【中学受験・夏のメソッド】御三家「武蔵中」を目指した小6男児が「夏期講習」から逃げ出した理由 子どもの心が折れた時に必要なこととは

 中学受験を控えた小学6年生の夏。子どもに期待を寄せて夏期講習に通わせる保護者にとっても試練の夏になる。順風満帆には運ばない中学受験では、夏を越えて伸びる子もいれば、自信を失って心が折れてしまう子もいる。夏期講習の知られざる「落とし穴」について、教育問題に詳しいジャーナリストの宮本さおり氏に聞いた。  *** 【写真を見る】SAPIX、日能研、四谷大塚…大手塾も一長一短  夏休みとはいえ親御さんには仕事もあり、勉強をずっと見ていられるわけではありませんから、お子さんを夏期講習に通わせるご家庭も多いと思います。  親としては子どもが夏期講習に通ってくれて一安心と思うかもしれませんが、ここが「落とし穴」です。親とは逆に、子どもたちには普段よりもずっと重いプレッシャーがかかります。 中学受験は順風満帆には進まない  夏期講習期間は純粋に普段よりも塾に通っている時間が長い。それに加えて、特に小学6年生の夏は受験が近づき、周りの子との成績の差に悩むことになる。勉強が順調に進んでいない子からすれば、夏期講習期間中は勉強ができない劣等感に長い時間さらされ続けることになります。  私自身、様々なご家庭の中学受験事情を伺ってきましたが、こうしたプレッシャーに耐えかねて夏期講習を逃げ出してしまった子はひとりやふたりではありません。  例えば、私が取材した小6男児の話です。彼の母親は名家の出身で、政治家を輩出するようなエリートの家系でした。母親自身も小学校から大学の付属校ということもあり、子どもを自分と同じ道を歩ませてあげようという気持ちが強かったようです。  彼は小学3年生から日能研に入塾していましたが、成績は伸び悩み、塾では常に上から2番目のクラスで偏差値も50台。結局、入試まで1番上のクラスに上がることはありませんでした。 夏期講習をドロップアウト  そうした中、母親が決めた第一志望校はいわゆる男子御三家の武蔵高等学校中学校。学校見学もここしか行きませんでした。しかし、自分で決めた目標ではないため、さほどモチベーションも上がりません。小学6年の夏になっても息子の成績は期待通りに伸びていかない。夏休みに入り、夏期講習が始まっても状況はあまり変わりありませんでした。  塾は5年生、6年生と学年が上がるにつれて生徒数が増えていき、競争が激化します。そして受験が現実のものとして目の前に迫り、自分の実力をまざまざと見せつけられるのが小学6年生の夏期講習なのです。  ただでさえ親からのプレッシャーと伸び悩む成績に板挟みにされて苦しいところ、さらに夏期講習で自分と周りとの学力差を見せつけられて、ある時、糸が切れてしまった。彼は塾に向かったのはいいがどうしても夏期講習に足が向かわず、サボってしまったのです。これも彼なりのSOSだったはず。ところが、時間になっても来ない彼に気付いた塾からすぐ母親に連絡がいき、「なんで行かなかったの!」と頭ごなしにこっぴどく叱られたそうです。  まだ夏休みも序盤の出来事でリカバリーの余地はあったはずだったのに、親は彼に寄り添えませんでした。ちなみに彼の両親は、母親が熱心な教育家である一方、父親の方は中学受験に無頓着。完全に受験のことは母親任せで手を差し伸べてくれることはなかったそうです。  劣等感ばかり募るやり方で勉強をさせられてもうまくいくはずもありません。結局、夏休みを過ぎても彼の成績が上がることはありませんでした。そんな息子を見て焦った母親はさらに家庭教師をつけたものの、もはや後の祭りです。第一志望の武蔵は不合格となり、希望ではない土佐塾と滑り止めで受けた学校のみ合格になりました。 転塾という選択肢も  夏期講習という子どもにとってストレスが溜まる時期に、まず大前提として必要なのは子供への歩み寄りです。ただでさえ同級生からのプレッシャーを受ける時期に厳しい叱責をすると子どもを追い詰めることになってしまいます。  実は、先の男の子は進学後に中学3年生で自主退学しています。母親の方針で中学受験後にすぐさま高校受験に向けた塾に通いはじめ、やり場のないストレスがあったのでしょう。中学2年生の後半から数か月にわたり、標的にした同級生の腹を殴るイジメを繰り返していたのです。最終的に中学3年生の10月にイジメが明らかになり、自主退学をすることになりました。  親から追い詰められることで溜まったストレスが他者に向かうこともあるのです。  この男の子のように、夏期講習が子どもに合わないと気付いた場合には転塾を検討するのも一つの手だと思います。私が取材した別のケースでは、大規模塾で授業についていけなくなり同じように夏期講習に行けなくなってしまった小学6年生の女の子が、小規模塾に転塾して成績を持ち直したという例がありました。大規模塾だとどうしても偏差値至上主義に偏りがちで、その分成績が伸びなかったときに劣等感に苛まれやすい。思い切ってその劣等感を断ち切ってくれるような環境に身を置くことが功を奏すこともあるのではないかと思います。  中学受験が終わった後も人生は続きます。小学6年生の時期に成績が伸びなかったとしても、その後ずっと勉強ができないということにはなりません。親御さんにとって大切なのは、子どもが勉強と前向きに付き合っていくように手助けすることではないでしょうか。 デイリー新潮編集部

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