シトロエンを120台所有する男 マニア必見のコレクション(前編) 巨大な個人博物館

熱心な愛好家が作り上げた「ミュゼ」 フランスの首都パリにあるシトロエン・コンセルヴァトワールは、シトロエンが所有する自動車博物館だ。しかし、この博物館には強力な「ライバル」がいる。 【画像】シトロエンと言えばこの2台! 歴史に残る名車【2CVとDS19を詳しく見る】 全36枚 熱心な自動車収集家、アンリ・フラデ氏は、40年かけて戦後のシトロエンモデルを丹念に集め、その数120台以上という驚異的なコレクションを築き上げた。これらの車両は、フランス南部の小さな町カステラーヌにある『シトロミュージアム(CitroMuseum)』という個人博物館に収められている。 フランスの個人博物館『シトロミュージアム』に並ぶ魅力的な展示車両を一部抜粋して紹介する。 フラデ氏は、走行距離が少なく、レストアされていない個体を好み、理想のシトロエンを探し求めて欧州各地を旅してきた。今回は彼の貴重な収集品の中から、特に興味深いものをいくつかご紹介したい。風光明媚なフランスアルプスを背景に、タイムトラベルのような体験を楽しもう。 3つの展示フロア 博物館は大きく3つのセクションに分かれている。1つ目は、トラクシオン・アバンとDS/IDのシリーズを紹介している。2つ目は、2CVとその数多くの派生車種に焦点を当てている。そして3つ目のセクションは、1970年代から1990年代にかけて製造された比較的新しいクルマが展示されている。 フラデ氏は、集めたクルマを倉庫に保管するだけでは満足しなかった。各セクションには、シトロエンの研究開発部門が保管していたオリジナル文書、モデルカー、ヴィンテージのディーラー看板など、シトロエンにまつわる貴重な資料が数多く収められている。 テーマごとに3つの展示フロアに分かれている。順に紹介しよう。 トラクシオン15/6(1952年) シトロエンは1934年にトラクシオン・アバンを発売したため、戦後のモデルとして分類されるわけではないが、1957年まで長期にわたって生産されていることから、この博物館にも所蔵されている。 写真の1952年製の車両は、2.9L直列6気筒エンジン(最高出力78ps)を搭載し、これまでに約4万kmを走行している。1973年にあるコレクターが最初のオーナーから購入し、常時屋内で保管していた。フラデ氏のシトロミュージアムに加わったのは2016年のことだ。 トラクシオン15/6(1952年) DS(1955年) シトロミュージアムにはDS/IDが数台展示されているが、この1955年製のブラックの個体は、間違いなく歴史的に重要な1台だ。シャシー番号は「32」で、生産開始後14台目に販売された個体であり、現存する最古の量産車だ。最初の13台は、コレクターの注目を集めるよりもずっと前に、おそらく廃車になっていたと思われる。 シトロエンは1956年2月までDSの量産を開始していなかったため、1955年に登録された175台は、すべて手作業で組み立てられた。この32号車は、フランスのヴァランスにあるシトロエン販売店に納車され、デモカーとして使用された。本来はシトロエンの本社に返却されるはずだったが、顧客の1人に売却された。その後、数人のオーナーを経て、オランダの博物館で13年間保管された後、2004年にシトロミュージアムに加わった。走行距離は約6万9000km。 DS(1955年) ID 19(1963年) ID 19は、DS 19よりも安価でベーシックなモデルだった。この1963年製の個体は珍しいブルーの「ブルー・ド・プロヴァンス」という塗装で仕上げられており、新車以来2万7000kmを走行している。フラデ氏は2人目のオーナーから購入し、ベルギーの道路脇でハイドローリック・サスペンションの高圧ポンプを取り外して固着したバルブを緩めた後、当時住んでいたノルウェーまで運転して持ち帰ったという。 ID 19(1963年) DS 21カブリオレ(1966年) 多くのコーチビルダーがDSをコンバーチブルに改造した。DSは、改造の基盤として魅力的なクルマだった。この1966年製の個体は、1365台作られたうちの1台。シトロエンが提供した設計図に基づいて、フランスのコーチビルダー、アンリ・シャプロンによって生産されたものだ。フロントのパネルとすべての機械部品を標準の4ドアモデルと共有する、メーカー公認の改造車だ。 パリで新車販売された後、1970年にカンヌに移され、最終的に約14万7000kmを走行した。約30年前に部分的にレストアされているため、シトロミュージアムで数少ない100%オリジナルではないクルマの1つである。 DS 21カブリオレ(1966年) Dスーパー(1970年) Dスーパーは、1969年にDSの小型・低価格モデルとして登場した、IDの後継車である。この個体は、あるラジオオペレーター(アマチュア無線愛好家)が新車で購入し、送信機を装着して、ダッシュボードに110Vの電源ソケットを増設した。しかし、高齢で運転できなくなったため、走行距離5万kmで手放したのだという。 Dスーパー(1970年) 2CVの系譜 今日、ヴィンテージカーのショーで新車同様の2CVを見つけることは、パリ中心部でバゲットを見つけるよりも簡単だ。しかし、これまで常にそうだったわけではない。何十年もの間、シトロエンの “醜いアヒルの子” は耐えがたいほど遅く、あまりにも構造がベーシックすぎるとして、ほとんど価値がつかなかった。 2CVとその数多くの派生車種は大量生産されたが、同じように大量に廃棄されたため、シトロミュージアムに展示されているこのクルマたちが生き残れたのは幸運なことだ。今ではコレクターがその物語を語り継いでいる。 ここからは2CVと、そこから派生したモデルを見ていこう。 2CV A(1954年) この1954年製2CV Aの最初のオーナーは、高齢の家族を日曜日のドライブに連れて行くためだけに購入したという。その家族が亡くなった後、1958年から駐車されたままになった。オーナーは後に、運転に興味がなく、通勤には自転車を好んだと説明している。1991年、熱心な愛好家がパリ郊外のガレージでこの個体を発見し、売ってもらえるようオーナーに頼み込んだ。説得には4年を要し、ついに1995年、オーナーが売却を決意した。 走行距離は7300kmと、新車同様だ。オリジナルの375ccのフラットツインエンジン(最高出力9.5ps)を搭載し、ドアパネルには工場出荷時に貼られた茶色の保護シートがそのまま残っている。 2CV A(1954年) 2CV AZU(1961年) 2CVのトラック型モデルであるAZUは、やや大きな425ccのフラットツインエンジンを搭載し、最高出力12psを発揮した。シトロミュージアムに展示されている1961年製、1万5000km走行のこの個体は、アフターマーケット企業GlacAutoにより、オプションのリアサイドウィンドウが追加されている。この改造はシトロエンの認定を受け、GlacAuto製の改造車は正規のディーラーネットワークを通じて販売された。 2CV AZU(1961年) 2CV AZLP(1959年) フラデ氏は、1979年に走行距離約5000kmの1959年製2CV AZLPを購入した。これは彼にとって最初のヴィンテージカーであり、彼がヴィンテージカーに夢中になるきっかけとなったクルマでもある。走行距離が約1万3000kmになったところで、運転をやめた。その新車に近い状態を保ち、走行距離の少ないオリジナル車を展示する博物館を設立することを思い立ったのだ。 2CV AZLP(1959年) 2CV6 CT(1984年) 2CV6 CTはスペインで生産され、現地市場で販売された。CTは「快適」を意味する。フランスで販売された2CVクラブと非常に似ている。シトロミュージアムに展示されている走行距離84kmのこの個体は、スペイン生産の2CVの最後の1台とされている。 アンダルシアのディーラーで新車販売されたが、オーナーは走らせることなく、登録もせずに新車同様の状態を維持していた。その後、フラデ氏のコレクションに加わる前に2度売却を経験している。 2CV6 CT(1984年) 2CVチャールストン(1990年) 1990年、シトロエンが2CVの生産終了を発表した際、2人の兄弟がそれぞれ新車を購入し、可能な限りオリジナルの状態を維持する目的で所有した。両車はシトロエンの無料メンテナンスプランを利用するため約6か月間走行した後、20年以上室内保管されていた。 1台目(写真)は走行距離わずか726km、2台目に至っては21kmしか走行していない。 2CVチャールストン(1990年) アミ6(1963年) 6は、そのユニークなZ字型のルーフラインが大きな特徴で、アミファミリーの中で最も収集価値の高いモデルとなっている。この個体は、母親を乗せるための快適なクルマを求めていた人が新車で購入したものだが、その母親が亡くなってから30年間、ガレージで眠っていたという。 オーナーは最終的に走行距離2800kmで売却。フラデ氏は2010年に同好の愛好家から走行距離8525kmで購入した。 アミ6(1963年) アミ8(1973年) アミ6の後継となるアミ8は、実用的で使い勝手に優れているが、シルエットがあまり個性的ではないため、それほど人気は高くない。大量生産、大量消費されたクルマの好例と言えるだろう。この個体は走行距離1412kmで、郵便局員が退職後に新車で購入したものの、数か月しか使用しなかった。オーナーは運転するには年を取りすぎたとして、30年間駐車したままにしていた。 アミ8(1973年) M35(1970年) M35は、シトロエンのエンジニアリングの素晴らしさを体現したモデルだ。アミ8のフレームを流用し、最高出力60psのシングルローター・ヴァンケルエンジンと、DSにも採用されていた油圧式サスペンションの独自バージョンを搭載した。アミ8と共通するデザイン要素はごくわずかであり、ほぼファストバックのようなルーフラインを持つクーペスタイルであった。 シトロエンは、M35を500台のみ生産し、それを顧客に試乗してもらい、実際の走行条件での使用感に関するフィードバックを得る計画だった。そして、その知見を量産モデルの開発に活かす狙いがあった。しかし、M35は非常に高価で(エントリーレベルのDスーパーと同等の価格)、1969年から1971年にかけて267台しか生産されていない。 M35(1970年) この3万1000km走行の個体は、フランス南西部で新車販売された後、アルプス地方に渡った。あるディーラーが元のオーナーからこの個体を買い取ったものの、後に破産し、借金のカタとして譲渡してしまった。新しいオーナーは、一度も運転することなく売却。現在、このM35は走行可能な状態で保管されている。フラデ氏のコレクションには、これとは別にもう1台M35がある。 アミ・スーパー(1973年) スーパーは、アミの中で最もパワフルで高価なバージョンであり、現在では最も希少なモデルでもある。シトロエンは、アミ8などの2CVベースのモデルと、より大型のGSの間のギャップを埋めるために、1973年にアミ・スーパーを発売した。設計手法はいたってシンプル。アミのボディに、GSから流用した1.0L水平対向4気筒エンジンを搭載し、最高速度138km/hを実現した。 フラデ氏のコレクションにある数台のスーパーのうち、この青い個体は新車当時に2CVからのアップグレードを期待した男性が購入したものだ。しかし、彼はこのクルマの運転にまったく慣れることができず、特にシフトパターンに戸惑ったそうだ。2CVではリバースギアのある位置に、1速ギアが配置されているのだ。1980年に中古の2CVに買い替えるまでの間に、彼はわずか2000kmしか走行しなかった。 アミ・スーパー(1973年) ディアーヌ(1983年) シトロエンは、2CVのモダンな後継車として、1967年にディアーヌを発売した。しかし、奇妙なことに、置き換えられるはずだった2CVよりも7年早く生産終了となった。シトロミュージアム所蔵のディアーヌは生産最終年に出荷されたもので、農家によって日曜のドライブ用として購入された。あまり遠くまで出かけなかったようで、走行距離はわずか5684kmである。 ディアーヌ(1983年) メアリ(1972年) 修復や改造、再塗装が施されていないオリジナルのメアリを見つけるのは、言うほど簡単ではない。多くの個体は、まだ価値が低かった頃に使い倒され、後にアフターマーケットの部品で修復されている。あらゆる部品がさまざまな業者から新品で購入できることは、良いことでもあり、悪いことでもある。この1972年製の個体は、フランス中部の小さな町で購入され、消防士によって時折使用されていたようだ。走行距離は4300km。 メアリ(1972年) HY(1982年) フラデ氏のHYは、モデル末期の最後の最後に生産された個体である。1981年12月に生産され(同年に生産終了)、1982年初頭に新車登録された。あるワインメーカーが購入し、自社の敷地内で使用したが、新車同様の状態を維持するために多大な努力が払われた。1万2000km走行後、屋内で保管されていた。 (翻訳者注:記事は後編に続きます。後編では、比較的モダンなモデルの展示フロアを紹介しています。) HY(1982年)

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