【体にホチキスを刺し、金のありかを吐かせる…】ルフィ事件・小島智信被告の裁判で明かされた「カネを持ち逃げした構成員」への恐怖の拷問

「ルフィ」などを名乗る指示役による広域強盗事件において、指示役に実行役を紹介したとして強盗致傷幇助などの罪で起訴されていた小島智信被告(47)の裁判員裁判が7月1日から東京地裁(板津正道裁判長)で開かれている。15日には検察官が小島被告に懲役23年を求刑した。判決は7月23日に言い渡される。 【写真】後ろ手に縛られて…今村磨人、藤田聖也両被告。そして注目された「女性かけ子」寺島春奈被告も  SNSでの「闇バイト」を募集する投稿によって集められた実行役らが指示役とつながり、日本各地で強盗を実行する「広域強盗」。このうち2022年から頻発し、日本を恐怖に陥れていたのが「ルフィ」を名乗る指示役らによる強盗だった。指示役を含む幹部4人はフィリピンのビクータン収容所でスマホを用い、秘匿性の高いアプリを介し、日本の実行役に強盗を実行させ、得た金をフィリピンに送金させていた。小島被告はフィリピンにいた4人のひとりだ。  この4人はもともと、フィリピンを拠点とする特殊詐欺グループのリーダーやそのメンバーだった。小島被告の裁判員裁判では、彼らがフィリピンでどのように特殊詐欺組織を拡大させてゆき、ビクータン収容所に流れ着いたか明らかになった。【文中一部敬称略、前後編の前編】  * * *  小島被告は、フィリピンの特殊詐欺グループにおける2019年4月から同年11月13日までの特殊詐欺10件と、フィリピンのビクータン収容所の指示役による2022年の広域強盗3件で起訴されていた。公訴事実に争いはなく裁判の争点は量刑だった。  2023年の逮捕時、オレンジのTシャツを着た4人の姿がテレビで幾度も報じられたことをご記憶の方も多いだろう。当時は、若干ふっくらした風貌だったが、法廷に現われた小島被告は別人のように痩せていた。霜降りグレーのスウェットに裾をインしているのは、オレンジのTシャツではなく真っ白な長袖ワイシャツ。小島被告が手元を動かすたび、その袖からは、手首近くまで黒々と彫られた刺青がチラチラと見える。 廃ホテルを一棟買い上げた  起訴されている特殊詐欺事件は2019年のものであるが、詐欺組織自体はそれ以前からあった。立ち上げたのは、4人のうち「ボス」と呼ばれていた渡辺優樹被告(41)である。  4人は一枚岩というわけではない。時期によっても関係性が変わる。少なくとも特殊詐欺で彼らが莫大な金を得ていた時代、リーダーはまぎれもなく渡辺被告だった。そして小島被告は「渡辺信者」と自ら法廷で語ったとおり、渡辺グループの一員だった。  まず渡辺被告は2017年、タイに特殊詐欺の拠点を構築。そして翌2018年、拠点をフィリピンに移した。同年夏、小島被告がフィリピンに渡り、渡辺の組織に参加。小島被告は仮想通貨の投資に失敗し、数百万円の借金を作ってしまっていたのだ。組織では、かけ子やリクルーターを経て、金の回収やメンバーらの報酬管理、スマホや航空券の手配などを担当していたという。  小島被告が組織に参加した年の冬、のちに「ルフィ」と名乗り広域強盗の指示役となる今村磨人被告(41)が渡辺の特殊詐欺グループにやってきた。組織に入るためではなく“特殊詐欺のノウハウを学ぶため”だった。その後、今村被告は独自にタイで特殊詐欺の拠点を築いていたが、2019年には渡辺のグループに間借りする形で移転してきた。今村被告は独自で組織を構築しており、渡辺被告の配下ではなくビジネスパートナー的な関係にあった。  渡辺被告をトップとする特殊詐欺グループには、いくつかのチームが存在した。これを「箱」といい、そのリーダーは「箱長(ハコチョウ)」という。今村被告のグループは、名前の“磨人(きよと)”から「K箱」と呼ばれていた。起訴されている10件の特殊詐欺事件のうち3件は「K箱」によるものである。  のちの広域強盗で指示役「キム」を名乗ることになる藤田聖也被告(41)が渡辺の組織に参加したのは2019年9月。その前月、渡辺被告は、廃ホテルを一棟買い上げ、組織拠点を移した。藤田被告はリクルーターとして詐欺に関与し、小島被告はかけ子らへの報酬管理や金の回収などを担当。かつてテレビ番組で観たという「詐欺撲滅のイマイ」から「今井」を名乗っていたという。 報酬は月約10万円が110万円に上昇  小島被告は特殊詐欺についての被告人質問において、組織の内情を詳細に説明した。組織を「会社」、組織の人間を「従業員」、分配された被害金額を「給与」と称し、身振りを交え説明する様子からは、日本で多数の被害者を生んだ詐欺行為を、当時は完全に“正規の仕事”だと錯覚していたかのようにも見える。 「僕以外の従業員は全員揃ってました」(被告人質問での小島被告の証言。以下同) 「会社では回収役の手元に現金が渡れば案件成功なんです」 「給与は各箱5パーセント、箱長はボーナスで2パーセントプラスなどもありましたが、各々下の給与は箱長が管理していました」 「かけ子の給与はエクセルのマクロを組んで僕が管理していました。最初にエクセルを作ったのは別の人間でしたが、どう見ても完璧じゃなく、僕がマクロを組み直しました」  フィリピンの拠点に集められた構成員らは、朝礼を経て、朝8時から17時まで“仕事”をこなす。かけ子は、ネット上にある電話帳サイトを印刷したものを渡され、支給されたスマホを用いて電話をかけていった。当初、かけ子として組織に参加した小島被告。しかし「かけてはみるんですがうまく話せず、騙しきれない。毎週のように怒られていた」ことから、渡辺被告の雑用係に。  のちリクルート業務を経て、構成員らの報酬管理、運搬なども担うようになった。2019年になると、小島被告がフィリピンに渡る原因となった借金を渡辺被告が代わりに返済してくれたことから、小島被告の渡辺被告への忠誠心はさらに高まる。組織加入時、小島被告の報酬は月約10万円だったが、のちに月約25万円、110万円と上昇していった。  組織のトップ、渡辺被告について「プロギャンブラーだと思ってました。カジノにずっと住んでて信じられないくらい高級な部屋に滞在していました」と小島被告は振り返る。その渡辺被告が現金とローンの合計約12億円で購入した廃ホテルにグループの拠点を移したのが2019年秋頃。  小島被告は渡辺被告に指示され「廃墟に近いホテルだったのでリノベーションの提案をしたり、部屋に置くものを決めたり、ベッドの準備や鍵の交換、備品購入なども行ないました」と、購入したホテルを実際に拠点として使用するための実作業を担った。この拠点で、約60人のかけ子たちは客室に寝泊まりしながら、オフィス風に改装した部屋に“出勤”し、詐欺を続けた。食堂もあり、昼食代は一部、組織が負担していたという。 設立準備を進めていた「うさぎ日本語学校」  渡辺被告は当時、多数の日本人が出入りする拠点が不自然に見えないようにという目的からか、日本語学校を設立する準備をしていたことも明かされた。その学校の名は「うさぎ日本語学校」。すでに看板は出していたという。名称に込められた理由を“信者”の小島被告はこう説明した。 「渡辺の中で『うさぎ』は“詐欺”をモチーフにした言葉で、本人も気に入っていました」  この頃には、渡辺被告の知人だったという藤田被告もフィリピンに渡り、リクルーター業務を担っていた。その藤田被告は、構成員による被害金の持ち逃げを防ぐという目的から、独自に「接触部隊」を立ち上げる。リクルーターの報酬は、勧誘したメンバーが“案件”に成功した場合に得られる。しかし日本で被害者から奪った現金を受け子が持ち逃げした場合、その分の金額をリクルーターが補償しなければならないというルールがあった。小島被告によれば、その部隊は、持ち逃げを暴力や恐怖で防止する危険な集団だったようだ。 「部隊のメンバーは日本にいます。まず藤田が(スマホを介して)面接して個人情報を聞き、相手をカフェに呼び出した上で接触部隊と相対して面接させます。その際にスマホの中身も確認し、持ち逃げしないか、他の業者と関わっているかを確認する。持ち逃げすると、その人間を完全に捕まえるところまで実行し、監禁した上で暴力を加え、それを動画で撮影します。僕も動画を見ましたが、ホテルの部屋で体にホチキスを刺し、金のありかや指示役を吐かせる様子が映っていました。こうした動画を次の面接時に応募者に見せる。もし飛んだらこうなるという強迫観念を与えていました」  藤田被告の立ち上げた接触部隊の行動により、持ち逃げは激減。渡辺被告のグループは日本での特殊詐欺に邁進していた。2019年後半には小島被告はタワマンに住み、月の報酬は約600万円に及ぶこともあったという。グループの“収益”も月2億を超え、渡辺被告が費用を負担し、グループでセブ島への“社員旅行”に出向くなど、栄華を極めていた。  しかし2019年11月13日。フィリピン当局が廃ホテルの拠点にいたかけ子ら36人を拘束したことで、こうした日々に終止符が打たれることとなる。 【後編へ続く】 ◆取材・文/高橋ユキ(ノンフィクションライター)

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