「電子」といったら、何を思い浮かべますか？　スマートフォンやパソコン、電子メールや電子書籍…。確かにこれらは電子を利用していますが、ほんの一例。じつは、ほぼすべての現象は電子が引き起こしている、といっても過言ではないほど、電子は身の回りに満ちているんです！　そんな電子の不思議なふるまいや、多岐にわたるはたらきをとりあげた、『電子を知れば科学がわかる』（江馬一弘著、講談社ブルーバックス）から、読みどころを抜粋してお届けします！ ＊本記事は、『電子を知れば科学がわかる』（ブルーバックス）を抜粋・再編集したものです。 2つの“重い電子” 電子はそれ以上、細かく分割することができない、自然界の最小の部品である素粒子の1つです。実は、素粒子の中には、電子とよく似た性質をもつ“重い電子”ともいうべき素粒子が2つあります。それはミュー粒子(ミューオン)とタウ粒子(タウオン)です。 ミュー粒子とタウ粒子は、電子と同じ大きさのマイナスの電荷を帯びています。スピンの大きさも電子と同じです。しかし重さ(質量)が大きく異なっています。ミュー粒子は電子の約207倍の重さがあり、タウ粒子は電子の3500倍も重いのです。 ミュー粒子とタウ粒子、およびそれらの反粒子(電荷がプラスで他の性質は同じもの。)は宇宙由来の放射線(宇宙線)には含まれていますが、基本的には自然界にはほぼ存在していません。 それはこれらが非常に不安定で、すぐに壊れてしまう(崩壊してしまう)ためです。崩壊するまでの平均寿命は、ミュー粒子が100万分の2秒ほど、タウ粒子は10兆分の3秒ほどしかありません。 近年、宇宙線に含まれるミュー粒子とその反粒子を使って、物体を透視する「ミュオグラフィ」という技術が注目を浴びています。 物体の内部構造を推定できる「ミュオグラフィ」 レントゲンはX線を使って物体を透視する技術ですが、ミュオグラフィはそれと似ています。宇宙線由来のミュー粒子は物体を透過する能力が非常に高く、物体の密度などによってその透過のしやすさが変わるので、内部構造を知りたい物体のそばに検出器を置けば、ミュー粒子が検出された量に応じて物体の内部構造を推定できるのです（図「ミュオグラフィの原理」）。 2016年には、名古屋大学などの研究チームがミュオグラフィによって、エジプトのクフ王のピラミッドの内部にそれまで知られていなかった巨大空間を発見し、その成果が科学雑誌Nature で発表されました。 その他にも、火山の内部を透視して噴火の兆候を探る研究や、事故を起こした福島第一原子力発電所内の燃料デブリを透視する研究なども進んでいます。 磁石を半分に割り続けると、どうなるの？　断面が必ず新たなN極とS極となり、最終的には…その「意外な結末」