東京国立博物館で転売騒動 11月1日から東京国立博物館で開催されている「ハローキティ展」の初日、グッズ目当ての“転売屋”が殺到して大混乱に陥った。サンリオは翌日にはホームページで混乱を招いたことを謝罪し、一部グッズの受注販売を行うことを明言した。また、現地でのグッズの販売方法を入れ替え制とし、購入可能な時間帯を限定するなどの対策をとり、いったんの沈静化を見た。 【写真】巨大すぎるキティちゃんに見下ろされながら…ハローキティファンが押しかけた東京国立博物館の様子 騒動から数日経った11月10日に会場を訪れたが、建物の外まで行列は伸びていたものの、大きな混乱は起こっていないようだ。グッズが入った紙袋を手に、笑顔で歩く人の姿も目立った。今回のサンリオの対応は極めて迅速であり、ネットの反応もおおむね好意的である。ファンの間からも「神対応」「さすがサンリオ」と高い評価を得ることができているようだ。 上野公園に現れたハローキティ しかし、このような例はレアケースとみていい。転売対策が問題視されながらも、一向に対策が講じられていない現場は少なくないためである。長年のアイドルファンは、「あるアイドルの運営は、転売屋対策についてまったく本腰を入れていない」と嘆き、「ライブ後にはいつもグッズの転売が行われている。そのせいか、グッズが早々に売り切れる。数を増やすなど対策ができると運営に言っていますが、聞く耳を持ってくれない」と話す。 限定グッズ商法がやめられない理由 転売屋を巡る騒動はSNSでは日常的に起こっている。フリマサイトの普及に伴い、誰もが転売を行いやすくなったことが、転売屋の増加に拍車をかけているといわれる。ただ、転売屋が責められる一方で、運営側の責任も大きいという意見もある。というのも、限定グッズを巡り、騒動が発生するのは今回に限ったことではないからだ。 当日買えなかったファンから批判が巻き起こった結果、運営側が謝罪、受注販売を決めるという流れは、もはやお決まりのパターンとなっている。その都度、ファンの間から「過去の失敗から学べばいいのに、業者間で情報の共有がされていないのか」「最初から受注生産にすれば解決するのに」といった厳しい意見が飛ぶ。 おそらく、ファンの理解をもっとも得やすい転売屋対策は、グッズを受注販売やネット販売に切り替えることである。例えば、イベントのチケットにシリアル番号を印刷し、来場者が後日ネットでその番号を入力、購入できるようにするなどいくらでも方法はある。しかし、最初からグッズを受注販売にしているイベントは稀である。 会場限定にしたほうが旨味がある なぜ、批判が寄せられながらも、運営側は受注販売の形式を取らないのか。結局、会場限定販売にしたほうが、運営側に旨味があるためだ。限定商法を止められない理由はそこにある。運営がその会場でしか買えない限定グッズを作りまくって乱売しているのだから、転売屋が出現するのは当然なのである。 筆者の知人の芸能マネージャーで、アイドルを担当するT氏は、「会場の空気感だからこそ、人は高揚感を抱き、購買意欲を掻き立てられる」「最初から受注販売やネット販売をしてしまっては、そこまでの売り上げが見込めるとは思えない」と語る。 近年のライブやコンサートは、グッズ商法に力を入れている。入れすぎている、と表現したほうがいいくらいだが、T氏は、「うちは正直、グッズ販売があってトントンという感じ。アイドルは飽和状態で懐事情はどこも厳しいはずだから、限定販売は止められない」と運営側の苦しさを語る。 また、すべて受注販売にすべきという意見がある一方で、会場でグッズを買うことも含めてイベントであり、取りやめてほしくないという要望も寄せられるそうだ。「ファンの間からでもいろいろな意見が出るので、どうすればいいのかわからない。結局、トラブルが起こったときに、その都度、対応していくしかない」と、運営側も苦労が絶えないようだ。 売れるかどうか、蓋を開けてみないとわからない その一方で、アニメ系のイベントにも関わることが多い大手出版社の編集者は「限定グッズは騒動が起こってはじめて問題視されるものの、売れるかどうかは蓋を開けてみないとわからない」「だから、なんでもかんでも受注販売にするのは現実的ではない」と語り、イベントにおけるグッズ販売の難しさを吐露する。 「私の経験からすれば、すべてのイベントで転売屋が発生しているわけではないし、混乱が起こっているのはごくわずか。むしろ、グッズが売れずに在庫を抱えてしまったパターンは、人気漫画の原画展でも少なくない。現在はコンテンツの消費が早いので、グッズが売れ残るケースのほうが実際は多いと思います。はっきり言って、売れるかどうかは運営側も予測不可能。蓋を開けてみないとわからないのです」 編集者は、「転売屋対策をしっかりしているかどうかが、ファンのコンテンツに対するイメージを決定づけたりするので、対策は急務」としながらも、過剰に生産すると在庫を抱えるリスクは常にあり、また、転売屋“対策”に割く労力が運営側にとって大きな負担になっていると打ち明ける。クレームが殺到すると、さらに負担が増える。 「かつてはファンサービスだったはずのイベントは、巨大な売り上げを生み出すメインコンテンツになっているので、対策が必要だという意見もわかります。ただ、人材不足もあって対策がとれていないのが現状だと思いますし、同じ悩みを抱えている運営は多いのではないでしょうか」 同じトラブルは今後も繰り返される 転売問題はこれからどうなるのだろうか。推し活を煽る社会的な風潮もあり、完全になくすことは難しいという意見がある。社会人であれば、イベント開催日に必ず休みを取れる人は稀であろう。そういった人はSNSでは転売屋をバッシングしながらも、実はフリマサイトでひっそりと転売屋から限定グッズを購入していたりするものだ。背に腹は代えられない、わけである。 また、イベントは何かと地方民にとって不利な面が多いが、インバウンドの増加などに伴って都市部のホテルは高騰が続いているのも頭が痛い問題だ。地方在住者は容易に旅行ができなくなっている。そのため、多少の金額を上乗せしても、「転売屋から買ったほうが安い」というジレンマに苦しむ人がいる。こうした隙間を突いて利益を得ているのが、転売屋というわけだ。 運営側も、転売屋とファンの板挟みになって苦しんでいるのは事実のようだ。前出の芸能マネージャーは、「同じトラブルを繰り返しているように見えるかもしれませんが、運営も手探り。地方のファンからは“うちの町にもライブに来てほしい”というリクエストは常にありますが、うちの集客力では現実的ではないのも事実ですし…」と話す。運営にもファンにもメリットがあるような、最適解が見つかることを願いたい。 ライター・宮原多可志 デイリー新潮編集部