デビュー30年目で初の医師役 松本潤主演ドラマ「19番目のカルテ」は「評価」を獲得できるのか

視聴率は断トツだが  嵐の松本潤(41)が主演しているTBS「日曜劇場 19番目のカルテ」(日曜午後9時)は成功するのか? 松本の役柄は医師・徳重晃。病院内に19番目の専門分野として誕生した総合診療科を受け持つ。松本の医師役はデビュー30年目で初めて。次の放送は第2回となる。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】  *** 【写真を見る】「ナマのマツジュン見たい!」とファン殺到…壇上の松本潤とイケメン家臣2人  医療ドラマの一番の強みは、誰にとっても身近なジャンルであること。共感が得やすい。それゆえ制作が過剰気味になってしまい、近年は新味を出すのが難しくなっている。  このドラマはその問題を乗り越える目的もあってか、松本が演じる徳重晃を総合診療科医にした。手垢のついていないジャンルである。 松本潤  現実の医療界で総合診療科医の第1号が誕生したのは2021年。最も新しい診療科医だ。徳重は第1回で、魚虎総合病院に新設された総合診療科に赴任した。  総合診療科医は外科医、内科医などとは異なり、幅広い知識を持ち、患者の抱える様々な健康問題に対応する。重視するのは検査より問診。病名の分からない患者も受け持つ。病名が分かった時点で、ほかの診療科と連携することもある。  松本の医師役は初めてであるものの、ハマっている。松本の「日曜劇場」の前作は「99.9—刑事専門弁護士—SEASONII」(2018年)で、弁護士を演じ、当たり役となったが、端正な顔立ちであるためかインテリ役が似合う。  ドラマには毒気がなく、子供から高齢者まで観やすそうなドラマだから、高視聴率作品になると見る。ここで17本ある夏ドラマの第1回を個人視聴率の上位順に並べてみたい。(午後7〜同11時のプライム帯、ビデオリサーチ調べ、関東地区) (1)TBS「19番目のカルテ」(7月13日)7.0%(世帯11.4%) (2)テレビ朝日「大追跡〜警視庁SSBC強行犯係〜」(7月9日水曜午後9時)5.3%(世帯9.7%) (3)テレビ朝日「しあわせな結婚」(7月17日木曜午後9時)4.5%(世帯8.5%) (4)フジテレビ「明日はもっと、いい日になる」(7月7日月曜午後9時)4.1%(世帯7.1%) (5)日本テレビ「放送局占拠」(7月12日土曜午後9時)3.8%(世帯6.5%)  第1回は出演者と企画への期待やPRの良し悪しが表れやすく、ドラマの内容への支持を示すとは限らないが、「19番目のカルテ」の数字は突出している。 「日曜劇場」の法則  とはいえ、「日曜劇場」は難しいのである。高視聴率に評価が伴わないドラマもあるからだ。  象徴的だったのは前作「キャスター」。4月13日放送の第1回で8.7%(世帯14.2%)と断トツの視聴率をマーク。その後は数字が漸減したものの、それでも全ドラマの中で頭抜けたトップだった。だが不満を抱く人も少なくなかった。  理由はいくつか考えられる。1つは人気者の阿部寛(61)が主演ということもあり、期待度がかなり高かったが、現実味に欠けるエピソードや展開があったから。これによって興ざめした人もいただろう。期待は高いほど失望も大きくなる。  エンターテインメント路線だったせいでもあるのではないか。「日曜劇場」は観る人を広く集めやすいエンタメ路線のほうが視聴率を得る傾向があるが、評価はメッセージ性のあるシリアス路線のほうが獲得しやすい。  昨年の夏ドラマから振り返ってみたい。視聴率は第1回の数字を記した。 「ブラックペアン シーズン2」(昨年夏ドラマ)7.0%(世帯11.8%)  人間の生死が懸かった物語なので、エンタメかシリアスか微妙ではあるが、主人公の心臓外科医・天城雪彦(二宮和也)たちによる公開手術や手術バトルもあったので、エンタメだろう。 「海に眠るダイヤモンド」(同秋ドラマ)6.9%(世帯11.0%)  日本の今日をつくり上げた名もなき人たちの歴史を振り返り、愛や幸せを真っ正面から描いた。シリアスにほかならない。  視聴率はほかの作品に比べるとやや伸び悩んだが、力強い支持があり、放送終了後にはロス現象が起きた。2024年12月度のギャラクシー賞月間賞を受賞。「日曜劇場」作品の受賞は「天皇の料理番」(2015年春ドラマ)以来、9年半ぶりだった。 「御上先生」(今年冬ドラマ)7.3%(世帯12.2%)  学園ドラマだったものの、教科書検定問題や生理の貧困問題など従来作品では触れることが一切なかった問題に深く斬り込んだ。自死問題、政官学の癒着による不正入試問題も描いた。間違いなくシリアスだった。 評価も得られるか 「19番目のカルテ」もシリアスだろう。問題は評価を得るかどうか。サッカーの試合にたとえると、勝つのは間違いないが、ゲームの内容が問われる。松本と制作者側は視聴率と評価のどちらも獲るつもりだろう。  第1回の徳重は、左足首の骨折で整形外科に入院していた居酒屋店主・横吹(六平直政)が、喉の痛みを訴えていたため、問診する。横吹も整形外科も望んでいなかったから、押しかけ問診である。病院敷地内で見掛けた横吹が左肩を痛そうにしていたのが気になっていた。  徳重は苦しむ横吹をよそに、穏やかな口調でゆっくりと問診を行う。家族構成から飲酒についてまで聞いたので、横吹は「関係ないこと聞くな!」と怒鳴る。それでも徳重は「大事なことなんです」と意に介さなかった。  横吹の問診が長引いたため、新米の整形外科・滝野みずき(小芝風花)まで「いい加減にしてください!」と金切り声を上げた。咽頭痛なのだから、いち早く咽喉科に連れて行くべきだと考えていたのだ。  しかし、徳重の診断は心筋梗塞。問診と観察によって、左腕や左肩、喉の痛みなどが確認されたことから分かった。滝野も途中で気づき、徳重の診療技術に目を見張る。  企業内デザイナー・黒岩百々(仲里依紗)は全身の強い痛みに苦しんでいたが、どの医師からも「異常なし」と診断されていた。ドクターショッピング扱いまで受けていた。だが、徳重は病名を突き止める。原因不明の慢性疾患である線維筋痛症だった。  この病気は免疫の異常や炎症などが見られない。だから、どの医師も病気を見抜けなかった。徳重は検査をして異常がないことを確認したうえで、問診によって線維筋痛症であると特定した。徳重は患者を見捨てない医師なのである。  おそらく、滝野もこれから総合診療科医を目指す。貧しい人々の病気をなんでも治そうとした『赤ひげ診療譚』(山本周五郎)の医師たちに憧れているからだ。現代で赤ひげ型医師に近いのは総合診療医。滝野の成長物語もストーリーの柱の1つになるのだろう。  見どころはまだある。魚虎総合病院は院長の北野栄吉(生瀬勝久)と外科部長の東郷陸郎(池田成志)の間に確執がある。各診療科医たちの関係もぎこちない。  修復するのは徳重だろう。各診療科に出入りが出来る立場で、相手の話を聞くのが得意だからである。 高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ) 放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。 デイリー新潮編集部

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