DeNAの26年ぶりとなる日本一で幕を閉じた今年のプロ野球。この時期大きな話題となるのが来シーズンの選手契約を結ばない、いわゆる“戦力外通告”を受けた選手たちだが、近年ある変化が起こっている。わずかな在籍年数でも自由契約となる選手が増えているのだ。【西尾典文/野球ライター】 *** 【写真を見る】今季ソフトバンクのドラ1は「山本由伸2世」との呼び声があるが、果たして ドラ1選手がもう戦力外に 特に、このオフ大きな衝撃だったのが風間球打(ソフトバンク)ではないだろうか。明桜時代は150キロを超えるストレートを武器に夏の甲子園でも活躍し、2021年のドラフト1位で入団。将来のエースとしての期待が高かったものの、わずか3年の在籍で自由契約を通告されたのだ。球団は育成選手としての再契約を打診しているとのことだが、多くの育成選手を抱えているチームの中で再び支配下登録を勝ち取るのは簡単なことではないだろう。 2021年ドラフトでソフトバンクから1位指名を受けた風間球打投手 また、風間と同学年で高い注目を集めてプロ入りした森木大智(高知→2021年阪神1位)も正式発表(11月12日時点)はされていないものの、来シーズンからは育成契約となる見込みと報道されている。この2人がわずか3年で育成選手になると予想していたファンは少なかっただろう。 他にもこのオフに3年以内の在籍で自由契約となった選手を並べてみると以下のような名前が挙がる(入団時に支配下ドラフトで指名された選手のみ。来季の育成再契約を打診されている選手も含む)。 3年以内の在籍で自由契約となった選手一覧 〈3年〉 山田龍聖(JR東日本→2021年巨人2位) 石田隼都(東海大相模→2021年巨人4位) 三浦銀二(法政大→2021年DeNA4位) 秋山正雲(二松学舎大付→2021年ロッテ4位) 吉川雄大(JFE西日本→2021年楽天7位) 〈2年〉 生海(東北福祉大→2022年ソフトバンク3位) 安西叶翔(常葉大菊川→2022年日本ハム4位) 平良竜哉(NTT西日本→2022年楽天5位) 野田海人(九州国際大付→2022年西武3位) 〈1年〉 西舘昂汰(専修大→2023年ヤクルト1位) 加藤竜馬(東邦ガス→2023年中日6位) 沢柳亮太郎(ロキテクノ富山→2023年ソフトバンク5位) 河内康介(聖カタリナ→2023年オリックス2位) 宮沢太成(四国IL徳島→2023年西武5位) 1年、2年で自由契約を通告された選手の多くは怪我で長期離脱を余儀なくされたというケースであり、支配下登録の枠を空ける狙いがあると見られる。またフリー・エージェント(FA)となった選手を獲得した際に発生する人的補償の対象は支配下の選手だけであり、若手選手をその対象から外したいという思惑もあるようだ。 しかしそういった怪我や編成上の理由だけでなく、純粋にわずかな期間で戦力外と見られる選手も増えていることは確かだ。その背景についてある球団の編成担当者は次のように話す。 選手はよりシビアに判断される時代に 「以前よりも選手の能力を球団側がしっかり把握するようになったことが大きいと思いますね。定期的に筋力や瞬発力などの計測を行うようになっていますし、投手ならボールのスピードや質、野手なら打球速度なども測定して管理しています。練習はもちろん試合のデータもそうですね。球団によってはある一定の水準に達していないと実戦で起用しないこともありますし、一軍昇格などの目安としていることも多い。そうなると、入団から1年、2年経ってもなかなか改善が見られない選手はどうしても整理対象となりやすいですよね。そういう面で選手はシビアに判断される時代になってきているのかなと思います」 ドラフトで選手を指名する際にも、以前と比べて、あらゆるデータを参考にするようになっているという話を聞くが、プロに入ってからもさらに厳しく判断される環境となっていることは間違いないようだ。 しかしその一方でこのように早く見切られる選手が出てくると、大変なのは選手を指名するスカウト活動の現場だという。ある球団のスカウトはこう話す。 「指名する前はどんな順位であっても将来性を評価しているという話を、選手だけでなく指導者や保護者にもします。もちろん厳しい世界だということは伝えますが、1年目からいきなり一軍で活躍できる選手はほとんどいませんから、数年後に勝負という話をしますよね。ただ、ふたを開けてみればわずか2〜3年で切られる。育成選手として残ったとしても、支配下に戻れるのは簡単ではありません。そういう選手が多くなると、どうしてもアマチュアの指導者や保護者からは敬遠されるケースも出てきますよね。もちろんプロは結果が全ての世界ですから仕方ない部分もありますけど、プロ入り前だけ甘い言葉を並べて、クビにする時は『はい、さようなら』と思われないようにというのは気をつけています。そういう意味では、今後はより、プロでどのような成長を期待しているとか、どこを伸ばさなければならないかとか、そういう話をしっかりスカウト部で詰める必要があるのかもしれませんね」 戦力外の後、大学でプレーすることは許されていない アマチュアの指導者からも同様の話を聞くことは多く、プロとアマチュアの関係性の悪化にも繋がりかねない話と言えるだろう。 そうなってくると重要になるのは“選手の受け皿”ではないだろうか。NPBを退団した選手が国内で現役を続行する場合、独立リーグをはじめ、今年新規参入したファーム球団や社会人野球が挙げられる。 ただ、日本学生野球協会が管轄している大学の硬式野球部でプレーすることは不可能となっているのだ。高校を卒業してNPB入りしてすぐに戦力外となった選手が、大学で学び直しながら野球をすることができない……これは大きな損失である。大学側としても高いレベルの野球を経験した選手が加入することで得られるプラスも大きく、このあたりの制度の見直しは議論されるべきだろう。 選手の才能が花開く時期は人それぞれ異なっており、簡単に線を引けるものではないことも確かである。一人でも多くの選手が持っている潜在能力を出し切り、納得いく形で現役生活を終えられるような仕組みが作られていくことを望みたい。 西尾典文(にしお・のりふみ) 野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。 デイリー新潮編集部