本と植物と人が交わる東京・上野の書店「ROUTE BOOKS」——選書担当が勧める3冊とその空間の魅力

新連載「どくしょとしょくぶつ」では、本と植物のある場所を訪ねて、 空間と本、そしてそのあいだに流れている静かな時間をご紹介します。 人が行き交う上野の街。その雑踏から少し足を延ばすと、不思議な居心地の良さをまとった空間がある。窓ガラス越しに見えるのは、ちょっと変わった本棚と、個性的な植物たち。今回訪ねた書店「ROUTE BOOKS」は日常の“裏側”に、そっと佇んでいます。 (撮影/森 清) “町工場”から生まれた、自由な書店 「ROUTE BOOKS」のルーツは、実は“町工場”から始まりました。2015年、元は浅草にあった工務店「ゆくい堂」がこの土地に移転。その目の前には廃業となった古い工場があり、「このスペースで、なにか面白いことをしよう」とリノベーションして誕生したのがROUTE BOOKSです。 本をたくさん読むオーナーが立ち上げた……というわけではなく、「コーヒーと植物がある書店って、なんだか良いよね」という直感から空間づくりが始まったのだそう。本好きだけでなく、インスピレーションを求めるクリエイターや、通りがかった人、建築が好きな人、さまざまな人が集う空間として生まれ変わりました。 真向いにはボタニカルショップ「ROUTE BOTANICALS」も併設され、ここ「ROUTE COMMON」と呼ばれる一角には他にも、金土日にオープンするカレー店、スタジオ、陶芸教室まで、多彩なショップやカルチャーが集まっています。 本と緑と人が、つながる場所 ROUTE BOOKSの魅力は、並んでいる本の多様性にもあります。選書を担当する石川歩さんは、もともと不動産専門のウェブメディアでリノベーションに関わる記事の編集者をしていたといいます。 「前職でゆくい堂のリノベーションを取材したことがきっかけでご縁ができて、オーナーにお誘いいただきました。私は3代目の選書担当です」(石川さん) 店内の蔵書は約4000冊。小説やエッセイはもちろん、アートブックや人文書、雑誌や写真集、建築やライフスタイル、レシピ本と、さまざまなジャンルが、工務店ならではの、廃材を利用した本棚に並んでいます。 「オーダーは、『この空間にありそうな本』というざっくりしたものだけ。そのため選書は自由度が高いです。書店って少なからず“本に興味がある人”が訪れるイメージがあるかもしれませんが、ROUTE BOOKSは必ずしも本が目的ではなく、空間の雰囲気に惹かれてふらりと入店される方も多く、そうした人と本の出会いになるよう多彩な本を仕入れています」 この空間では、カフェでコーヒーを飲みながら購入した本を読むのも、2階でオリジナルカレーを食べるのも、陶芸教室に通うのも自由。 「お客さん同士で会話が生まれたり、スタッフやバリスタとも自然と話せる雰囲気があります。コミュニケーションのある書店ですね」 植物の存在感! ROUTE BOOKSの大きな特徴は、空間のあちこちに置かれた珍しい植物たち。真向いの「ROUTE BOTANICALS」はオーナーの「植物好き」が高じて始まったボタニカルショップ。お客さんから「この植物を売ってほしい」と声があがり、誕生したといいます。 「ROUTE BOOKSにある植物は、すべて購入可能です。今の植物担当者はダイナミックな植物を多く仕入れるので、お店の雰囲気もどんどん変わります。まるで異国を旅しているような気持ちになれるのでは」と石川さん。 力強く、青々としたグリーンを眺めていると、癒やされるだけでなく、どこか活力が沸いてくる。 「植物って空間を一気に変えるんですよね。植物は水分を多く含むので書籍とは相性がよくない部分もあり、そこはしっかりとした管理が必要なのですが、植物がないともっと無機質な空間になっていたはず。この書店が落ち着く場所と言っていただけるのは、本と植物がある空間だからこそだと思います。本と植物は“日常生活に絶対必要”というわけではないけれど、あると人生をちょっと豊かにしてくれる存在ではないでしょうか」 ROUTE BOOKSのおすすめ書籍3選 『どんぐりかいぎ』 こうや すすむ/文 片山 健/絵 福音館書店/刊行 どんぐりがたくさん落ちる年とそうでない年の違いはなぜなのか。 〈どんぐりの木がたくさん実を落とすと、森のどうぶつたちは食べたあと残った実を地面に穴を掘ってかくします。冬の間は、このどんぐりを掘り出して食べるのですが、その食べ残しが春になると地面から芽を出します。昔々、森のどんぐりの木たちは、実を小動物たちに食べつくされて大弱り。「どうしたらあとつぎの子どもの木を育てることができるだろうか」と会議を開きます。〉 「どんぐりの木が子孫を残すために話し合うというストーリーの絵本で、子どもはもちろん、地球環境問題を考える大人にも響く本。どんぐりの話が、自然から与えられるばかりの人間社会にも重なる気がして、いろんな読み方ができると思います」(石川さん) 『私の孤独な日曜日』 月と文社/編 月と文社/刊行 〈世代やバックグラウンドの異なる17人による、ひとりで過ごす休日についてのエッセイ・アンソロジー。20代から50代まで、肩書きもさまざまな、独自の視点と感性で文章を書く人たちに執筆を依頼。無名でありながらも、その人ならではの「孤独」の風景を持つ方々の、魅力あふれるエッセイが届きました。〉 「日曜日のショッピングモールで、周囲の楽しそうな家族連れを見て自分の孤独を感じる…といったエピソードが印象的。誰もがどこかで共感できる“孤独”が描かれています。ROUTE BOOKSに来店した方もよく購入されている本です」(石川さん) 『私たちの星で』 梨木 香歩/著 師岡カリーマ・エルサムニー/著 岩波書店/刊行 作家と宗教研究者の往復書簡。 〈端正な作品で知られる作家と多文化を生きる類い稀なる文筆家.二人の対話はこの星を駆けめぐり……。『図書』の好評連載を単行本化。 ムスリムのタクシー運転手や厳格な父を持つユダヤ人作家との出会い、カンボジアの遺跡を「守る」異形の樹々、かつて正教会の建物だったトルコのモスク、アラビア語で語りかける富士山、南九州に息づく古語や大陸との交流の名残…….端正な作品で知られる作家と多文化を生きる類い稀なる文筆家との邂逅から生まれた、人間の原点に迫る対話〉 「梨木さんと師岡さんの往復書簡。たとえば宗教問題について“難しいよね”で終わらせず、互いに考え続ける。異文化理解や、個人の思いにまで寄り添う二人のやりとりは、現代の“分断”についても考えさせられます」(石川さん) 本と植物が、日々の風景をちょっとだけ変えてくれる 本と植物、どちらも“なくても困らない”けれど、あるだけで日々の風景がちょっと変わる。 街の雑踏から少し離れるだけで、こんなふうに自分のペースで本と向き合える場所がある。 コーヒーを片手に、不思議な存在感のある植物を眺めながら本を読む時間——忙しい毎日のなかで、そんなひとときを過ごしてみるのもいいかもしれません。 ROUTE BOOKS 東京都台東区東上野4-14-3 Route Common 1F OPEN:12:00-19:00 CLOSE 不定休 HP:https://route-books.com/ X:https://x.com/routebooks 東京都小平市の植物専門書店「草舟あんとす号」に人が集う理由...植物と本で「心を整える」空間が話題に

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