大阪・関西万博のパソナグループのパビリオンに、広島に投下された原爆の被爆者の遺品を３Ｄデータをもとに再現した２点の彫刻作品が展示されている。 　手がけた日米の現代美術家２人は「万博がテーマとする未来は、過去と切り離して考えることはできない」と話し、作品を通して被爆の記憶継承を訴える。（大槻浩之） 　展示されているのは、懐中時計（幅、奥行き３０センチ、高さ６０センチ）と万年筆（幅、奥行き２０センチ、高さ６０センチ）。米ニューヨークを拠点に活動するキャノン・ハーシーさん（４８）と東京で活動する藤元明さん（４９）が担った。 　２人は２０１９年から、広島平和記念資料館（広島市）が所有する被爆者の遺品の３Ｄデータをもとに彫刻作品や絵画を制作する活動を続けている。昨秋、パソナ側から制作を提案され、「多くの人が訪れる万博での展示は意義がある」（キャノンさん）と、引き受けた。 　今年初め、高解像度で遺品を撮影し、３Ｄデータをもとに富山県の工房で制作した。３Ｄプリンターで型を取ったアルミニウムの素材を手作業で磨いて細部を再現。見やすいように現物より大きくした。 　懐中時計は、原爆投下時刻の「８時１５分」で止まった針が浮き出て時計盤の中が溶けている。万年筆は爆心地に近い幟町（のぼりちょう）に残されていたもので、先が折れており、爆発の威力のすさまじさが伝わってくる。 　作品に懐中時計を選んだ理由について、藤元さんは「原爆投下は時の流れを止めたともいえる。８時１５分を指したままの針を見て、失われた時間が感じられるのではと考えた」と話す。 　キャノンさんは、広島の惨状を広く世界に伝えたルポ「ヒロシマ」（１９４６年）を発表したピュリツァー賞作家のジョン・ハーシーの孫。「社会に影響を与える象徴」として、万年筆を作品の題材にした。 　２人は今月１５日に初めてパソナ館を訪れ、展示を見た。キャノンさんは「過去を理解することなく、より良い未来を創造することはできない」と話した。 　広島平和記念資料館の石田芳文館長は「万博には世界中から様々な人が訪れる。作品の精度も高く、原爆の被害を考え、思いを寄せるきっかけとして意義があるのでは」と話している。作品は閉幕後の１０月、広島市内で展示される予定という。作品以外にもｉＰＳ細胞から作ったシート状の心臓の筋肉（心筋）など生命や未来の技術に関する展示を行っているパソナ館は入場予約を受け付けているが、予約なしで並ぶこともできる。