11月8日、お笑いコンビ・ダウンタウンの松本人志(61)が、振り上げた拳を突然降ろした。複数の女性に性的行為を強要したという週刊文春の報道で名誉を毀損されたとして、5億5000万円の損害賠償などを求めた訴訟を取り下げたのだ。芸能活動再開のための取り下げと報じられているが、果たしてそんなに簡単にいくものだろうか。 *** 【写真をみる】実名顔出し…松本人志からの被害を告発した元女性タレント、実際の姿 訴えの取り下げは松本の代理人名義で公表された。その中で発表された松本本人のコメントは以下の通りだ。 《これまで、松本人志は裁判を進めるなかで、関係者と協議等を続けてまいりましたが、松本が訴えている内容等に関し、強制性の有無を直接に示す物的証拠はないこと等を含めて確認いたしました。そのうえで、裁判を進めることで、これ以上、多くの方々にご負担・ご迷惑をお掛けすることは避けたいと考え、訴えを取り下げることといたしました。/松本において、かつて女性らが参加する会合に出席しておりました。参加された女性の中で不快な思いをされたり、心を痛められた方々がいらっしゃったのであれば、率直にお詫び申し上げます。/尚、相手方との間において、金銭の授受は一切ありませんし、それ以外の方々との間においても同様です。/この間の一連の出来事により、長年支えていただいたファンの皆様、関係者の皆様、多くの後輩芸人の皆さんに多大なご迷惑、ご心配をおかけしたことをお詫びいたします。/どうか今後とも応援して下さいますよう、よろしくお願いいたします。》 本人のコメントでありながら《松本において》など不自然な表現も見られるが、《率直にお詫び申し上げます》と謝罪の文言は一応ある。民放プロデューサーは言う。 松本人志 「文春側の発表では《心を痛められた方々に対するお詫びを公表したいとの連絡》があったので取り下げに合意したとありました。しかし、不快な思いをした人が“いたなら”謝るということでは、謝罪にはなっていません。また、事実無根と言っていたわりには会合に出席したことは認めています。松本さんのこれまでの発言を考えると腑に落ちません」 簡単に経緯を振り返ってみよう。 復帰はテレビで 昨年12月27日発売の週刊文春が松本の性加害疑惑について報じると、彼が所属する吉本興業は即日、《当該事実は一切なく、本件記事は本件タレントの社会的評価を著しく低下させ、その名誉を毀損する》《今後、法的措置を検討していく》と反論した。 翌28日、松本は自身のXに《いつ辞めても良いと思ってたんやけど…/やる気が出てきたなぁ〜。》とポスト。 年が明けて1月8日、吉本興業は松本の芸能活動休止を発表し、松本はXに《事実無根なので闘いまーす。》と訴訟を宣言。 1月22日、松本は個人で週刊文集の発行元である文藝春秋などを提訴した。裁判は短くても2〜3年はかかるとみられたが、法廷で争うこともなく1年も経たずに終結したわけだ。 「これで終結と考える人は少ないのではないでしょうか。各スポーツ紙は、訴訟の取り下げは松本さんが年明けには芸能活動を再開させたいと望んだためと報じていますが、まだ禊は済んでいないと思う人も多いはずです」 業界の反応はどうなのだろう。 「出演休止中のレギュラー番組のスタッフは、復帰に向けて動き出しているとも聞きます」 一説には12月に放送予定の「M-1グランプリ」(テレビ朝日)で復帰という声もある。 「復帰戦でいきなり漫才の審査というのは、1年近く休んでいたのでキツいと思います。やはり復帰は年明けとみるのが現実的でしょう」 なんばグランド花月の舞台で復帰とも。 「現実的であり、やりやすいこともあるでしょう。ただ、松本さんが望んでいるのはあくまでも地上波テレビでの完全復帰だと思います。YouTubeや配信番組でもないはずです」 どの番組なら復帰できるだろうか。 会見で禊 「可能性があるのは『ガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ)か『水曜日のダウンタウン』(TBS)ではないでしょうか。どちらも松本さんの復帰を“ネタ”にすることが可能な番組ですし、『ガキ使』は今もエンドクレジットのトップに《企画構成・松本人志》と表記しています。『水ダウ』は過去の松本さんの映像を積極的に使い、番組公式サイトのトップ画像を松本さん本人の顔写真に戻したりしています。どちらも松本さんの復帰を待ち望んでいる番組です」 そうはいっても、番組のスポンサーは復帰を許すだろうか。 「非常に厳しいというのが正直なところです。スポンサーの意向が障害になるレギュラー番組は多いでしょう。そのスポンサー対策として、松本さんに“記者会見”を望む声は少なくありません。というのも、記者会見が禊になる可能性が高いからです」 今のところ会見の予定はないという。 「訴訟の取り下げにあたり、文春との間で『今後この件については公の場で言及しない』などの約束を交わしている可能性があります。そうなると会見は難しいでしょう。一方、業界では、会見を開いて謝罪や反省、真意などを語ることで、スポンサーや世間への説明責任を果たしたと理解され、復帰の目途がつくと考えられています」 会見で「不快な思いをされた方がいるとしたら……」と発言したら、スポンサーはもちろん世間も納得はしないだろう。 「反感を買って、かえって復帰に支障を来す可能性もあります。松本さんの場合は会見が開きにくいというのが本音です。かつてのビートたけしさんのように、記者会見ができればいいとは思いますが……」 たけしの会見 1986年12月9日、ビートたけしはじめたけし軍団のメンバーら12人が講談社の写真週刊誌FRIDAY編集部を襲撃した事件だ。この前日、FRIDAYの記者が、たけしが交際していた女性の手を掴んで引っ張るなど怪我を負わせたことがきっかけだった。たけしらはその場で逮捕されたが、逃亡の恐れがないことから釈放された。事件から2週間後に行われた会見の一部を紹介しよう。 たけし:今度の不祥事というのは、片っ方で言論の自由とか報道の自由とかいうことで写真雑誌が俺の周りをうろついていたんですけども、僕としてもプライベートを守る自由というのがあるわけで、それに対して具体的に行動に出たんですけど、その行動した過程において暴力を使ったり、たけし軍団ていうのを一緒に連れて行ったことに対しては非常に反省しております。しかし、自分の大切なものを守るということは誰にでも権利があるということで、過剰防衛と言われればそれまでですけども、暴力以外に対抗する手段はないのかと言われたら、まあ、お聞かせ願いたいと。でも、やっぱり法的には暴力を使ったことが悪いことは私だってわかっていますから、ファンの方や関係者の皆さまにご迷惑お掛けしたことを反省しております。 記者:茶の間のアイドルとして社会に与える影響も大きいが、今どんな気持ちか。 悪いと思ってない たけし:茶の間のアイドルというのは俺以外にも一杯いるわけで、俺一人テレビを切り盛りしているわけじゃない。(明石家)さんまでもタモリでも萩本(欽一)さんでもお笑いに関してはいっぱいいる。茶の間に与えた影響ということだったら、親子の関係ということで親は子を守るし、俺の場合は愛人もいたからね、それも守っただけで、その行為に関しては絶対悪いと思っていない。ただ、暴力行為だとか集団でもみ合ったということが悪いとしたら、それは親が子供に言うべきであって、「あれはたけしが悪いんだ」と言えばいいこと。それが子供に悪影響を及ぼしてどうのこうの言うのは全然次元が違うと思う。 記者:袋叩きにする声と擁護論があるが、どう思うか。 たけし:袋叩きになるのはしょうがないと思ったけどね。擁護論というのは他人がやることでね、俺の味方がいっぱいいるからやったわけじゃない。いいですか? やったのは俺本人の問題で俺自身の問題ですからね。みんなの代表でやったわけじゃないですから。俺のプライバシーを守るために個人でやっただけだからね。いろんなタレントがやられている時に代表してやったわけじゃない。俺は大塩平八郎じゃないんだから。 翌年6月10日、東京地裁はたけしに傷害罪で懲役6カ月(執行猶予2年)の判決を下した。ちなみに、襲撃事件に加わったたけし軍団のメンバーは起訴猶予処分となった。果たして松本の場合、ここまで正当性を主張することができるのだろうか。 引退の可能性も 前出の民放プロデューサーは言う。 「たけしさんは謝罪すべきところは認めた上で、大切な女性を守るために写真週刊誌と戦ったと堂々と主張しました。その思いがある程度は世間に受け入れられ、多くの同情的な声が挙がったのは事実です」 松本の場合、たけしのように正当性を主張することができるのだろうか。 「事件の質が違いますからね。松本さんの場合、性加害の案件であるため、笑いというエンタメ化もできません。まずは“アテンド芸人”とされた芸人たちを護り、一方的な悪とならないように自身を正当化する答弁が必要になります。その言葉のチョイス、センスが試されることになるでしょう。何を言っても松本さんに非があるなかで、被害者を敵にすることなく世間を味方につけることができるかが問われるでしょう」 相方の浜田雅功は会見に同席すべきだろうか。 「それだけは絶対に駄目です。ネタにすべきではありませんから」 会見が不評でテレビ復帰が叶わない時はどうするのか。 「引退するかもしれません。なんばグランド花月の舞台でダウンタウンでの漫才を最後に引退というケースも考えられます。“最後は花月”と2人が決めていることは、浜田さんも言っていましたから」 デイリー新潮編集部