中日など3球団で活躍した中尾孝義氏「右肘の負担を減らす投げ方になった」 ドジャース・大谷翔平投手は今季、2シーズンぶりに投手復帰し、ここまで6登板を果たしている。投打の「二刀流」に戻った大谷のマウンドさばきは、どう映るのか。中日でMVPを獲得するなど巨人、西武と3球団で名捕手として活躍した野球評論家・中尾孝義氏は「フォームが良くなりました」と分析する。 大谷はエンゼルス時代の2023年9月に右肘の手術を受け、ドジャース移籍1年目の昨年は打者に専念した。迎えた6月16日(日本時間17日)の本拠地・パドレス戦で術後初登板。先発として1イニングを28球、1失点でスタートを切った。以降は徐々に投球数を増やし、イニング数を延ばしていく形。7月21日(同22日)、本拠地・アストロズ戦は3回で46球を投じた。ここまで12回を投げ、被安打9、与四球3、13奪三振、防御率1.50の成績を収めている。 この間には、メジャー移籍後では公式戦最速となる101.7マイル(163.7キロ)まで叩き出してみせた。完全復活へまだ段階を踏んでいる途中でもこの数字、この内容。中尾氏は「素晴らしいですよね」と驚くと同時に「大谷はちゃんと自分で考えてきたと思う。頭の良さというか、センスを感じます」という。 どういう点がなのか。「肘への負担を減らす投げ方になっています。体の軸がより出来ていて、無理なく回転して、フィニッシュまで投げ切れているように感じます」。大谷は自身の体を理解し、最適な投球フォームを作り上げていっていると見る。 「二刀流」復活…右投げ左打ちがもたらすメリット とはいえ大谷の右肘手術は2度目だった。怪我防止には細心の注意を払いたい。中尾氏は球種に注目する。「彼が一番得意とする大きく横滑りするスイーパー、スライダー。僕の希望として、それらを投げる時には、肘は下がらないようにして欲しいです。要するに肩のラインに対して下げ過ぎない事。肩のラインの中で投げるんだったら肘に負担は掛かりません」。 配球も要望する。「なるべく球数を少なくして、打たせて取る方がいい。空振りを奪うのは、ここぞという時だけで十分。だけど大谷なら、その辺りは当然もう頭に入れてますよ」。大谷はカットボール、ツーシームと打者の手元で微妙に動く武器も持つ。7月5日(同6日)の本拠地・アストロズ戦の初回、無死一塁。1ボール1ストライクからの3球目、内に切れ込むツーシームで相手のバットを折り、二ゴロ併殺で切り抜けた場面が象徴的だった。 ドジャースは、大谷をどう起用していくのだろう。「とりあえず先発で5、6回投げられるぐらいまでいけば、と考えているのではないでしょうか。後はシーズン最後の方で、抑えにいったりという可能性も無きにしもあらず。WBCで日本が優勝を決めた時みたいに」と推測する。 大谷は昨年、打者オンリーで54本塁打、59盗塁と史上初の「50-50」の快挙を成し遂げた。マウンドに復帰した今、逆にもし大谷が投手だけに専念したら1シーズンでどんな成績を残すのか夢想するファンがいるかも知れない。中尾氏は「いやー、それはまた違うと思いますよ。大谷はピッチャーだけだとリズムが狂っちゃうんじゃないかな」と想像する。 理由がある。「右投げ左打ちで、ボールを投げる動きとスイングする時の体の回転が逆。そのお陰で、体のバランスの良さに繋がっている。股関節が上手に使えるようになっています」。大谷にとって二刀流が自然と好循環を呼び込んでいると説明する。 大谷はバットでも7月に入り、自身最長の5試合連続ホームランを記録した。「結局、投げる事も打つ事も好きなんでしょう。彼の表情を見ていると、本当に楽しそう。投打両方ができる喜びに満ちています」と中尾氏。投げて打ってファンも本人も笑顔になる。やはり、唯一無二の「二刀流」でこそ大谷なのだ。(西村大輔 / Taisuke Nishimura)