「平静を保って生きていけない」続く被害者遺族の苦しみ 座間9人殺害事件 白石隆浩・元死刑囚が語る“後悔”

男女9人を殺害した罪などで死刑が確定し、2025年6月に刑が執行された白石隆浩・元死刑囚(34)。死刑判決が言い渡される日まで、20回を超える面会に応じていた。記者と対面した白石・元死刑囚は、裁判が進むにつれて生じた心境の変化と、「裁判で一番嫌だった」という自身の家族への思い、そして「後悔」を語っていた。(本文中敬称略) 【写真を見る】「平静を保って生きていけない」続く被害者遺族の苦しみ 座間9人殺害事件 白石隆浩・元死刑囚が語る“後悔” ※前編・後編のうち後編 遺族の言葉に「正直、落ち込む…」裁判で生じた心境の変化 白石は面会や裁判で、犯行当時のことを淡々と語っていたが、心境に変化を見せたことがあった。 白石は初公判の前までは、「一人目の被害者には謝罪の気持ちはあるが、ほかの8人には謝罪の気持ちは湧いてこない」と話していた。多くの被害者との間に、「一緒に過ごした思い出がない」というのが、その理由だった。 裁判では、被害者の遺族が意見陳述する場面が続いた。「娘の夢や希望、未来の全てが奪われた」「命に代えて罪を償って欲しい」。遺族から、極刑を求める声が次々と上がった。白石はそれを、目をつむったまま、前屈みで聞いていた。 その直後の面会で、白石は露骨に落ち込んだ様子を見せた。   「遺族の言葉を聞いて、正直、落ち込んでいます。『ああ、悪いことをしたんだな』と思って、気が重たくなりました。遺族が大きな喪失感と憎しみを持っていることが分かりました。謝っても、どうにもなるようなことではないのですが…」 そして、他の被害者にも「申し訳ないという気持ちがでてきた」と明かした。 子どもがいた被害者には、「残された子どもが、母親の愛を知らないで育つことになるので、だいぶ酷いことをした。申し訳ないことをしたと思っています」。最後に殺害した女性にも、「会った時の感触が良くて、好みでしたし、真面目にお付き合いをするつもりでしたが、性欲が勝ってしまった」と話した。 裁判を早く終わらせたかった理由 白石は記者との面会で、「早く裁判を終わらせたい」と頻りに話していた。それは、自らの家族に「迷惑を掛けたくない」という思いからだという。 「一番は、自分の家族に迷惑を掛けたくないからです。記者さんには、分からないかも知れないですけど、一番は自分の家族に迷惑を掛けないことが、ゴールなんです。それを達成するためには、大人しく罪を認めて、刑を受けることが一番の近道なんですよね。家族は一度も面会に来ていません。『家族に会いたいか』と聞かれたらそうだけど、でも、会わせる顔はありませんから」 そんな白石が「裁判で一番嫌なことだった」と明かしたのが、母親の調書が読まれたことだ。「虫も殺せない子どもだった」とする内容だった。 「弁護人には『裁判で出すな』と言っていたし、『証人でも呼ぶな』と言っていたのに。聞いていて、心が動揺をしてしまいました。最後の方で、『生きていて良いのか』という言葉がありましたよね。もう私のことを忘れて、前向きに生きて欲しいと思いました。母親のそんな言葉は聞きたくなかった。心情をみたくなかったし、聞きたくもなかった」 死刑判決当日の問い「後悔していることはありますか?」 12月15日、判決の当日の朝。落ち着いていて、朝ご飯を食べた後、ぼーっとしていたという。「後悔していることはありますか?」という問いに、一瞬だけ考え込み、こう話した。 「やはり、捕まったことだけです。それは当時も今も、変わらない。やったことの大きさに現実感がないというか、捕まらないつもりでやっていましたから。捕まったことを、今でも、ものすごく後悔しています」 「死刑を覚悟していることは変わりません。怖いかと聞かれれば、そうです。激しい痛みを感じるでしょうから、嫌です。でも、覚悟は変わらない。僕は死刑に値することをしたので、死刑になる覚悟はできています」 この日の午後、白石に死刑判決が言い渡された。微動だにしない白石に、裁判長が「主文は聞こえましたか」と問うと、「はい、聞こえました」とだけ答えた。 そして、4年半後の2025年6月27日、死刑が執行された。 「『今も生きている』と思わなければ、平静を保って生きていけない」 白石の死刑執行を、被害者の遺族はどう受け止めているのか。6人目の被害者となった高校3年生の娘(当時17)を亡くした父親(70)が、福島市の自宅で取材に応じてくれた。 父親は、白石に死刑判決が出た時の取材で、「死刑になって欲しくない」と答えていた。その気持ちは、死刑が執行された今も、変わらないという。 「死刑になることは、『逃げ』だと思うから。罪と向き合って生き続けて欲しかった。事件を起こしたことを後悔させてやりたかった。反省して最後まで生きることが、遺族への償いになったはずだ」 そう悔しそうに語る父親は、あるものを見せてくれた。 「娘が使っていた食器。今も残したままにしているんだよね」 娘が幼少期に使っていたというプラスチック製の食器には、娘が好きだったキャラクターが描かれていた。小さいころから絵を描くのが好きで、将来はアニメに関わる仕事をしたいと話していたという。そんな娘が事件に巻き込まれ、突然いなくなった。「犯人も事件現場も見ていない。娘の死に目にも会えていない。だから、ずっと海外留学をしているような感覚」。そう言って、寂しそうに笑った。 それでも、ふとした時に、現実を突きつけられることがある。生きていれば、25歳。テレビで女性のタレントを見た時や、通院している病院で看護師の若い女性と接した時に、娘と重ね合わせてしまうという。 「同じ年ぐらいの女の子を見ると、娘だと思ってしまう。結婚して子どもがいれば、このぐらいの子どもがいるのかなって。だから、若い女の子と接すると、優しくしてしまうんだよね」 そう言って静かに泣いた父親は、絞り出すように正直な気持ちを吐露した。 「『娘は今も生きている』と思わなければ、平静を保って生きていけない」 遺族の苦しみは、今も続いている。

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