支援する側が“救われる” ギャンブル依存症と自助グループ 専門家「薬や医療では回復しない」

タレントやプロ野球選手らが書類送検されるなど、社会問題になっているオンラインカジノ賭博。こうしたギャンブルをやめられない場合はギャンブル依存症という「病気」を発症している可能性があり、 スマホで簡単にアクセスできる分、依存症に陥るまでの時間は短くなっているといいます 。もし自身が、家族や同僚がなったら——。「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表に聞きました。 ■ギャンブル以外では快感につながる”ドーパミン”が出ない状態に ──趣味でギャンブルを楽しむ人と“依存症”の境目はどこにあるのか ポイントは“借金を繰り返していたら”だと思います。借金は苦しいし、つらいし、「もう絶対したくない」と思う。それなのに、その自分を苦しめることを繰り返していたら、それはもう自分で自分のことがコントロール不能になっている。依存症に陥っていると、私は思います。 「どんな人がなるんですか?」という質問をよく受けます。ただ、これは「誰でもなります」としか言えません。 もちろん、お酒を飲む人、ギャンブルをする人、全員が依存症になるわけではない。(ギャンブルなどをすると)ドーパミンという物質が脳内にたくさん出る(快感を覚える)ので、 気分転換の手段とする人は多いです。ただ、依存症になってしまうと、お酒やギャンブルをやめたとき、他のことではドーパミンが出なくなり、快感を一切感じなくなってしまう。人生が退屈に思えたり、苦しく思えたり…。何をしても全く面白くないと思うのに、ギャンブルをしている時だけは、バッと反応する。だから、依存症の人たちは、自分の気持ちを引き上げるためにギャンブルをやらざるを得なくなる。そういう病気なんですね。 なぜ発症するかは、病気なので分かりません。ただ、その病気になると、それ以外で気持ちを引き上げることができなくなっちゃう。 世の中によくある誤解ですが、「ほどほどにしておきなよ」という説教は、全く効きません。例えば、アルコール依存症の人は、アルコールを“ほどほど”にできない。アルコールを飲むことは(大量飲酒につながり)死んでしまうこともある。だから、依存症になったら、きっぱりと“やめ続ける”しかないんです。 ■やめるのも地獄、やっても地獄だった ギャンブル依存症の治療では、薬物療法、薬を飲むことはありません。うつ病を併発しているなどの場合は、薬を飲むことが必要で、医療にかかる必要がありますが、ギャンブル依存症だけの場合、(同じ問題を抱える人たちが集まり、交流する)自助グループや回復施設などにつながることが大切です。 (ギャンブルを断つと) 最初の頃は、本当につらいんです。借金を抱えていたり、会社や家庭での人間関係が悪かったり。何よりドーパミン(による快感) を感じられないので、ものすごく気持ちが落ち込む。ギャンブルでドーパミンを出して、自分を維持していたのに 、そのギャンブルをやめなきゃいけないんですから。 私もギャンブル依存症の当事者でした。自助グループにつながったばかりの頃、会社を出て、そこから動けなくなったことがあります。ギャンブルをやめるのも地獄、やっても地獄なのが分かっているので、「こんなにつらいんだったら死にたい」と(自助グループの )仲間に電話したら、迎えに来てくれた。泣きながら一晩中話を聞いてもらったこともありました。 ■支援する側が“救われる” 自助グループにつながる重要性 実は、自助グループで重要なのは、他人を「支援する側」に回ること。支援する側に回ると、自分がギャンブルをやめ続けられるんです。 ギャンブル依存症は、「他者への貢献」で回復する不思議な病気。仲間を支援することを通して、他人を信じる力が生まれ、同時に、やらかしてしまった自分、ありのままの自分も認められるようになります。共同体のような感覚が生まれ、“自分は生きていてもいいんだな”と思えるようになるんです。 苦しかった経験にも価値があったと思えるようになること。そして、自分は誰かの役に立っていると思えるようになること。そういう役割をいっぱい与えてくれるので、自助グループによって(依存症から) 回復できるんですね。 ■メディア報道への違和感 バッシングでは回復しない ギャンブル依存症を“恥ずかしい”と隠すところから、変えていきたいと考えています。テレビ局など、メディアに求めたいのは、依存症で何か問題を起こした人たちについて、人格否定のような報道に走らないようにしてほしい。悪人ではなく、病人なんです。 「甘えている」「依存症と言えば許されると思うな」というようなことを、言われることがあります。依存症に端を発して横領などの事件を起こした人は、服役したり、賠償金を支払ったり、当然、罪を償うことをしています。別に依存症だから“チャラになる”わけではありません。 その上で、どうやって依存症からの回復を目指すのか。(人格否定のような)バッシングでは回復しません。病気なので、適切な回復プログラム(※1935年、アメリカでアルコール依存症からの回復を目指して始まり、世界中に広がったもの。色々な依存症からの回復実績が示されている)につながることが大切なんです。 また、借金があることを芸能人やタレントが面白おかしく話す番組が、ものすごく増えた時期がありました。ギャンブルによる借金がある人たちに「これだけやってもいいんだよ」と思われかねない演出で、私は怖いと思っていました。借金があることの“クズっぷり”みたいなことを笑う番組かもしれませんが、「みんなそうなんだ」と誤解されてしまいます。 依存症患者の家族などは苦しみが長引くこともある。本当にそこから死ぬまで追い詰められている人たちがいる、というところも配慮して欲しいと思います。   ◇ 田中紀子氏 公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表。ギャンブル依存症だったが、回復して2014年に会を立ち上げ、当事者や家族の支援のほか、予防・啓発の講演活動をしている。医療者とともに依存症予防に関する調査・研究も多数。

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