先月公開された映画「悠優の君へ」、ある病に苦しむ少女の物語です。 ——映画「悠優の君へ」より 「ずっと、隠れて手を洗い続ける優乃が気になっていた」 その病は「強迫性障害」。映画は、少女の複雑な心境を描いています。つくったのは23歳の女性で、実はこの映画は自らの経験をもとにしています。女性には13年間、誰にも言えなかった思いがありました。 ■「強迫性障害」との闘い…“自分は汚い人間”何度手を洗っても押し寄せる不安 病気による症状から手を洗うことをやめられない、福原野乃花さん(23)。 福原野乃花さん 「こんな一回の手洗いだけじゃ目に見えない菌が残っている気がして、納得するまでやるけど、やればやるほどやめられなくなる」 手を何度洗っても、汚いのではないかと思ってしまうという。 野乃花さん 「一番ひどいときで一時間くらい。ここでやめたら 自分についた汚い菌で誰かが、大げさだけど死んじゃうかも…」 押し寄せてくる不安…。野乃花さんが闘っているのは「強迫性障害」です。強迫性障害とは一般的に、不快な感情を伴う考えやイメージが頭に浮かんで離れず、それを振り払うために何度も同じ行動を繰り返してしまう病気で、原因はわかっていません。 野乃花さんの症状は、手を洗うことでした。 ■「絶対にばれちゃいけない」助けを求められずにいた13年間 野乃花さん 「とにかく(他の人に)ばれるのが怖くて、知ってもらって助けてもらいたいというよりは、絶対にばれちゃいけないこと」 症状があらわれたのは7歳のころ。以前から汚いものへの恐怖心がありましたが、些細な出来事から突然、強迫観念に襲われました。症状は徐々にエスカレートし、“自分は汚い人間”という考えにとらわれ、手洗いをやめられなくなったといいます。 誰にも助けを求めることができず13年。20歳になってようやく病院に行く決意をしました。 野乃花さん 「(病院は)すごく怖い場所だと思っていた。ハードルめっちゃ高くて」 ■専門医「決して珍しくない」100人に2〜3人が該当 野乃花さんが取り組んでいるのは、「認知行動療法」という治療法です。 医師 「(手を洗った)直後から不安の大きさを書いている」 強迫観念が生じたとき、その行動や気持ち、不安感を記録し、しっかりと向き合いながら慣れていこうというものです。手洗いした後に感じる不安の大きさを時間の経過と共に数字で表します。当初、手洗い直後の不安は60%。でも2時間たつと10%まで減っています。これにより、不安は時間の経過と共に減っていくと認識できます。半年間続けると、症状は少しずつ改善されていきました。 野乃花さん 「最初は気になってしょうがないけど、10分、20分、30分って気にならなくなっていくと思うと、最初から気にならなくなっていく」 当初1時間かかっていた手洗いは、今では長くとも15分ほどだといいます。実はこの病気、苦しんでいる人は少なくありません。 専門家は—— 九州大学大学院 医学研究院・中尾智博教授 「100人に2〜3人は人生のうちに強迫性障害の診断に該当する状態になっている。決して珍しくない」 ■「店で支払ったはずが、盗んだのでは…」患者それぞれの深刻な症状 埼玉・所沢市で行われた強迫性障害の患者やその家族が集まる会を訪ねました。ここでしか話せない患者それぞれの深刻な症状—。 参加した男性 「何かを店で買ったときに正しく支払ったはずですが、盗んでしまったのではと思ったことがありました」 根拠なく、自分が悪いことをしたかもしれないと思ってしまう不安感。 21歳の女性は、記事やテレビで見た怖いことが自分の身に起こるかもと恐怖感に襲われるといいます。 21歳女性の母(娘が強迫性障害) 「病気になったら怖いとか呪われたら怖いとか、テレビでこういう病気がありますとか、小学生の当時は(娘は)『見たら、私もそれになるんじゃないか』」 恐怖感にさいなまれ、女性は通信制の高校も1年で退学してしまいました。 ある母親は、お風呂に12時間かかる子どもについて話しました。 患者の母親 「今では(風呂に)12時間入らないと出てこられなくて、お風呂に入らないと家の中が汚れてしまうと言って家の中で生活ができないので、車の中でほぼ丸一日過ごしている」 ■高校時代、誰にも言えなかった「本当の思い」を映画に 重症化すると生活に大きな支障をきたします。治療法はさまざまで、長い時間をかけて向き合っていかなくてはなりません。野乃花さんも症状は軽くなったものの、まだ、その苦しみを抱えています。そんな中、自分の経験をもとに映画をつくろうと決意しました。 野乃花さん 「映画撮るなら絶対に高校時代のことにして」 学生時代に映像を学んでいた野乃花さんは、アルバイトをしながらクラウドファンディングで資金を募り、監督・脚本をつとめました。 野乃花さん 「(高校は)後悔が詰まった場所」 症状が一番重く出ていた高校時代、当時の写真では屈託のない笑顔の野乃花さんですが— 野乃花さん 「みんなと同じ普通の人間でいなきゃみたいな、自分を取り繕うのに必死だった。やりたいこと、なにも思うようにできなかった」 映画には、あの頃誰にも言えなかった本当の思いを込めています。 野乃花さん 「自分じゃない、強迫という存在が脅してくる。やりたくてやってるわけじゃない。そんなこと気にしなくていいと思われる、それを自分が一番わかってて。恥ずかしいことじゃなくて、そういう病気なんだってことがもっと知ってもらえたら」 先月、東京での映画の公開日を迎えました。 野乃花さん 「実感があまりわいてなくて」 強迫性障害という病気を多くの人に伝えたい、その一歩を踏み出しました。 野乃花さん 「苦しんでいる人が話しやすい環境になったらいいなと」 映画で描いた、あの頃の自分。今だから思うことがあります。 野乃花さん 「本当に思うんですよ。(高校時代の自分に)会いに行けたらどんなにいいかと。とにかく責任感に押しつぶされそうだったので、自分のせいで誰かが死んじゃうとか傷ついちゃうとか『全部放棄していいから、大丈夫だよ』って言ってあげたい。昔の自分には今言えないから、その分今苦しんでる人にそういう言葉を届けられたらな」 (11月14日『news every.』16時特集より)