戦い方ができている。そこが野球の面白さだと思うんで」 年間200冊の読書家が伝えたい、本を読むことの大切さ  目標を達成するために挑戦し続ける過程でも、野球というスポーツの面白さを自分の味方につけるためにも、カギとなるのは「考える力」だ。球界きっての読書家で年間200冊は本を読むという左腕は、2020年から「岩手読書感想文コンクール」を全面サポートし、「菊池雄星文化プロジェクト 岩手読書感想文コンクール」と改称。「菊池雄星特別賞」「雄星文庫賞」を創設し、県内の小中高生に読書の魅力を伝えている。 「読書は大事ですよね。例えば、400ページの本を読んで『この本はここが大事なんだ』『一番伝えたかったことはここなんだ』と、自分なりに消化して、まとめる作業ができる。流行りのまとめサイトや動画を見るだけでは、手軽に知識は得られても、自分の中で抽象化し、結論づけるという力は育たない。本から得た知識を自分なりに消化する、この過程を踏むことが大事なんです」  近い将来、K.O.Hであれ、読書感想文コンクールであれ、菊池の活動に触れた子どもたちの中から、世界へ大きく羽ばたく存在が生まれるかもしれない。 「そうですね。野球でトップに入るのは本当に限られた人になってしまうし、全員がプロに行けるとは思っていないんですけど、その考え方や取り組み方、そういうものは一生モノだと思うので、小学生やジュニア世代のうちに身につけて可能性を広げてほしいですね。何度も言いますが『僕でもできたんだから』というのを伝えたいところです」  先発ローテーションを守りながら、メジャーのマウンドで真剣勝負を挑む姿こそ、子どもたちには格好の手本となるはずだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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