上司と部下、先輩と後輩、取引先、夫婦、親子……、いつも会話がすれ違うのは、じつは対話の様式が大きく違っているから。累計100万部超の「トリセツ」シリーズ産みの親が、満を持して書き下ろしたコミュニケーションの秘訣『対話のトリセツ ハイブリッド・コミュニケーションのすすめ』から、注目の章をご紹介！ 『「教訓」「うんちく」「悪口」はNG！いつのまにか部下に嫌われる「ダメな雑談」』より続く。 雑談が営業トークにおける魔法のスイッチ ここからは、営業トークにおける雑談ノススメである。 営業トークの皮切りに雑談が効くのは、営業畑の人なら誰でも知っている。その脳科学上の理由を述べておこう。 雑談は、相手の脳をヨコ型優先に換えてしまう。そして、購買決定はヨコ型回路でしてもらったほうが、断然いいのである。 たとえば、「駅前のアーケード、ハロウィン一色ですね」と声をかけられたら、駅前のアーケードの記憶を想起するはず。「最近、僕、猫を飼い始めまして」と言われたら、過去のなんらかの猫体験を思うはず（少なくとも、「猫」のイメージ画像くらいは引き出すはず）。つまり、「記憶からイメージを引き出して顕在化する」ので、ヨコ型回路が強制起動されるのである。 悩みがあったり時間に追われたりして、タテ型回路の「合理的な結果をすばやく手に入れたい気分」で店に入ったとしても、いったん、その気分をちゃらにして、心を寄せるヨコ型モードに変わってくれるのだ。 「さっさとカットして」モードで美容室に入って来たキャリアウーマンが、ふとした雑談でヨコ型に切り替わって「そのお薦めのトリートメント、してもらうわ」という気分になることもある。たとえ今日、その時間がなくても、ヨコ型回路優先だと、記憶に留めて帰ってくれるので、次にはトリートメント気分でやってきてくれる可能性も上がる。タテ型回路優先だと、その場でボツなら忘れられてしまうので、「心を残す」効果が期待できない。 会話におけるヨコ型回路とタテ型回路 ヨコ型回路は、記憶領域を自在に行き来しながら、相手の「ものがたり」や「気持ち」に感応し、好き嫌いでものごとを判断する。このため、開発者の思いや、「あなたにこそ、どうしても勧めたい」という営業パーソンの気持ちに感応しやすいのである。 対して、タテ型回路は、目の前の事実に意識を集中し、距離やベクトルを即座に認知する回路なので、「数字による比較検討」で購買決定する。したがって、性能やコスパがいいのが売りで、あきらかに数字で有利性のある商材ならば、相手にタテ型回路になってもらえばいい。その場合は、雑談よりは、「今日は、どうしても見てもらいたいデータがあるんです」と嬉しそうに本題に入ったほうがいい。ただし、「嬉しそうに」は必須。これは後で説明する。 さらに、ヨコ型回路は、記憶領域まで隈なく使って、直感で判断するので、決定満足度がとても高い。このため、コストパフォーマンスを厳しく追及したりしない。他の商品に目移りすることも少ない。そのうえ、誰かに話したくなる。 対面で営業する商材に、開発者や営業パーソンの思いがないわけがない。手をかけ、思いを込めているから、わざわざ人が売りに行くわけでしょう？　ならば、相手のヨコ型回路を立ち上げておかない手はない。 『一見の顧客に門前払いされないために…営業のオープニングトークで使える「雑談」のテクニック5選』へ続く。 【つづきを読む】一見の顧客に門前払いされないために…営業のオープニングトークで使える「雑談」のテクニック5選