中日は「過剰な地元重視」のドラフト戦略を見直すべき 球団内部からも異論が出る“異常事態”

 昨年まで3年連続最下位に沈んでいる中日。井上一樹新監督が就任した今シーズンも課題の得点力不足は解消されず、首位・阪神に大差をつけられて、優勝争いに絡むことはできていない。低迷の要因のひとつは、ドラフトで獲得した選手が期待通りに成長していないことだ。中日は、地元選手を重視したドラフト戦略が特徴的で、多くのスカウトが、愛知県を中心とした東海地方の選手を視察し、ドラフトで指名している。その背景には、他球団で大活躍した地元選手を獲り逃した“トラウマ”があるという【西尾典文/野球ライター】 【写真】中京大中京出身の中日エース・高橋宏斗選手が今季初の完封勝利を収めた瞬間 満足のいく成績だったとは言えない  中日の球団関係者は、以下のように説明する。 中日ドラゴンズの公式ホームページより 「愛知は古くから高校野球が盛んな県で、力のある選手も多く輩出しています。ただ、中日以外で活躍している選手が多いことも事実です。昔では工藤公康(元西武など)や槙原寛己(元巨人)らですが、特にインパクトが大きかったのがイチロー(元オリックスなど)ですね。ドラフト4位で指名されながら、あれだけの選手になったことで、当時の中日のスカウトは、球団内外から、かなりいろいろと言われたと聞きます。それから『地元の逸材を逃すな!』という方針が強くなり、それがいまだに続いていますね」  1990年代に地元出身で獲得した選手からは、岩瀬仁紀(1998年2位、逆指名)が球史に残るクローザーとなり、それ以降も浅尾拓也(2006年大学生・社会人ドラフト3巡目)、大島洋平(2009年5位)、近年では、岡林勇希(2019年5位)と高橋宏斗(2020年1位)とがチームに欠かせない選手となっている。地元を重視した方針は、ある程度の成果を残している。  一方で、プロ入り後、苦戦を余儀なくされた選手も少なくない。代表格は、堂上直倫(2006年高校生ドラフト1巡目)、根尾昂(2018年1位)、石川昂弥(2019年1位)といった甲子園を沸かせたスター選手たちだ。  17年間チームに在籍し、2023年シーズン限りで現役を退いた堂上は、通算1012試合に出場しており、“完全な失敗”というわけではないものの、規定打席に到達したのは、2016年のみ。通算本塁打も34本に終わっている。堂上が“超高校級スラッガー”と呼ばれて、3球団が競合した選手だったことを考えれば、満足のいく成績だったとは言えないだろう。  根尾は、ショートとして期待されながらポジションが定まらず、二転三転した結果、投手に転向している。7年目の今シーズンも一軍に定着することができていない。  石川は、4年目の2023年に13本塁打を放って開花を予感させたものの、その後は、度重なる怪我で低迷が続いた。今年も不振で二軍暮らしが続き、7月15日には左脚を痛めてチームから離脱している。 共通の問題  彼らが苦戦している原因はもちろん一つではないとはいえ、ドラフト上位で入団した地元選手に対しては、共通する難しい問題があるそうだ。  前出の球団関係者は以下のように指摘する。 「地元出身のスターを何とか作りたい——。これは、球団だけではなく地元のマスコミや関係企業にも強いですね。ドラフト1位の地元選手というだけで、活躍する前からあらゆる方面から引っ張りだこになっています。どの球団もこうした側面はありますけど、中日はそれがより強い。そうなると、どうしても野球に集中できない環境にあるのではないでしょうか。周囲の声や、地元企業などの付き合いに左右されず、マイペースで取り組むことができる選手ばかりではありません。球団も周りも、活躍する前からスターを作ろうとし過ぎているのかもしれません」  中日の親会社は、中日新聞社であり、地元の選手が活躍することで中日新聞や中日スポーツなどの部数を伸ばしたい思惑もある。彼らの“過剰な期待”が、とりわけ1位指名の選手の成長を妨げているのではないか。  中日以上に報道が多い阪神では、周囲の声に惑わされない選手のメンタリティーを重視して選手をドラフトで指名しているという。そういう意味では、中日も、ドラフト戦略として考慮するならば、“地元出身”よりも重視するべき点がある。  中日以外では、ソフトバンクは、「実力が同程度であれば、九州出身の選手を優先する」と言われている。また、日本ハムは、スカウト会議後には、北海道出身の選手が、どれだけリストアップされているかとの観点から報道されている。 本末転倒  だが、過去10年間の指名選手を振り返ると、地元出身の上位指名は、ソフトバンクが大津亮介(2022年2位)、日本ハムも伊藤大海(2020年1位)だけであるほか、下位指名も中日と比べると、地元選手はかなり少ない。  ソフトバンクは、育成ドラフトで多くの選手を獲得しており、その中には九州出身の選手も多く含まれている。だが、トータルで見ると、ソフトバンクと日本ハムは、中日に比べると地元選手を重視していない。  数少ない地元出身の選手から、伊藤のように球界を代表する投手が出てきている。これは、日本ハムのスカウティングが機能している証拠だ。  1993年にJリーグが誕生して以降、プロ野球も地元に根付いたチーム作りが盛んに言われるようになった。しかしながら、地元出身の選手にこだわって、チームが強くならない。これでは“本末転倒”だ。  中日も振り返ってみれば、選手、監督として長く球団に貢献した星野仙一を筆頭に、山本昌や立浪和義、荒木雅博、川上憲伸、福留孝介、井端弘和ら地元出身ではないスター選手が多かった。チームが浮上するためには、今一度ドラフト戦略を根本的に見直す必要があるのではないか。 西尾典文(にしお・のりふみ) 野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。 デイリー新潮編集部

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