1年目のルーキーリーグは43試合出場で打率.258「来てよかった」 19歳を迎える年に、自分はどんな夢を持ち、どんな未来を描いていたのか。渡米から4か月半、ルーキーリーグの1つ、アリゾナ・コンプレックス・リーグ(ACL)の最終戦を終えた森井翔太郎内野手の取材後、ふとそんな思いが頭をよぎった。 自分は当時、浪人生活真っ只中。にもかかわらず、コンビニでのバイトに精を出していた。大学受験に失敗して鼻っ柱をポキリと折られた時、自分の心の変化に興味を惹かれ、目指す学科を心理学に変更したことは鮮明に覚えている。ただ、大学卒業後の未来はもちろん、入学後の姿ですらボンヤリとしか描けていなかったように思う。 だが、先ほど話をしたアスレチックス傘下マイナーの森井は「自分の最終的な目標はメジャーリーガーになること」と明確に掲げ、メジャーで活躍する自分の姿を想像しやすい場所に身を置こうと、強い意志を持って海を渡った。43試合出場で打率.258、3本塁打、27打点、4盗塁。手探りのACLを戦い抜き、目を輝かせながら「来てよかったです」と晴れ渡る空のような笑顔を浮かべる。 飛び込んだ米球界で待っていたのは「まったく別物の野球だった」 米国での大学進学という選択肢もあったというが、「自分としては、別に何が正解とかないと思うんですけど、やっぱり早いうちからメジャーの組織に入ることが良かったと思っています」と話す。「メジャーリーガーとも話ができる。今日も相手(カブス)の先発投手はメジャーリーガー。そういうところですごく身近に感じられるし、やっていきたいと思っていたので」。もちろん、有名進学高から二刀流での米球界挑戦は異例中の異例とあって大きな注目を浴び、周囲では色々な声が飛び交うが、未来を切り拓くのは他でもない自分だ。選んだ道に迷いはない。 飛び込んだ先で待っていたのは、自分がよく知る野球とは違う「まったく別物の野球だった」という。 「打球の速さとかピッチャーが投げる球の速さとか、やっぱりスピードが違いますし、もちろん選手も話している言語も違う。(日本と)変わっていないところを探した方が早いくらい。全部が変わったというか、変わったことばかりですね」 チームメートはもちろん対戦相手のほとんどは、ドミニカ共和国やベネズエラなど中南米出身の選手たち。同世代だとはいえ、これまで見たことがないようなプレーを目の当たりにし、レベルの高さを肌で感じた。「ああいう選手がいっぱいいるのかなと思うと凄い」と驚きの声を上げるが、決して「別物の野球」に圧倒されているわけではなく、むしろ「それがすごく面白い」と楽しめている。 投手としては8月から本格始動の予定 森井の二刀流挑戦は、アスレチックスにとっても初めての試みだ。ともに歩みながら最適な方法を探っていこうという方針で、焦ることなく、焦らせることなく、積み上げていく。森井もACLでは、結果が出るに越したことはないが、数字に囚われることなく、「自分のやりたいアプローチができたか」を意識した。「シーズンを通して三振が多かった(43試合で47三振)」という課題を解決するためにも、打席では早いカウントから積極的にストライクを振るアプローチを取っている。「高めのストレートを見せられた後の低めスライダーを結構振ってしまう」という課題もあるが、それも当然のこと。「まだまだ改善の余地はあるけど、逆に今、改善の余地がなかったらどうするのという話。改善点が見つかるのは悪くないかなって」と頼もしい。 投手としては、肘に痛みを覚えた時期があり、ACLでの登板機会はなかった。痛みがなくなってからは投手用のスローイングプログラムに従って練習を重ね、7月最終週にも初めてブルペン入りを果たす。9月の教育リーグでは、主に投手としての経験を重ねることになる予定。投手として迎える本格的なスタートに「楽しみです」と話す顔には、自然と笑みが浮かぶ。 「部活」から「職業」となった野球に「しんどいですね」と本音もちらり 高校では「部活」だった野球は「職業」となった。週末だけではなく、ほぼ毎日試合に出続けるのは想像以上に体力が必要だ。朝起きて球団施設に向かい、練習と試合を終えて家に戻ると外出する余力はない。気が付けば、あっという間に4か月半が過ぎていた。「しんどいですね」と苦笑いで本音を漏らすが、それもまたどこか楽しんでいる様子に見える。 野球と真っ正面から向き合う毎日の中で改めて感じているのが、自分ひとりの力だけでは「今」はなかったということだ。家族、球団、友人ら、周囲のサポートがあってこそ、今がある。 「高校時代と少し変わったと思うのは、いろいろな人がサポートしてくれているので、その人たちのためにもサボれないこと。高校でもあまりサボったことはないですけど、前よりもしっかりやらなければいけない気持ちはあります。(渡米後は)本当にアスレチックスの人たちが、育成担当も含め、めちゃくちゃ良くしてくれるので、そういう人たちのためにも1日も早く上にあがっていきたいです」 わずか4か月半だが「全てにおいて、高校時代と比にならないくらい成長しています」と確かな手応えを感じているのは、目標達成のために野球と真摯に向き合っている証拠なのかもしれない。明確な目標に向かって迷いなく歩を進める森井の力強さが、なんだか羨ましくなった。(佐藤直子 / Naoko Sato)