“埼玉の中堅校”であったはずの開智学園の志願者が急増するなど、波乱に満ちた昨年度の中学入試。次に難易度が上がる学校はどこなのか、逆に狙い目となる学校はどこなのか。この夏に志望校や併願校を定めていく上でおさえておきたいトレンドについて、全国5000にも及ぶ塾の関係者を取材してきた教育ジャーナリストが、その実態を明かす。(西田浩史/追手門学院大学客員教授、学習塾業界誌『ルートマップマガジン』編集長) *** 今年度の中学入試においても、昨年度に続き“難関校離れ”と“中堅校の躍進”という傾向が続きそうだ。全体の受験者数が過去最高水準で高止まりする中、昨年度入試ではトップ校の志願者数が減り、中堅校の倍率上昇が目立った。その傾向は今年度も引き継がれると見られ、グローバルをウリにする共学校や、26年から明治大学の系列校になる日本学園(明治大学附属世田谷)などは業界内でも注目度が高まっている。 “勝負の夏”がやってきた 大学入試の“一般選抜以外”を見据えて こうした中で見逃せないのが、大学入試を見据えて、中学受験の志望校選びにも変化が表れているという点だ。将来の大学入試で一般選抜だけを狙うか、それとも総合型・学校推薦型(以下、年内入試)と一般の両方を狙うかで、中学受験の在り方も二極化している。 大学入試では、年内入試の定員が増加しているのに伴い、一般選抜の定員は減少傾向にある。その代表格が早稲田大学で、現時点でも一般選抜による入学者は6割にまで減っているが、向こう10年以内に、年内入試をはじめとした“一般以外の選抜”による入学者の方が多くなる見込みだ。 国立大学も同様で、年内入試の定員が増え、一般選抜の定員は減少しつつある。たとえば東北大学は現在、約30%の入学者を年内入試から確保しているという。とりわけ、人口減少が著しい地方国公立大学では動きが顕著だ。 このような大学入試の変化に連動して、一般選抜以外のチャンスが広がる中学校を選ぶ家庭が増えているというわけだ。筆者が70塾(142人)の関係者を調査したところ、中学受験に臨む家庭の65%が、大学受験での「年内入試+一般選抜の併用型」を見据えた学校選びをしている実態があることがわかった。 従来であれば男女ともに御三家クラスを目指していたであろうトップ層でも、一般選抜と年内入試の両方に強い渋谷教育学園幕張、渋谷教育学園渋谷、広尾学園、洗足学園、吉祥女子、鴎友学園女子などを手広く併願する生徒が増えているという。中堅クラスの志望者にいたっては、偏差値よりも「大学の年内入試の対策をきちんと指導してくれる環境があるか」を重視して学校を選ぶ場合も増えているようだ。 期待値だけで難関校入りしそうな新設校・開智所沢 その意味での今年度の注目株はなんといっても、開校まもない開智所沢中等教育学校(開智学園グループ)だろう。 開智学園といえば、開智中学校、開智所沢中等教育が2校あわせて約3万人もの志願者を集め、昨年度に志願者数が日本一となったことが大きな話題となった。とりわけ開智所沢は “埼玉の中堅校”という位置づけだったはずが、トップ校受験者層の不合格が相次いだことで、塾関係者の間では「開智ショック」という言葉まで飛び交う事態となったのだ。 同グループの志願者数が伸びた理由はまず、埼玉県内では珍しく探究教育に力を入れ、年内入試にも今後強くなるという期待値が高まったこと。さらに、埼玉の難関校である本家の開智中学校・高校の大学入試の実績が好調なのも大きかった。両校ともに、今年度入試では一気に首都圏全体における難関校入りを果たすとみる塾関係者も多い。100年以上の歴史ある“本家”はともかく、2024年に開校したばかりの開智所沢がさらなる旋風を起こすかどうか、大いに注目されている。 〈有料版の記事【「大学の“推薦・総合選抜”を見据えるなら」「医学部への裏ルートは…」 70の塾への独自調査でわかった「狙い目中学校」の実名と正しい受験校の選び方】では、上記で紹介したトレンドを踏まえて、実際に“狙い目”といえる中学校の実名や、志望校を決める際の注意点などについて詳述している〉 西田 浩史(にしだ ひろふみ) 追手門学院大学客員教授、ルートマップマガジン社 取締役・編集長、教育ジャーナリスト。2016年ダイヤモンド社『週刊ダイヤモンド』記者、塾業界誌記者を経て、19年追手門学院大学アサーティブ研究センター客員研究員、20年から現職。全国5000にも及ぶ塾の関係者(計20,000人)を取材。著書に『中高一貫校vs地方名門 最強の高校』『大学序列』(週刊ダイヤモンド特集BOOKS ダイヤモンド社)など。 デイリー新潮編集部