【恐るべき高校1年生】「大谷超え」を達成した日本ハム・達孝太投手が語っていたビジョンと戦略

 北海道日本ハムファイターズの達孝太投手(21)への注目度が高まっている。 高校生の時点ですでに異彩を放っていた「達投手」の驚きのコメント  6月末、話題になったのは、大谷翔平選手を超える記録の樹立だ。29日の対西武戦で達投手はデビューから先発で無傷の6連勝を達成。これが大谷選手の5連勝を抜く日本プロ野球記録となったため「大谷超え」だと各メディアが取り上げることとなった。  今月には監督選抜で「マイナビオールスターゲーム2025」への選出も発表された。  この先、勝ち星を重ねるにつれてさらに人気、注目度が上がっていくのは必至だろう。ルックスの良さに加え、時に「ビッグマウス」と評されることもある試合後のコメントもメディアにとっては魅力的だ。 北海道日本ハムファイターズの達孝太投手(21) (写真:達孝太投手インスタグラム「tatsukota_16」より)  大谷選手と同様に、メジャー志向が強いとされる達投手のコメントは、プロ入り以前から異彩を放っていた。高校生の時点ですでに、メジャーを射程に入れたうえで、自身の戦略を理路整然と語っていたのだ。  スポーツジャーナリストの氏原英明氏の著書『甲子園は通過点です 勝利至上主義と決別した男たち』には、当時まだ高校1年生だった達投手が堂々と己のビジョンを語る様子が描かれている。  その発言を読めば、決して現在のコメントも「ビッグマウス」などと言われる類のものではないことがわかるのではないか。高校生にしてすでに日本はもちろんメジャーでの活躍を期待させるに十分な資質を感じさせる内容になっているのだ。(以下、同書から抜粋・再構成しました)  *** 高卒後メジャー直行のための戦略  メジャーリーグやプロ野球で導入されている新しいテクノロジーの代表例がラプソード社の提供している装置である。簡単に言えば、投手の投げるボールの回転数や変化量を計測するシステム。大谷翔平選手も使用を公言している。 達はただの憧れだけで夢を語っているのではなく、将来を見据えている。メジャーリーグの投手がなぜあれほどのピッチングができるのか。世界最高峰で勝つためには何が必要か。それを自分の中で理解している (写真:達孝太投手インスタグラム「tatsukota_16」より)  この装置を高校生の時点で個人購入して、スキルアップを目指したのが達孝太投手だ。2021年春のセンバツでベスト4入りした天理高校のエースである。  達の頭脳はこれまでの高校球児とは少し異なっている。まったく新しい発想の選手だ。高校1年生秋の大会では、控え投手として近畿大会を制覇。各地区の優勝校が集まる神宮大会に出場すると、準決勝の中京大中京戦で8回途中まで5安打5失点と好投。将来の有望株として注目を浴びると、試合後の会見で「高校卒業後にメジャーリーグに挑戦したい」と大胆な夢を語ったのだ。 「目指しているのは、メジャーなんで」。高校野球の地殻変動が始まった。 『甲子園は通過点です—勝利至上主義と決別した男たち—』  これには野球関係者の多くが呼応して話題となり、達はチームから発言を慎むように言われたという。その是非はさておいても、達はそれほど変わり種の選手だった。  筆者(編集部註・氏原氏)はその場に居合わせなかったから、どのようなシチュエーションで彼の夢が語られたのかは分からないが、ネットで拡散された記事には「高卒メジャー志望」の見出しがついたものがあり、彼の所属する天理高校内ではちょっとした話題になったそうだ。  2020年1月、そんな達の元を訪れた。もともとの目的は出場が決まっていたセンバツ大会への意気込みを聞くという主旨だったが、「メジャー志望」騒動があったこともあり、どうしても本人に直接、話を聞いてみたかった。  かつて菊池雄星は「メジャー志向」を口にした途端、世間からの大バッシングを浴びた。その渦中を知っていただけに、この新しい時代の有望株が何を考えているのか知りたかった。  練習の合間を使ってインタビューをすると、1年生(当時)らしい初々しさはなく、自分の言葉をしっかり口にする球児だった。メジャーの夢は現実的に捉えていたもので、想像していたよりかなり高いところを見据えている、というのが取材の印象だった。 「球速」ではなく「回転数」  達はこう語っている。 「目標とする選手はマックス・シャーザー(ナショナルズ・当時)です。あの力感から、メジャー全体では2番目の回転数のボールを投げている。自分もああいうピッチングができる投手になりたいです」 「球速」を語る高校球児は数多いるが、達が「回転数」を口にしたのには驚いた。サイエンス化が進む野球界では、打者から空振りを取るための要素として「回転数」や「回転軸」が一大テーマになっている。高校生の達の頭の中にも、すでにそれがインプットされている。  達の知識はこれだけではない。球速について尋ねると、独自の見解を披露した。 「150キロまでは出せたらなって思いますけど、それ以上はあんまり意識していないですね。スピードが出過ぎると、故障のリスクもあるって聞いたんで、150キロくらいで止めようかな、と」  球速と故障リスクとの関連については様々なところで語られているが、高校1年生にしてしっかりと知識を得ていることには感心せざるを得なかった。達は野球界の中で起きている現象をしっかりと直視した上で、夢を語っている。それは、彼が投手としてのレベルが現時点でどの程度のところにあるかとは関係なく、大事な素養だろう。  そんな球児だから、高校生にとっての夢舞台である「甲子園」についてもちょっと異なった発想を持っている。 「正直、甲子園はそこまで意識していないですね。どうでもいいって言うか。高校で甲子園に出たからといって、特別なことがあるものでもないし、最終的にメジャーリーガーになれたらなという感じなんです。甲子園に出るといろんなチームと対戦できるので、出場できるのはいいんですけど、甲子園にこだわっているわけではないんです」  もっとも、達は甲子園を軽視しているわけではない。 「甲子園という舞台は、いつもよりたくさんの人が見ているわけで、その中でいかに、自分が落ち着いていつも以上のピッチングができるか」  そういう視点で見ているのだ。 「夢」ではなく現実的な「目標」を語る姿勢  天理高校は2021年のセンバツ大会に出場。達はそこで前評判以上の活躍を見せた。  1回戦の宮崎商戦では9回10奪三振を奪う好投を見せ、161球の完投勝利を飾ってその存在感を見せつけると、2回戦の健大高崎戦では、前年の秋の関東大会を制覇し打力で勝ち上がってきたチームを9回2安打完封に抑える圧巻のピッチングを見せつけたのである。  この大会で達が見せたのは、現代的な投手が持つピッチングスタイルだった。試合後のリモートインタビューでは、記者席でも話題になるほど高いレベルの話をしたのである。達の口からは、「回転数」「シュート成分のストレート」「ドジャースのカーショウのようなイメージ」などの言葉がさらりと出てきた。  達のこの日のストレートは最速148キロを計測したが、フォーシームのストレートと、シュート成分の強いストレートとを投げ分けていた。そのため打者はストレートと思っても差し込まれる場面が目についたのだが、それは微妙な違いを加えていたからだ。  フォークも2種類あり、空振りをとるためのものと、カウントを整えるためのものを使い分ける。こちらも投げ方を工夫している。    遮二無二ボールを投げ込むのではなく、回転数のいいストレートを軸としながら、二つのフォークを効果的に使い分け、時折スライダーを織り交ぜていた。達のピッチングには、肉眼では見分けがつかないくらいの繊細な工夫が施されていた。    詳しく話を聞いていくと、達は親に頼み込んでラプソードを個人購入していた。メジャーを目指す上でも、前年からの成長を遂げる意味でも、自分に変化が必要だと考えた達は、メジャーリーガーがどのようなスタイルで自身を作り上げているかを調べ上げて、自分なりの新しい投手像を作り上げていたのだ。    達は健大高崎戦をこう振り返っている。 「フォークはどちらも握りは一緒にしているのですが、カウントを取るフォークは、イメージはカーブみたいな感じで、上に抜くように投げています。カーショウが投げているカーブみたいにイメージしています。去年の秋は、2種類のフォークのイメージを変えるというより落とす位置を変えていただけですけど、今年は少し異なります。三振を取るフォークはストレートとシュート成分を同じにして偽装しています。シュート成分を一緒にして落差を少なくすれば、打者はストレートだと感じる。ストレートのシュート成分の方は投げ方を少し変えていて、これはダルビッシュさんが言う『ラリアット投げ』をしています」  達はテクノロジーを駆使して、自身のピッチングスタイルを作り上げている。多くの高校球児は指導者が言うことを悪い意味で鵜呑みにし過ぎてしまうところがある。それが時に思考停止につながるが、達にはそうした要素がない。もっともこれにはチームの理解があることも忘れてはいけない。チーム単位の練習に加えて、独自の取り組みがあるからできることだろう。  情報が溢れる現在、中・高校生がスマホを持つことの危険を口にする大人は少なくない。しかし、視聴率を目的とした確かではない情報を垂れ流すテレビ番組を当たり前のように受け入れていた時代の方がましだった、とは言えないだろう。情報は一方通行ではなくなった。その選別をする難しさはあるが、スマホでも使い方を間違えなければ、貴重な情報が簡単に得られる。達は情報のアンテナを張り巡らして、たくさんのことを財産としている。  彼の口からたびたび発せられるメジャー選手の特徴や、ダルビッシュ発言の捉え方を聞いていると、知り得ている情報に深さがあり、それら全てが彼にとっての成長要因となっているのだろうと感じる。  達について「メジャーへの憧れがある特別な選手」と一言で言ってしまえば簡単だが、達はただの憧れだけで夢を語っているのではなく、将来を見据えている。メジャーリーグの投手がなぜあれほどのピッチングができるのか。世界最高峰で勝つためには何が必要か。それを自分の中で理解している。その上で自分が何をすべきかを明確にして、常に高いところを目指している。高校球児にして、その領域に達したというわけである。 氏原英明 1977(昭和52)年ブラジル・サンパウロ生まれ。スポーツジャーナリスト。奈良新聞勤務を経て2003年に独立。2003年の夏以降、甲子園大会はすべて現場で取材している。著書に『甲子園という病』、執筆協力に菊池雄星著『メジャーをかなえた雄星ノート』がある。 デイリー新潮編集部

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