NHK党党首・立花孝志氏を表紙に起用して炎上した雑誌『情況』。立花氏は、昨年の兵庫県知事選では、自ら立候補しつつも当選を目指さず、他の候補者を応援。真偽不明の情報を駆使し、敵とみなした人を激しく攻撃したことでも批判を浴びている。今夏の参院選にも出馬し、落選している。 そんな立花氏を起用した『情況』の編集長は、東京大学を出た研究者だ。なぜ、”左翼雑誌”と言われてきた雑誌の編集長になったのか。そして編集長としての覚悟とは? 前編に続き、塩野谷恭輔氏に話を聞いてみた。(取材協力:茂木響平・ライター、Barミズサー経営) 【前編記事はコチラ】『なぜNHK党の立花孝志氏が雑誌の表紙に!? 編集長に真意を聞いてみた』 政治運動に敗れて ——塩野谷さんは、東京大学大学院で宗教学の研究者をされていたそうですね。 厳密にいうと、専門は旧約聖書の古典文献学と文学批評です。バビロニア捕囚前後の古代イスラエルの聖書編集者たちが、どのような政治構造の中で聖書テクストを編集していったのか、その痕跡や読み替えはどのような宗教的・政治的効果をもたらしたのか、こういう問題を考えていました。 ——もともとそういった関心はあったのですか。 宗教的なものに対する関心は幼少期からありました。もともとは大学生の頃、政治運動に関わっていた時期がありました。 しかし、2014年頃に紆余曲折あって、ノンセクトの運動は負けてしまいます。そして2015年になった瞬間、多くの人が安全保障関連法案を巡る「15年安保」に流れていきました。 「負けたら負けたで総括をしなければいけないのに、何を考えているんだ」と思いました。流されずに、自らのものの考え方を作りたいと思って大学院に進学したのです。 『情況』編集部の内幕 ——そこから、どんな経緯で編集長になったのですか。 『情況』は、何度か休刊と復刊を繰り返しています。2018年に復刊された第5期から、私は寄稿するようになりました。第4期の編集長だった大下敦史さんが癌で亡くなり、雑誌を終わらせる時期が決まったことで、新しく第5期がはじまりました。 第5期の最終号が、重信房子氏が表紙になった2022年夏号です。重信房子氏が出所したタイミングで雑誌を終わらせようという話になったようです。 同じ頃から、私は編集部のメンバーとして、雑誌の今後を検討する会議にも出席するようになりました。第6期を引き受ける予定だった方が辞退し、誰かが引き継がなければ情況出版株式会社が、ひいては『情況』がなくなってしまう、第6期が始動できないということで、私が引き継ぎました。今は編集長かつ情況出版の代表取締役です。 ——執筆陣には評論家もいれば10代から20代前半ごろの若いライターの方もいますが、どのような編集体制なのでしょうか。 専属のライターはいません。ほぼ外注で、私自身が体当たりで書き手を探しています。記事を挙げてくれる編集部員もいますが、記事の8割は私が編集しています。 こうした体制になっているのは経費の関係が大きいです。現状では著名な書き手の方に大勢執筆してもらえるような売り上げにはなっていません。 ——紙の雑誌はなかなか売れないと……。一時期YouTubeで動画を配信されていましたが、ほかの事業やメディア展開などは考えているのですか。 YouTubeをはじめSNS運用を精力的にできればいいのですが、現状ではマンパワーが足りません。ただ、協力をいただける方も増えてきたので、今年からは力を入れていこうと考えています。会社として自費出版の単行本の編集を手掛けてもいます。 参政党が躍進したワケ ——直近ではトランスジェンダー、ニューウェイヴ政党ときましたが、これから扱いたいテーマはありますか。 決着がついていない、よその媒体が避けたがるテーマは扱っていきたい。火中の栗は積極的に拾いにいきたいですね。『情況』は怖いもの知らずなところが、評価されていると思いますから。 ——世に一石を投じることには、訴えられる、抗議を受けるといったさまざまなリスクもあると思います。 訴えられると、裁判費用や準備の時間もかかるので困りますね……。明確に訴えられそうな表現はなんとか編集の段階ではじいていかなければいけない。そのくらいは考えています。 相手が直接的な行動に出ることもあるかもしれませんが、公開情報でわかるのは会社の住所くらいですから、できることは限られています。 いずれも、言論に携わるのであれば仕方のないことだと思っています。実際、私の名前でエゴサをすると殺害予告が見つかることもありますが、仮に殺されるようなことがあってもそれは仕方がないでしょう。言論に関わる者の責任だと考えています。世にものを問うことには、それほどの重さがあることだと思っています。 もちろん、会社や周りの人には迷惑はかけたくないですけれども。 ——ニューウェイヴ政党では、参政党が大躍進しています。 私は、参政党という存在は極めてイマジナリーな次元でのファシズムだと考えています。 ここでいうファシズムとは格差の拡大、足元では物価高や社会保障費の問題が叫ばれてもいますが、このような下部構造において社会が限界を迎えたときに各階層において噴出する政治的リビドーを共産主義ではない形でうまく回収できる装置のことです。 参政党は、左右を問わずさまざまな社会階層に存在している反グローバリゼーションという政治的リビドーをあくまでイマジナリーな次元ではありますが、うまく糾合しえた存在なのではないでしょうか。だからこそ、都議選ではリベラルが強いと言われる世田谷区で参政党の望月まさのり氏が当選したわけです。 一方で、現在の左派には、それに対抗する装置を作る力や知性はないと感じています。立花さんを表紙にしただけで、脊髄反射的に批判する人が大勢でてきてしまうようなありさまですから。 参院選以降は、参政党が与党入りする可能性もあると感じています。個人的には参政党が与党入りをしたあとで、何が崩れるのか、どのような形で社会が変化するのか、つまりポスト参政党について考えなければいけない時期に来ていると感じています。 インタビュー:7月14日・都内某所 【こちらも読む】『《参政党の聖地》熊本に潜入してわかった…「いったい誰が参政党を支持しているのか」に対する明確な答え』 【こちらも読む】《参政党の聖地》熊本に潜入してわかった…「いったい誰が参政党を支持しているのか」に対する明確な答え