観測史上最高の猛暑で注目すべき 買ってはいけない「酷暑マンション」の見分け方

 気象庁の発表によれば、今年の6月の日本国内の平均気温は、平年と比べ2.34℃も高く、統計を始めた1898年以降で「観測史上最高」だったという。東京都心でも平均24.6℃と平年比で2.5℃高く、最高気温が30℃を超える真夏日も13日と過去最高だった。恐ろしいのは、この暑さが来年以降さらにエスカレートする可能性を誰も否定できないことだ。実は東京の“灼熱化”はマンションの資産価値にも影響する恐れがあるという。都内マンションの販売価格を定点観測し続けるマンションブロガー「マン点」氏が、「買ってはいけない酷暑マンション」の特徴をレポートする。  *** 【写真を見る】グラフにするとよく分かる「東京灼熱化」の推移 ※外部配信先では一部のグラフが表示されない場合があります。全てのグラフはデイリー新潮サイト内で閲覧可能です。 「酷暑マンション」を見分ける重要なポイントとは 1995年頃から急増した「熱帯夜」  今年も東京では「夏」が猛威をふるっている。35℃超えの猛暑日、眠れぬ熱帯夜——。熱中症による死者のニュースも珍しくなくなってしまった。もはや「暑い夏」は、異常気象ではない。日常の一部となってしまった。 「暮らし」そのものが、暑さに試される時代と言ってもいいだろう。  それでは、「酷暑」という視点で考えた際に「買ってはいけない」マンションの特徴とは。見落とされがちな「暑さの盲点」を、図も交えながら読み解いていきたい。  ところで、東京で30℃を超える「真夏日」は、以前はそれほど多くなかった。東京の夏はここまで過酷になったのは、いつ頃からだっただろうか。  気象庁のデータを見ると、変化の兆しは1995年ごろに始まっていることがわかる。  この頃から「猛暑日」、「真夏日」ともに増加傾向を示すが、とりわけ顕著なのが夜間の最低気温が25℃以上である「熱帯夜」の激増だ(次図)。  では、なぜ東京で「熱帯夜」が増えているのか。  第一には、地球温暖化の影響があるだろう。そして都市特有のヒートアイランド現象も見逃せない要因だ。建物や道路に使われるコンクリートやアスファルトが日中に熱を蓄え、夜になっても熱を放ち続ける。  この「蓄熱」こそ、東京の「寝苦しい夜」の気温の要因なのだ。  対策としては、緑化の推進、保水性舗装・高反射率塗装の導入、建物・道路交通の排熱削減などが考えられるが、どれも一朝一夕で成し遂げられるものではない。 西向き・東向きの住戸は「夏は暑く冬は寒い」?  さて、マンションと気温との関係を考えた時、真っ先に思い当たるのは「日当たり」だろう。 「南向き住戸は、夏は涼しく冬は暖かい」——マンション広告でよく目にするフレーズだ。  一方で、西向きや東向きの住戸は「夏は暑く冬は寒い」と言われるが、実際はどうなのだろうか。  4方位の壁面がそれぞれ受ける日射量を計算し、1枚のグラフにまとめてみた(次図)。  注目すべきは、直射日光が消えた夕方以降も、大気中の雲やチリなどを反射する「天空放射」が残っている点だ。この天空放射により、壁面は熱を蓄え続ける。そして、特に西側のコンクリート壁は、日中に蓄えた熱を夜間にじわじわと室内へと放出し続ける。  これが「夜になっても部屋が暑い」現象の正体だ。  図を見ると、東壁面も西壁面も「壁面日射量」は同等であることが分かる。では、なぜ「西日」の差し込む部屋の方が圧倒的に暑く感じるのだろうか。  答えは「時間差」にある。午後になり気温が高くなっていることに加え、建物や地面も既に熱を十分に蓄えている。そこへ西日が追い打ちをかける。周囲の環境熱がピークに達するタイミングで、西日の日射が差し込む。その結果、体感の暑さも最大化されるのである。 「酷暑マンション」を見分ける重要なポイント  だが、すべての西向き・東向き住戸が「酷暑マンション」というわけではない。実際には、設計の良し悪しにより暑さの度合いが変わってくるからだ。  猛暑の時期、階数や窓の大きさが同じでも、他の物件よりも室内が暑くなる「酷暑マンション」を見分ける重要なポイントがある。  それは、「バルコニーの奥行き」である。  上階のバルコニーは、自分の住戸にとって「庇(ひさし)」の役割を果たす。奥行きが深ければ、日差しの侵入を防いでくれる。  たとえば東京にある西向き住戸の場合、夏至の時期にバルコニーの奥行きが2mだと、午後3時以降リビングに西日が入り始める。だが、奥行きが0mとなると、12時からリビングに直射日光が差し込む(次図)。  同様に、南向き住戸であっても、バルコニーの奥行きが不足していれば、日差しを防ぎきれない。たとえば夏至の東京で、奥行き2mのバルコニーがある場合は、西日は遮られるが、奥行き0mだと8時半から15時まで最大約0.5mの日差しが入る。  冬至の正午では、奥行き2mのバルコニーで日差しは2mであるのに対して、奥行き0mであれば4mに倍増する(次図)。 「ダイレクトビュー」を売りにするマンションには注意?  つまり、「奥行き2m」のバルコニーが付いた「南向きリビング」は、日照環境が最も優れているということだ。冬場は長時間温かな日差しを得られ、夏は強い日差しが入ってこないのである。  経済合理性の観点を加えると、ぎりぎり「延べ床面積」には算入されない、2mの奥行きがあるバルコニーを備えたマンションが最も望ましい。  逆に、バルコニーのない「ダイレクトビュー」を売りにしているマンションには注意が必要だ。たしかに眺望は魅力的だが、日射遮蔽の観点では明らかにスペックが劣っている。  雨仕舞いや防災の観点でも弱点を抱えていると言えるだろう。バルコニーには、火災時の避難経路や救助待機スペースとしての役割もある。さらに、万一ガラスが割れても、飛散物が直下の歩行者に当たるリスクを減らす「安全装置」としても機能する。  なお、バルコニーの日差しへの影響を計算するために、次図に示すモデル(バルコニーの奥行き2mの場合)を設定した。  太陽位置(高度・方位)データを元に、「三角関数」を使ってリビング床面への日差しの長さを算出した。下図は一般的なマンションの間取りを一例に、バルコニーの奥行きが2mの部屋での太陽高度を示したものだ。  買ってはいけない「酷暑マンション」を見分ける鍵は、建物の外観だけに捉われると見落としがちな「バルコニーの奥行き」にあった。「真の快適性」は、実はこうした地味なディテールにこそ宿っているのである。  東京の灼熱化が進むいま、「日照環境の優れた物件」と、夏場の過酷さを増す「酷暑マンション」とで、さらに資産価値に差が出ることも考えられる。購入を検討している方は参考にして欲しい。  ***  この記事の後編では、「酷暑マンション」を避けるうえで重要な、「もう1つの指標」について、引き続きマン点氏の解説をお届けする。新たな常識となりつつある「断熱マンション」の最新事情とは——。 【著者プロフィール】 マン点(まんてん)マンションアナリスト。一級建築士。20年以上続けている不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」の管理人 X(旧Twitter):https://x.com/1manken デイリー新潮編集部

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