「私が私であること」を貫くゆりやん 「共感」よりも「尊敬」を呼び起こす圧倒的な“強み”とは

デビュー曲が配信リリース  芸人のゆりやんレトリィバァが「YURIYAN RETRIEVER」名義でユニバーサルミュージックからメジャーデビューすることを発表。7月16日にデビュー曲「YURIYAN TIME」が配信リリースされた。芸人として活動を続けながらも、彼女には「ゆりやんレトリィバァというジャンルになりたい」という思いがある。音楽活動を始めるのもその一環なのだろう。  *** 【写真】「カッコ可愛い」「マジでシブイ」の声…ゆりやんの貴重な着物ショット  ゆりやんレトリィバァがソロアーティストとして活動を始めるというと、意外に感じる人もいるかもしれない。しかし、彼女のこれまでのキャリアを振り返れば、今回の音楽活動への本格的な進出は決して突飛な選択ではなく、表現者としての彼女がたどり着いた必然の結果であるように思える。 ゆりやんレトリィバァ  彼女は常に「我が道を行く」という精神を貫いてきた。芸人養成所の「NSC」に入学した当初から、他人の目を気にせず、自分の面白さを信じてオリジナリティのあるネタを作り続けてきた。英語と関西弁が混ざった独自の言語で受賞スピーチをするネタをしたこともあったし、アメリカのオーディション番組「America's Got Talent(アメリカズ・ゴット・タレント)」に出演したこともあった。そして、2024年12月には活動の拠点をアメリカに移した。英語も堪能な彼女はキャリアの早い時期から海外進出を見据えていた。  また、少し前にはNetflixシリーズ「極悪女王」に出演したことも話題になっていた。ゆりやんは主役のダンプ松本を演じるために体重を大幅に増やし、体を鍛え上げ、プロレスの練習に打ち込んでいた。そんな彼女の体当たりの演技も高く評価されていた。  そもそも彼女の芸の根底には常に「音楽性」があった。歌やモノマネを取り入れた演出など、音に敏感な人間ならではの発想が随所に感じられた。歌やラップも得意としており、もともと笑いと音楽を融合させるような感覚が備わっていた。今回のメジャーデビューも、お笑いから音楽への転身ではなく、活動の舞台を音楽というフィールドに拡張しただけだ。 「こうしたい」「これが好き」  注目すべきは、ゆりやんレトリィバァの「我が道」の歩み方である。彼女は常に、売れるための戦略的計算ではなく、「こうしたい」「これが好き」という内的衝動に従ってネタ作りをはじめとしたあらゆる活動を行っているように見える。そこが彼女の最も非凡なところだ。「女芸人No.1決定戦 THE W」と「R−1グランプリ」で優勝しているのはその証しだ。彼女のまっすぐで嘘のない表現に人々は戸惑いながらも、次第にその魅力に取り込まれていく。  また、彼女にはどんな状況でも自分から積極的に笑いを取りに行く抜群の度胸がある。いざというときの瞬発力は同世代の芸人の中でも際立っている。バラエティ番組で話を振られたときに、ほかの芸人よりも一拍早くギャグを返したりしている場面をよく目にする。たとえそれが笑いにつながらなかったとしても、空回りした彼女を別の芸人が巧みにフォローして笑いに変えてくれたりする。  普段の彼女は、どちらかと言うと気が弱くておとなしい人物である。ただ、舞台上では決して引っ込み思案にはならない。むしろ、本来は気が弱いからこそ、いざというときにだけ開き直って、自分を奮い立たせて前に出ることができるのだろう。  そんな自身の弱さや女性芸人としての生きづらさを自らの武器に変えてきたのも彼女の魅力である。見た目についてあれこれ言われたりすることが多い中で、それを真正面から受け止めて、笑いに昇華してきた。自己肯定感を失わずに突き進んできたその姿勢は、現代を生きる多くの人々にとって強いメッセージとなっている。  音楽活動においても、彼女はこの調子で自分だけの世界を築いていくだろう。どんなジャンルであれ、彼女の表現には「私が私であること」の強さがある。それは、人々の間に「共感」よりも「尊敬」を呼び起こす。今後、アーティストとしてのゆりやんレトリィバァがどのような活動を展開していくのか、今から興味が尽きない。 ラリー遠田 1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。 デイリー新潮編集部

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