横浜、新宿、東京…ターミナル駅の発車メロディがまさかの「サイレント変更」 「音鉄」からは懸念の声

10月から差し替え  JR東日本の各駅で定着している「発車メロディ」。同社の特徴の一つで利用者に親しまれているが、この10月からターミナル駅でその楽曲が次々と差し替えられている。特に告知もなく進んでいた取り組みだが、これから大きな変化が訪れるのではないかと鉄道ファンはひそかに注目している。【大宮高史/ライター】  *** 【写真】超貴重な一品…JR水沢江刺(みずさわえさし)駅に展示された大瀧詠一さんの直筆サイン  SNSを中心に鉄道ファンをざわつかせた事の発端は、JR東日本の横浜駅。10月9日に全ホームのメロディが新しい曲に差し替わった。さらに10月24日に新宿駅、31日に東京駅でも全てのホームと番線でメロディを変更。ターミナル駅での相次ぐメロディ変更は予告なく行われたもので、1日で全く違う曲に変わったインパクトは大きい。 新宿駅  JR東日本は複数のメディアの取材に対し、変更の理由を「駅の放送設備の更新などに伴い不定期に変更を行っている」と説明している。  理由はどうであれ、横浜、新宿、東京とターミナル駅の使用曲が次々と変わっていることから、他の駅にも波及していく可能性が高い。実際に11月には横須賀線と湘南新宿ラインが停車する新川崎駅のメロディが、横浜と新宿で採用の曲と同じものに切り替わった。とはいえ、下手に公表でもすれば既存の曲を記録しておこうと「音鉄」が押しかける可能性もあり、駅の業務にも支障が生じかねない。  新しいメロディは、路線別であることが特徴だ。山手線と中央線快速は新宿と東京のホームで同じ曲を使い、横浜と東京でも京浜東北線と東海道線(上野東京ライン)は同じ曲を使っている。これまではJR東日本の汎用的な発車メロディは、路線を問わずに使われてきた。今回の更新で路線ごとにメロディを決めるとなれば同社の駅メロ施策上、大胆な変更になる。  JR東日本では1988年に、まず仙台駅への導入の後に首都圏で新宿駅と渋谷駅で発車メロディを導入。この時の曲は今年10月に変更されたものとも異なり、YAMAHAが制作し 当時同社社員の井出祐昭氏がプロデュースに携わった。違うホームで同時にメロディが鳴っても不協和音とならないこと、乗客を焦らせずやすらぎを与えられる音などの条件が課されていた。  国鉄民営化後のJRのイメージアップ策とも重なった発車メロディは、1990年代を通じて首都圏の各駅に普及する。井出氏はその後も商業施設などの空間音楽をプロデュースし、現在は「井出 音 研究所」を設立して活動している。  この過程で、駅ゆかりの音楽を使う「ご当地メロディ」も定着していった。「蒲田行進曲」(蒲田駅)、「阿波踊り」(阿波踊りが名物の高円寺駅)、「海 その愛」(加山雄三の出身地の茅ヶ崎駅)などである。他社でも電車の発車あるいは接近時にメロディが流れる光景は珍しくなくなり、先駆者的存在だったJR東日本の功績は大きい。CD化されたり、グッズで収録されたりした曲もある。 駅メロの「多様性」  それがなぜ、今回のメロディ変更で物議を醸したか。駅メロの「多様性」が失われてしまうことを、ファンは心配しているようだ。ご当地メロディを除外しても、数駅でしか採用例がない曲を含めて3桁にのぼる現在の曲たちが、全廃といかないまでも主要路線で聴けなくなるのではと懸念している。  鉄道ファンの世界は引退列車や廃止路線など、「失われるもの」への愛着が強いゆえ、余計な憶測や心配を生んでもいる。  また、今後2030年代にかけて都心の過密線区でも推進されるワンマン化とも無関係ではない。ワンマン化された路線ではメロディは統一する方針が続いていて、ご当地メロディを使用していた駅でも容赦なく曲が変わった。  前出の茅ヶ崎駅相模線ホームでの「海 その愛」や八王子駅八高線ホームの「夕焼け小焼け」もワンマン化で聴けなくなっている(やや紛らわしいが、近年ワンマン化された線区では、今回新宿や東京などで差し替えられた汎用メロディを使っている。また識別のためか、方向別で曲も分けている)。  合理化には当然メリットもあり、路線でメロディが統一されればターミナル駅でも判別は容易だ。新メロディの感想も賛否が分かれているが、結局は聴く人の主観となる。  ただ現状では、同じ路線の上下線で同一のメロディを用いているため、単独駅ではどちらの方面に電車が来ているかわかりにくい。山手線を例にとれば京浜東北線との並走区間なら問題はないが、島式ホームの単独駅で新メロディを導入となると混乱が生じるかもしれない。  新宿駅などで差し替えられた楽曲は、20年近く使われて乗客に親しまれていた。ご当地メロディも地域のシンボルになっている。果たして多彩な駅メロ文化がどうなるか、当分は静かに注視するしかなさそうだ。 デイリー新潮編集部

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